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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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085 朝練 6

「私にも若い頃はあったんだよ」


 笑顔でマリコ達をにらんでいたタリアは、さすがにバツが悪かったのかふいと顔をそらしてそう言うと、後は任せたと言い置いてそそくさと宿に戻って行く。置いていかれた二人は顔を見合わせた。


「とりあえず、的を立て直すことにしようか、マリコ殿。あの中に代わりの杭も道具も入っている」


「そうですね」


 運動場の隅に作られた物入れを指差しながら言うミランダにマリコも賛成した。マリコの火矢(ファイアボルト)が的を全部吹き飛ばしてしまったため、このまま放っておくと次の時や後から来る者が困るのだ。


 二人は物入れから杭と大きな木槌を引っ張り出した。


 ◇


「私への注意って、ご自分の経験から出た話だったんですねえ」


「そのようだな。しかし、タリア様の二つ名がそういうものであったとは。道理で教えて下さらなかったわけだ」


「まあ、ああいう由来なら自分から言いたくはないでしょうねえ。そもそも二つ名なんて自分から名乗るものでもないでしょうし。はい、行きますよ」


「お願いする」


 頭を下げて白い背中をさらしたミランダの傍らで膝立ちになったマリコは、手桶に汲んだ湯をゆっくりとミランダの髪に掛けていく。ミランダの手が湯の当たった所でわしわしと動いた。


 今、マリコとミランダは浴室にいる。


――髪がどうも焦げ臭い故、洗っておいた方が良さそうだ


 的を作り直したところで、ミランダがそう言ったためである。マリコの火矢(ファイアボルト)の余波は髪そのものまでは焦がさなかったようだが、木の焦げた臭いを二人に残していた。水浴びレベルだったはずが少し大事になってしまったが、マリコとしても一日焦げた臭いを振りまいて過ごすのはさすがに遠慮したいところである。


 幸い、湯船に残った湯はシャンプーを泡立たせるには十分な温度――手を入れるとさすがに底の方は冷たかった――を保っていたので、二人は互いに湯を掛け合って髪を洗っている。マリコは湯を掛けながら、ぴょこぴょこ動くミランダの耳としっぽを存分に眺めた。


 ◇


「あの強さの魔法を使われるなら、土塁を築いてそこに的を据える方がよいのではなかろうか」


「やはり、その方がいいんでしょうか」


 風呂から上がった――浄化(ピュリフィケーション)も済ませた――二人は食堂に向かう。東の山は昇りかけた太陽でかなり明るくなっていた。


「おはようございます」


「おはようございます」


 昨日と同じ後ろ側から厨房に入って挨拶をすると、中にいたシーナ――昨日タリアに捕まってきた赤茶色の髪の娘である――とサニアが振り返った。


「おはようございます。昨日は大変だったね」


「あら、おはよう、マリコさんにミランダ。早かったわね、どうしたの?」


「どうしたのはないだろう、サニア殿。いつもの鍛錬を少しやってきただけだ」


 挨拶も早々に問われたミランダは少し憤慨した調子の返事をした。


「えっ。もしかして、マリコさんも?」


「えー、はい」


「身体は大丈夫なの? 疲れてたでしょうに」


「いえ、昨夜きちんと休めましたし、大丈夫です」


「それならいいんだけど……」


「はい、大丈夫ですよ」


 少し心配そうなサニアにマリコは重ねて言った。


「それでサニアさん、手伝うことはありますか?」


「え? ああ、そうね。今朝に限って言えば、実はあんまりないのよ」


「え?」


「もともと朝は簡単なメニューにしてるし、ほら、昨夜泊まってた人がいないから、その人達の分を準備しなくてもいいの。里の皆も朝はほとんど自分の家で食べるから、今朝のごはんは基本的にはここに住んでる人の分」


「ああ、そういうことですか」


「ちなみに今朝のメニューはごはんかパンにスープと、あとは目玉焼きにお肉。ほら、簡単でしょ? だから、手伝ってくれるなら配膳とか後片付けとか、あとは昼の仕込みとかになるわ」


「分かりました」


 ◇


 マリコ達が机を拭いたり火加減を見たりと細々手伝っていると、やがてパン屋からパンが届けられ、タリアに連れられてアリアとハザールも食堂に姿を見せた。早朝、マリコ達と一緒に余波を浴びたにも拘らず風呂場に現れなかったタリアは、浄化(ピュリフィケーション)をうまく使ったらしく焦げ臭い臭いなど微塵も残していなかった。


「今朝のごはんもおねえちゃんが作ったの?」


 朝の挨拶もそこそこにアリアがマリコにそんなことを聞いてきた。隣でハザールも目を輝かせている。


「いえ、今朝は準備などを少しお手伝いしただけですよ」


「「なんだあ」」


 マリコの返事に、二人は目に見えて落胆する。


「そ、それは私の料理はまずいってこと?」


 二人の落ち込みぶりに、シーナがプルプルしながら聞いた。彼女が今朝の料理当番である。


「ううん、おいしいよ。でもマリコおねえちゃんのはなんかすごいの」


「えっ? あー、それは、そうよねえ。昨夜すごかったものねえ」


 シーナも昨夜マリコの料理を食べた一人である。「すごい」というアリアの表現に妙に納得してしまった。味付けも目新しかったが、何より料理の完成度が高いのだ。自分の腕にそこそこ自信を持っているだけにシーナには分かった。それは確かに「すごい」という表現が似合うだろう。


「マリコさん!」


「は、はい」


「私にも教えてくれますか?」


「え? ああ、私に教えられることでしたら」


 振り返って聞いたシーナに、マリコは穏やかに答えた。


「話は済んだかい? マリコもこの後、若女将と買い物だろ? こっちも早いとこ済ませるよ」


 タリアが厨房を指して言う。朝の宿屋は朝食に向けて再び動き出した。

今日は設定ミスではなく、直前まで書いてました……眠い。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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