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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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094 探検者の証 1

「ちょっと話がそれちまったね」


 タリアはそう言うと、自分の名前の書かれた探検者(エクスプローラー)(あかし)を手に取った。


「まあ、そんなわけだからね、探検者(エクスプローラー)が帰って来なかったら探しに行くんだよ。死んじまったらさすがにどうしようもないけど、(これ)が無事である間は少なくとも生きてる。生きてると分かってる仲間を、私達は絶対に諦めてやったりしないんだよ」


 (あかし)を手にしたタリアはそう言った。それは気負いも何もないごく穏やかな口調だったが、マリコにはタリアの本気が感じ取れた。生きてさえいてくれたら何とでもなる。タリアの目がそう言っていた。


「それが私に見せたかった物ですか……」


「これも、だね。ほれ」


 タリアの(あかし)がマリコに差し出された。


「私が触っても大丈夫なんですか?」


「変な事を言うね」


「いえ、本人が亡くなったらこれが割れるのなら、うっかりこれを壊したらタリアさんが怪我をしたりするんじゃないかと思いまして」


 この手の身代わりアイテムや呪いのアイテム――丑の刻参りのワラ人形とか――はファンタジーやホラーの定番である。見た目が位牌ということもあって、マリコは気になっていたことを口にした。


「何でそんな事を思いついたのか知らないけど、これは単に本人の無事を伝えるだけの物だから、これが壊れたって何も起きやしないよ。ほれ、いいから手に取って見てごらん」


「はい……」


 マリコはタリアの証を受け取った。やはり白木でできているように見えるそれは、年月を経てきたせいかやや茶色っぽくなっており、表には黒でタリアと名前が書かれている。マリコは次にそれを裏返して見た。そこには同じく黒で日付が書かれていた。


「それは私の誕生日さね」


「誕生日……、あれ?」


 位牌の裏には命日や俗名が書かれることが多い。ますますそれっぽいなと思っていたマリコだったが、証の足の部分にはまっている物を目にして声を上げた。そこには、中が少し白っぽく曇った、透明な円柱状の物がはめ込まれている。長さは五センチほどで、太さはマリコの人差し指くらいだろうか。


「気が付いたかい? その台座の後ろにはまってるのが魔晶さね」


「こ、これが魔晶なんですか!?」


 昨日サニアに聞いた、冷蔵庫に組み込まれている魔力の供給源が魔晶である。サニアの話から、てっきりゲームの物のような水晶球や宝珠といった球形の物を想像していたマリコは驚き、改めてしげしげとそれを見た。片方の端に突起の付いた、細長い小さな円柱である。材質はともかく、その形はマリコのよく知るある物によく似ていた。


(単三乾電池……?)


「大きさは何種類かあるんだけどね、それは三型って呼ばれてる魔晶さね」


「三型? それはもしかして一型や二型もあるんですか」


「おや、よく分かったね。三型(それ)より大きな一型や二型、もっと小さな四型や五型もあるね」


(やっぱり電池かこの形!? この世界は一体どうなってるんだ)


 マリコは言葉を失って目を瞬かせる。ゲームにも魔力を帯びた武器や服などはあったが、魔力を動力に使う道具などは無かった。故にその魔力源に魔晶を使うこともゲームではありえなかったのである。


「魔晶は動物や魔物の体内から採れるのさね。大抵は心臓の近くにあるから、狩りに行ったら取り忘れるんじゃないよ。うっかりすると本体より魔晶の方が高値だったりするからね」


「これ、動物から採れるんですか!? え? でも、昨日の鶏にはそんなものありませんでしたよね?」


 マリコは驚くと同時に昨日の料理を思い出して言った。内臓を処理した時にそれらしき物があった記憶は無い。


「ああ、それかい。何故かは分からないけど、人が飼って育てた動物からは魔晶が出ないんだよ。神様がそういう風にしてあるんだろうって言われてるけどね」


「飼育した動物からは出ない……」


 タリアの言葉を聞いて考えていたマリコの意識に、また一つ恐ろしい疑問が浮かんだ。


「じゃあ、タリアさん。人にも魔晶があるっていうことですか」


「すぐにそこへ行き着くかい。流石だねえ。……あるかないかだけで言えば、ある」


「それは……」


 マリコが思い至った恐ろしい可能性。それは、魔晶を目的に人が人を殺すということだった。


「話は最後までお聞き。人にも魔晶があるにはある。でもそれは使えないんだよ」


「え? 使えない?」


「ああ。流石(さすが)に私も直接見たことはないんで聞いた話だがね」


「はい」


「魔物に食い殺された人の身体から魔晶がこぼれ出ることがある。だから人にも魔晶があるっていうのは確かなんだよ。だけどね、人の身体から出た魔晶はね、人が触れると消えちまうんだそうだ」


「消える?」


「ああ、人の手が触れた途端、煙のように消えてなくなるんだそうだよ」


「でもそれなら直接触らないようにすれば消えないんじゃないんですか?」


「それはそうかも知れないね。マリコ、あんたが何を怖がって食い下がってるのかは分かってるつもりだから安心おし。それはただ消えないだけでやっぱり使えるわけじゃないんだよ」


「それはどういうことでしょう?」


「人の魔晶の話は予定外だったんだけどね。元々するつもりだった魔晶の話の続きだよ」


 タリアはそう言うと自分のアイテムボックスを開いた。

魔晶採集の様子は『間章 探検者達』に出ています。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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