093 探検者の仕事 2
「タリアさん、一つ聞きたいんですが、探検者達だって里の者っていうのはどういう意味なんでしょう?」
今の話で気になった部分をマリコは聞いた。
「逆にこっちが聞くことになるけど、里の者じゃないって思ったのはどうしてなんだい?」
「探検者は旅人みたいなもので、ずっと同じ里にいるわけでないと思ったんです」
「そういうことかい。じゃあマリコ、あんたは探検者をどんなものだと思ってるんだい?」
「ええと、文字通り「探検」を仕事にしている人達じゃないんですか? いろんな所に出掛けて、魔物退治をしたり森やダンジ……いえ、洞窟などに分け入ってそこで手に入れた物を売ってお金にするんですよね」
タリアの質問に対して、マリコはあえてゲームでの冒険者がやっていることの説明を返した。「冒険者」という言葉を口にしても、それは逆にタリアには何のことか分からないと思ったからである。
「確かにそういうところもあるね。でもそれだけじゃないのさね」
「それだけじゃない?」
「新しい門が見つかった時にどうするか、覚えてるかい?」
マリコがその話を聞いたのは一昨日のことである。さすがに覚えていた。
「門の発見者が番人になって、宿屋を建てるんですよね」
「そうさ。でも、その前にやらなくちゃならないことがある。門の周りの危険なものを把握するなり取り除くなりして、そこそこ安全にしなくちゃいけないのさ」
「それは確かにそうですね。それで探検者ですか」
新たに見つかった門の周辺に何があるのか。それは、門を発見した門の探検者自身が通ってきた道筋以外はほぼ未知であることがほとんどだった。そんなところにいきなり大工などの職人を送り込むわけにはいかない。
「そういことさね。それでも何せ新天地、転移門からそう離れずに誰もまだ見たことのない所を探検できるだろう? たくさんの探検者が集まって、ちょっとしたお祭り騒ぎだったね」
ナザール門が見つかった頃を思い出し、タリアはそう言って少し遠くを見るような目をした。
「で、そうやって宿ができるところまで行って一段落したら、もう探検者は要らないかい?」
「ええと、そんなことにはならないですね」
里が最低限の形を整えたからと言って、周囲が安全になるわけではないのだ。対処できる者がいないと困ることになる。
「そうだろう? だから、何組かの探検者はそこに通ってきたり拠点を移してきたりすることになるのさね。その拠点っていうのはどこになると思うんだい?」
「宿屋……、ああ、そういうことですか」
マリコはサニアの言っていた「私が小さかった頃は、まだ皆ここに居た」というセリフや見守る会の人達の様子を思い出した。宿に「住んでいた」者達の家族然とした様子を。探検者だけが例外であるはずがないのだ。
「分かったかい。そりゃあ、探検者だからね、自分の目的や力量に合わせてよそへ移っていくこともあるさね。でも、そのまま自分の家を建てて住み着いちまうヤツだって珍しくないんだよ」
「皆ひっくるめて里の者なんですね」
「そういうこったね」
「では、例えば今日帰ってくる人達ってどんなことをしているんですか?」
探検者も里の者と言うタリアの言に納得したマリコが次に気になったのは、彼らがやっていることだった。
「どんなこと、かい。うちの里がまだ新しい小さい里だっていうのは分かるね?」
「はい」
「一応周りを壁や柵で囲まれてるったって、その外はすぐ森だったりするんだよ。そこからしょっちゅう大きな動物なんかが里に入ってきたら困るだろう?」
「そうですね」
「そうならないように外側を巡って狩りをするんだよ。これは先々里を広げる時のための準備にもなるからね。他には洞窟に入って素材を集めたり、さらに外側の誰も行ってないところまで足を伸ばして何があるか確かめたりしてるはずだね」
(そういうところはほとんど冒険者そのものなんだな。それプラス調査員っていう感じかな)
動物や植物の分布状況や根絶やしにしてしまっては困るものの情報の重要性はマリコにも理解できた。絶滅させてしまってからでは遅いのである。
「全部の組が里の周りをぐるぐる回ってるんですか?」
「いいや。本人達の力量や得意不得意なんかもあるからね、こっちの方はこの組、みたいに大体の方向で分かれてるはずだね」
(担当地区みたいなものがあるのか。ますます調査員っぽいな。一体どんな人達なんだろう)
マリコは、自分の中の探検者のイメージが、ますます冒険者――小説に出てくるようないわゆる荒くれ者――からは遠くなっていくのを感じた。
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