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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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099 探検者の帰還 2

 時間は数分(さかのぼ)る。日は傾きかけているものの夕方というにはまだ早い時間。


ガラガラッ、ピシャン!


 宿屋の正面扉がけたたましい音を立てて開かれた。食堂の奥の方でテーブルを拭いていたミランダはその音にピクリと耳を動かして顔を上げ、戸口の所に両腕を広げて――両開きの障子張り扉を引き開けたポーズのまま――立っている男を認めて内心ため息をついた。


(そうか。この者達は今日戻るのであったか)


 歳は二十歳そこそこ、百七十センチ程の背丈に革鎧を着け、やや長めの茶色の髪をオールバックに撫で付けたその男は、そのままコツコツとブーツを鳴らしてカウンターへと近づいた。男に続いて似たような格好の四人の男達が戸口をくぐる。そのさらに後、彼らに付いてきたらしい里の者が何人か入ってきた。


「アドレー一行、只今戻りました!!」


 カウンターの前まで来たアドレーはピシリと気をつけの姿勢を取ると、()しっぽ(・・・)を揺らしてそう宣言した。


「おかえりなさい、アドレーさん達」


 中にいたサニアが彼らを迎える。が、アドレーはすぐにサニアから目を離してキョロキョロと室内を見回した。じきにその視線が一点で止まる。


「おお、ミランダ姫様におかれましてはご機嫌麗しゅう。アドレー、只今戻りました」


 右手を胸に当て左手を横に出して大仰な礼をする。そ知らぬ顔でテーブル拭きを続けていたミランダはもう一度ため息をつくと身体を起こし、片方の眉を上げてアドレーを振り返った。


「機嫌はたった今悪くなった。とりあえず、おかえりとだけは言っておく」


「有難きお言葉。このアドレー、此度(こたび)の探検を終え、さらなる成長を遂げて参りました。ささ、いざ勝負勝負」


 アドレーの言葉に、ミランダの眉の角度は上がり眉間にシワが刻まれる。


「そう簡単に成長してたまるものか。勝負はともかく、戻ったのであれば先にすべきことがあるであろう」


「おお、これは失礼をば。それではそちらを片付けて参りますので、しばしお待ちください」


 (まなじり)を吊り上げるミランダを置いて、アドレーはサニアに向き直った。


 ミランダが言ったように、探検から戻った探検者(エクスプローラー)にはすべきことがある。それは門の番人(ゲートキーパー)たる宿屋の亭主または女将への現状報告と、探検で獲得した物の処分や処理である。


 特に、巡った区域の現状についての情報は里を守る者にとっては重要である。危険な動物の増減や自然環境の変化など、里に住む者の命に係わる場合があるからである。一方の獲得した物に関しては、毒物等でない限り命に係わることは少ないが里での暮らしや経済に影響が出るので、こちらも軽視するわけにはいかない。


 アドレーが彼らの主な活動範囲であるナザールの里の西側についての報告――今回は特に変化なしであった――を行い、彼の仲間達が手に入れた物を引っ張り出している間に、彼らと一緒にやってきた里の者達は一脚のテーブルを店の真ん中に移動させ始めた。それを見ているミランダはやめさせようとこそしなかったものの、不機嫌そうな表情は崩れることがなかった。


 ◇


 ミランダは、報告を終えたアドレーとテーブルを挟んで対峙していた。


 宿屋に戻った探検者(エクスプローラー)が報告などの後にすることと言えば、大抵の場合は飲むか食うか寝るかである。その辺りは普通の仕事に就いている者が帰宅後にすることと似たようなものであった。


 しかし、アドレーにとってはそれより重要なことがあった。彼がこの里で探検者(エクスプローラー)をやっている理由でもある。


「今日こそ貴女を超える」


「そんな急に成長などできるものではないというのがまだ分からぬか、貴殿は」


 二人が腰をかかめ、腕まくりをした肘をテーブルについて互いの手を握り合った。嬉しそうな様子を隠さないアドレーと不本意だと言わんばかりのミランダ。握り合った手の上に、テーブルの脇に立つサニアの手が置かれる。


「なあ、どっちが勝つと思う?」


「賭けるか?」


「それ、賭けにならんだろう」


「分かってるんじゃないか」


 無責任な観客のヒソヒソ話にしては大きな声が二人にも聞こえてくる。アドレーが表情を硬くし、ミランダは緩める。


「いい? 行くわよ。用意……始め!」


 掛け声と共にサニアの手が離された。力の入った二人の腕が膨らみを増す。一瞬の拮抗。


ダンッ!


 アドレーの手の甲がテーブルに叩きつけられた。彼はそのままガクリと膝を床についた。


「ああ~」


「やっぱりなあ」


「アドレーさん、もうあきらめなよ」


「いや、まだだ。差は縮まりつつある。次こそ勝ってみせる!」


 周りから上がる声に、膝をついたままのアドレーがクワッと顔を上げて答えた。それを見たミランダはまたため息をつく。


――私より非力な者の挑戦など受けぬ


 そう言った過去の自分に言ってやりたいとミランダは思った。回数制限を忘れるな、と。


 こうして、もう何度目かの「婚約するための試合の挑戦権を得るための力比べ」は今回もミランダの勝利に終わった。

マリコは賑やかだなあ、とか思いつつ検算を続けています。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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