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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
83/502

083 朝練 4

「そう、魔法さね。マリコ、あんた昨日、着火(ファイア)灯り(ライト)は普通に使えたんだろう?」


「ええと、はい」


 宿屋で一日過ごす間に、マリコは何種類かの魔法を見ていくつかは自分でも使った。いずれもゲームには無かった、日常生活で使う魔法である。


「その辺が使えるんなら、狩りの時に使うようなのも本当は使えるんじゃないかと思ってね。そのうち確認するつもりでいたら、ミランダと稽古してるのが見えたもんでね。ちょうどいいと思って出て来たんだよ」


「狩りの時に使うようなって、攻撃系の魔法ですか?」


「もちろんそうさね」


 攻撃系魔法――その名の通り相手を攻撃する魔法――は、ゲームにおいては回復系魔法と並んで最もポピュラーな魔法だった。戦闘時にしか使えないものがほとんどだが、魔法による攻撃はファンタジー系RPGの華である。十分なレベルと知力を備えたキャラクターが放つ攻撃魔法の威力は、武器による近接攻撃に勝るとも劣らないものであった。


「おお、マリコ殿ならそういった魔法も難なく使いそうですな」


「おや、ミランダもそう思うかい?」


「それはそうでしょう、タリア様。あれほどの剣技を持つマリコ殿ですから、魔法に関する知識や技だけが全く無いとは考えにくい」


「ああ、だから私も、実物を見たら思い出す(・・・・)こともあるかと思ったんだよ」


 ここまで話をされると、さすがにマリコも気が付いた。タリアはこの世界の魔法について教えに来てくれたということである。


「女将さん、わざわざありがとうございます」


「礼を言うのはまだ早いよ。私だって何でも使えるわけじゃないんだからね。この髪の通り、火系統の魔法は割りと得意だけど、それ以外はねえ。ああ、マリコ。魔法に系統があるのは分かってるかい?」


 タリアは少し白い物の混じり始めた髪の先を摘み上げて示すと、思い出したように聞いた。


「ええと、神様の影響が髪の色に現れるっていう話は、昨夜サニアさんに聞きました。でも、系統と言うと……。ああ、髪の色、というか神様と同じなんですね」


「ああ、そうさね。覚えてるんじゃないかい。魔法にも風・火・水・木・金・土・命の七つの系統があって、それぞれ七柱の神々の影響を受ける、ってことになってる。自分の色がうまく使える系統だってことにね。ただまあ、中級以上の魔法になってくると二つ以上の系統が合わさったのもあるから、全部がきっちり七つに分けられるわけでもないみたいだがね」


「中級以上と言うと……」


「威力、と言うよりは身に付ける難しさだね。魔法はそれをもとに下級、中級、上級って分けてあるんだよ。火の魔法で言えば、下級の火矢(ファイアボルト)をある程度使いこなせるようにならないと中級の火球(ファイアボール)は使えない、みたいにね」


「ああ、なるほど」


火矢(ファイアボルト)火球(ファイアボール)もゲームにあった魔法だし、最高レベルではなかったけれど私も使ってた。やはりどう考えてもここは……)


 ゲームにも下級、中級、上級という区分はあった。区分の仕方もほぼ同じである。例えば中級魔法は、その取得条件や取得クエストの発生条件に「下級魔法○○が何レベル以上」とあるものがほとんどだった。


「さて、じゃあ行くとするかね」


「えっ? どこへですか」


「どこって、魔法を撃つんだから的のある所に決まってるじゃないかい」


 タリアは壁際に立っている的を指差すと、そのままそちらへ向かって歩き始めた。


「話をするだけじゃなかったんですか」


「何言ってんだい。実際試してみないと、できるかどうかなんて分からないだろうに」


「それはそうですな。行こう、マリコ殿。私もマリコ殿の魔法を見たい」


 ミランダも木刀を仕舞うとタリアについて行く。マリコはあわてて二人に続いた。


 ◇


 運動場の真ん中で話し込んでいた三人は的の正面へとやってきた。壁際に立つ的は、同心円を描いた板を杭の先にくっつけただけの簡素な物である。それが三本、等間隔に並んで立っていた。


「ここから的までが、大体三十メートルってとこかね。この辺りが火矢(ファイアボルト)をよく使う距離さね」


「もっと遠いと届かないんですか?」


「いいや。灯り(ライト)なんかと同じで、込める魔力を増やしてやれば遠くまで届くようにできるがね。あんまり遠いと動いてる相手には当たりにくいし、一回に使う魔力が増えればそれだけ撃てる数も減るからね。一番使い勝手がいいのがこのくらいの距離ってことさね」


 もっともな答えではあったが、マリコは内心首を傾げた。ゲームでの攻撃魔法はそれぞれ射程距離が決められており、レベルアップなどで伸びることはあったが使用者の意思で変えることはできなかったからだ。


「とりあえず、一発撃ってみるからね。見ておいでよ」


 タリアは的の方に向き直ると、左端の的に向かって手のひらをかざすように右手を上げた。


火矢(ファイアボルト)


 落ち着いたタリアの声と共に光がこぼれ、鉛筆ほどの大きさの火の矢がひゅっと小さな音をたてて彼女の手のひらから飛び出した。それは正にクロスボウの(ボルト)のように、一直線に的に向かって行く。


 一瞬の後、バカンという音と共に的の板が真っ二つに割れて地面に落ちた。的の表面には黒く焦げ跡が着き、かすかに煙が上がっている。


「これが下級魔法の一つ、火矢(ファイアボルト)さね」


 タリアは後ろから見ていたマリコ達を振り返った。


「マリコ、あんたも一度やってごらん。私はできるんじゃないかと思ってるんだがね」


「分かりました。やってみます」


 マリコは頷いてタリアの右隣に並ぶ。ゲームでは普通に使っていたはずの魔法である。マリコ自身もできないとは思えなかった。


「別に姿勢が決まってるわけじゃないからね。やり易いポーズで撃つといい」


「はい」


 そう答えながらも、マリコは真ん中の的に向けてタリアと同じように手を上げた。二人の後ろでは、ミランダが胸の前で拳を握って瞳をキラキラさせている。


「では、撃ちます。火矢(ファイアボルト)


 灯り(ライト)(ウォーター)を使った時と同じような、しかし遥かに多くの魔力が、マリコの身体から右腕へと駆け抜けて行く。


 光がこぼれ出した。

結局、前回は休んでしまいました><

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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