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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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096 探検者の証 3

 灯り(ライト)(ウォーター)といった魔法を使う時に身体から流れ出ていくモノ、即ち魔力。それを魔法を使うことなく、摘んだ指先から直接魔晶に流し込む。突起の先端に触れることでそこから流れ出て来ようとする魔晶の魔力を押し返して、逆に自分の魔力を魔晶の内部へと詰め込んでいく。それが魔晶に魔力を補給するということだった。


 文章にするとややこしいが、結果から言うとマリコが魔晶に魔力を補給するのはさして難しいことではなかった。マリコが改めて先ほどの新しい魔晶を注意深く摘んでみたところ、魔晶から流れ出ようとする魔力の圧力と総量を把握することができたのである。その感覚を元に、タリアが並べた数種類の魔晶をそれぞれいくつか補給したところで、マリコはすっかりその作業に慣れてしまった。


「驚いたね。そこそこ魔力のあるヤツなら大抵はできるからあんたにもできるだろうとは思っていたけど、もうできるようになったのかい。しかもその速さで。本当にあんたはいろいろと不思議だねえ」


 次々と魔力補給をしていくマリコを見て、タリアが呆れた声を上げた。


「ええと、触ったところでどれだけ入るか大体分かる気がするので、その分を押し込んでる感じですね」


(多分、何かの常時発動型(パッシブ)スキルが効いてるんだろうな。こういうのを理解できるスキルだと、魔法理論(マジックセオリー)辺りだろうか)


 タリアに答えながらマリコは原因を考えていた。ゲームでの魔法理論(マジックセオリー)は魔法に関する知識と理解、という名目のステータス上昇系スキルである。スキルレベルを上げることで知識と理解を深めたことになり、実際の効果としてはMPと知力が上がる。


 魔法を使うキャラクターが取得しておくべき基本的なスキルの一つとされていたものである。当然「マリコ」も取っており、「マリコ」の魔法理論(マジックセオリー)のスキルレベルは回復系と並んで最高の二十まで上げてあった。これが実際に「知識と理解」として働いているのではないかとマリコは思った。


「まあ、その感覚でやれば、火矢(ファイアボルト)の加減もじきにできるようになるさね」


「え? ああ、確かにそうですね」


 今朝の事をタリアに言い出されたマリコは少し考えて納得した。火矢(ファイアボルト)を始めとするゲームで使っていた魔法も、こちらのルールに則った使い方ができる可能性はある。


(ただ、もうちょっと周りに被害を出さない魔法で練習しないといけないな)


 何で試すのがいいだろうかと、魔晶への魔力補給を続けながらマリコは考えた。


 ◇


「さて、魔力補給ができるようになったところで、一つあんたの仕事の話だよ」


「仕事、ですか」


「ああ。まあ、あんただけじゃなくて、ここに住んでる魔力補給ができる者皆の仕事なんだがね。ここにある、探検者(エクスプローラー)(あかし)の魔晶の魔力を切らさないようにすることさね」


 タリアはそう言うと、棚からまた自分の(あかし)を取った。


「魔晶の魔力が減ってくると白くなってくるのは分かっただろう? だから、もし減ってるのを見かけたら補給するか交換するかしてほしいんだよ。ほら、ここから魔晶が見えるのが分かるかい?」


 (あかし)の台を指差して見せる。マリコが改めて見ると、台座部分の木彫り模様には穴になっているところがあり、後ろ側からはまっている魔晶の一部がそこから見えているのが分かった。そうと言われないと飾りの水晶か何かがはめ込まれているようにしか見えないデザインになっている。


「普段は主に私が見てるからね。毎日じゃなくていいから、私がいない時にこの部屋へ来ることがあったら気にしておいておくれ。この中に予備の魔晶も入ってるから、これももし減ってるのがあったら補給しておいてくれるとありがたいね」


 自分の(あかし)を棚に戻しながら、その横に置いてある小箱を指してタリアは言った。


「分かりました」


 魔力切れで作動しませんでしたでは済まない話である。マリコは神妙に頷いた。


「ああ、当たり前過ぎて一つ大事なことを言うのを忘れてたよ」


「なんでしょう?」


 マリコが聞き返すと、タリアは表情を改めてマリコを見た。


「もし、誰かの(あかし)が割れているのを見つけたら、何を置いても私に知らせておくれ。いいかい、何を置いても最優先で、だよ」


「それは……」


 (あかし)が割れるというのは、その人の死を意味する。探検の途中で死者が出る、という意味をマリコは考えた。


「ああ、そういうことだよ。そうなったら大抵は、同じ(パーティー)の連中も危ない状況にあるってことさね。その時はすぐに捜索の者を出すからね。里の近くは里の者に、ある程度から先はその時ここにいる他の(パーティー)に頼んでね。場合によってはここをサニアに任せて私も出る。死んじまった者はどうしようもないにしても、他の連中は間に合うかもしれないからね」


「分かりました」


 マリコはさっき以上に神妙に頷いた。


「そこまで気合いを入れなくてもいいから、今は覚えといてくれりゃいいさ。今のここの周りじゃ、滅多にあることじゃないさね。それでも何が起きるか分からないのが人の生ってもんでね」


「ふう、……はい」


 表情を固くしたマリコに、タリアの方が雰囲気を和らげて言い、マリコは詰めていた息を吐いて肩の力を抜いた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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