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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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098 探検者の帰還 1

 ようやく起きたミランダと共にマリコは食堂へと向かった。二人が食堂の後ろ側の扉を開けた途端、中にいたサニアがあわてて駆け寄ってくる。


「今ここへ顔を出してはだめよ」


 サニアは小声でそれだけ言うと二人をそのまま廊下へと押し戻した。自分も一緒に廊下へ出ると、扉を閉めてふうと息をつく。


「何事だ、サニア殿」


「ああ、ごめんなさいね二人とも。実はね……」


 サニアの話によると、昨日マリコの料理を食べたあるいは話を聞いた者が、今日もそういった物がでるのではと期待して来ているとのことだった。朝は簡単なメニューであることがほとんどである上、買い物に出掛けるところも目撃されていたので特にそういう話にもならなかった。しかし、しばらく前に戻ってきたのも見られているので、なら昼はどうだろうと考えた人がいるらしい。


「でね、仕方がないから来た人達には、今日のマリコさんはお休みで夕方に手伝いに出てくるくらいって言っちゃったのよ。だから今出てこられるとちょっとね」


「ああ。でも、今日戻る予定の探検者(エクスプローラー)の方はどうなったんですか?」


「まだね。帰ってきてたらそっちの話で一騒ぎあるだろうから、逆に料理うんぬん言う人は減るわよ。……いえ、出るお酒も増えるから酒の肴の話だとどうかしらね」


 探検者(エクスプローラー)が戻ると大抵は獲物や土産話で盛り上がることになる。(パーティー)にもよるが、酒盛りに突入することも珍しくはなかった。


「まあ、そういうわけだからマリコさんは今食堂に入らない方がいいわ」


「ではどうしましょう?」


「女将の部屋へ行ってくれるかしら。ほら、昨夜言ってたレシピの書き出しをして欲しいのよ。なんだか今日にも必要になりそうだし。女将にそう言えば、書くものを出してくれるわ」


 ミランダは特に問題ないのでそのまま残り、マリコはまたタリアの執務室へ戻ることになった。


 ◇


 マリコは今、数字と格闘している。


 少し前、再びタリアの執務室に入ったマリコは、探検者(エクスプローラー)(パーティー)がまだ戻っていないことやサニアの言葉をタリアに伝え、紙とペンを出してもらった。応接セットを作業場所に借りてレシピの書き出しをしていく。から揚げにしても焼き鳥にしても、材料や基本的な調理法はさして難しいものではない。マリコは調理上の注意点やコツといったことを思い出せる限り書き込んでいった。


 途中、ミランダが配達してくれた昼食をタリアと食べたりしながら、マリコがレシピを書き終えて伸びをした時、タリアが自分の前に積んであった帳面の一冊を見せながら聞いてきた。


「これがどういう物か分かるかい?」


 日付、内容、単価、数量、収入金額、支出金額、差引、累計。それぞれのページには文字と数字が紙面一杯に並んでいる。書かれた数字はアラビア数字だった。なぜか二桁ごとにカンマがついている。タリアに聞くと、銅貨、銀貨、金貨の区分でつけられているという答えだった。


「これ、出納簿じゃないんですか」


「おや、分かるかい」


「分かるかい、じゃありませんよ。いいんですか、私にこんな物を見せて」


「何がいけないんだい?」


「何がって、ええと、こんな何だかよく分からないヤツに……」


「今のあんたはうちの者だろう。違うかい?」


「それはそうですが……」


「じゃあ、問題ないね。うちの者がうちの家計を知ってて何が悪いんだい。それより、あんた計算も少しはできるって言ってたろう。それの計算は分かるかい?」


 マリコは改めて書類に目を落とした。簿記のような専門知識はないが、そこに書かれているのは単純な数字の足し引きである。マリコが分かると答えるとタリアはほっとした顔で頷いた。


「それの計算が合ってるのかどうか、検算してもらえないかい? 一人でやってるとどうしても見落としが出るもんでね」


「え、一人でやってるんですか」


 自分の経験からこういったチェックは複数でやるものだと思っていたマリコは思わず聞き返した。


「いや、最後までには誰かに検算してもらうんだがね、皆なかなか手が取れない上に敬遠するもんだから、今ちょっと溜まってるのさね」


 タリアは机の上に積まれた帳面をポンポン叩いた。


「……分かりました。お手伝いします」


「助かるよ。間違いがあったら書き出しておいておくれ」


 使用済みの紙を切ったものらしいメモ用紙が渡される。マリコはそれを受け取ると帳面を開いた。


(なになに、これは食料品関係の集計か)


 マリコは頭の中でソロバンを弾き始めた。これも祖母に習ったことの一つである。検定試験を受けたことはないので級やら段やらは持っていない。そこそこの桁の四則演算ならなんとかなる、というレベルである。猛然と数字を追うマリコに、タリアは目を見張った。


 計算を進め間違いを見つけては書き出しを繰り返し、マリコが何冊目かの帳面を手に取った時、部屋の外からざわめきがかすかに聞こえてきた。建物の奥にある執務室まで聞こえるのだから結構賑やかなんだな、とマリコが思っているとタリアが口を開いた。


「どっちかの(パーティー)が戻ったみたいだね」

サブタイトルが詐欺気味です><

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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