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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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095 探検者の証 2

「ほれ、これをご覧」


 タリアは手の平を開いて、取り出した物をマリコに見せた。そこには魔晶が二つ乗っている。どちらも(あかし)にはまっていたのと同じ大きさの物だ。ただし、その二つには明らかな違いがあった。


「透明な魔晶と白い魔晶ですか」


 一つはガラスの様に透き通っているのに、もう一つは中が真っ白に曇っていた。形も大きさも同じだが、色だけが違う。


「この二つはどうして色が違うんですか?」


「ああ。じゃあまずこっちをこう持ってごらん」


 タリアは右手の親指と人差し指を白い方の魔晶の両端にそれぞれ当てて摘み上げて見せた。


「こうですか?」


 そのまま手渡されたマリコは、左手に乗せたそれを右手で同じように摘んで見せる。


「何か感じるかい?」


「え? いえ、特に何も」


「じゃあ、こっちはどうだい?」


 白い魔晶をタリアに返し、代わりに渡された透明な方を同じように摘む。


「えっ!?」


 摘んだ瞬間、パリッと静電気のような小さな刺激が走り、マリコは反射的に魔晶から手を離した。放り出された魔晶が小さな放物線を描く。


「あっ!」


 マリコは思わず左手を伸ばして、空中でそれをキャッチした。


「ふう、落とすかと思った。タリアさん、今のは?」


「先にお前さんが握りしめている物を見てごらん」


「え?」


 マリコは手をそっと開いて魔晶を見た。先ほどまで透き通っていたはずのそれは、ごくわずかだが白っぽくなっている。


「今あんたが持っているそれは、狩った魔物から採ったまま置いてあったやつでね。そのままじゃ使えないんだよ。それをさっきみたいに触るとちょっとピリッときて、使えるようになるってわけさね」


「透明な魔晶は新品ってことなんですか」


「まあ、そういうことになるね。これは素手でやらないといけないんだよ。だからどうしたって人の魔晶は使えないんだよ。触ると消えるからね」


「そうだったんですか。安心しました」


 魔晶を目的に人を殺しても意味が無い。それがはっきり分かってマリコは安堵の息をついた。


「それより、今持ってるそれをもう一回こう持ってごらん」


 タリアは手の指で魔晶を摘むマネをする。マリコは頷いて再度それを摘んだ。するとマリコの指先に、昨日から最早お馴染みになってきた感覚がある。


「これは……」


(魔力が流れ込んできている? いや、本当に流れ込んできてるわけじゃないな。押し込もうとしてくるような感じだ)


「分かるかい? それが魔晶の魔力の感覚なんだよ」


「じゃあ、さっきの真っ白な魔晶の時に何も感じなかったのは……」


「ああ、中の魔力が残ってなかったからさね。魔晶は中に溜まっている魔力が減るとだんだん白く曇っていくんだよ」


 タリアの話を聞いたマリコは一つ疑問を感じた。


「空っぽになった魔晶はどうするんですか?」


「それも今から教えてあげるよ。見ておいで」


 タリアは先ほどの白い魔晶を摘んで目の前に持ち上げると目を細めた。タリアが少し身体に力を入れたのがマリコにも分かった。


 ほんの数秒後であっただろう。タリアが無言でそうしていると、真っ白だった魔晶の曇りが少しずつ薄くなり始めた。


「えっ、もしかして……」


 マリコが見守る前で、魔晶の曇りはどんどん薄くなっていく。程なく、白かった魔晶の曇りはごくわずかになった。先ほどマリコが摘んだ新しい魔晶のわずかな曇りとほとんど見分けがつかない。


「こうやって魔力を注ぎ込んでやれば、また使えるのさね」


 摘んでいた指を放してタリアが言った。


(乾電池どころか充電式だったのか。そういえば昨日、冷蔵庫にも魔晶が組み込んであるってサニアさんが言ってたな)


「昨日タリアさんが言ってた、冷蔵庫に魔力を補給するっていうのはこういうことだったんですね」


「ああ、さすがに冷蔵庫だと組み込まれてる魔晶の数も多いんでね。一個一個やるのは大変だから、まとめて補給できるようになってるね」


「でも魔力を補給してまた使えるなんてすごいですね」


 ゲームの魔晶は使うと無くなる消費アイテムで、ここまで便利なものではなかった。また、実際に魔力そのものを何かに移し替えるという行為自体が珍しく、マリコは素直に賞賛の声を上げた。


「何を気楽なこと言ってんだい。あんたにもやってもらうんだから感心してるだけじゃ困るんだがね」


「ええ!?」


「冷蔵庫なんかもそうだけど、ここにある(あかし)にも魔晶が使われてるのは見たね?」


「はい」


「あれがもしもの時に魔力切れで動かなかったりしたら困るのは分かるかい?」


「分かります」


「あれも含めて、宿の魔法道具に魔力を補給するのは宿で暮らす者の務めだってのも分かるかい?」


「はい」


「あんたが今住んでるのはどこだい?」


「……ここです」


「じゃあ、あんたにもやってもらうってことは問題ないね?」


「ありません……けれど、魔力の補給はやったことがないんですが」


 仕事自体にはマリコも特に異存はない。ただ、方法が分からないので困るのである。


「大して難しくはないよ。簡単に言えば、自分の魔力を押し込むように移すってだけだからね。火矢(ファイアボルト)が撃てるんだから、感覚さえ分かれば問題なくできるさね」


「分かりました」


「じゃあ早速行くよ。自分の魔力を押し込むって言ったけどね、何でもムリヤリ押し込めばいいってもんじゃなくて、魔晶が押してくる感じに合わせて……」


 新たな白い魔晶が取り出され、タリアによる魔力補給講座が開始された。

2015/09/11 ゲームには魔晶が無かったような表現になっていたのを修正しました。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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