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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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082 朝練 3

「やっ!」


 気合と共に、木刀のぶつかり合う音がガツンと響いた。ミランダが次々と剣を繰り出し、それをマリコが受け、弾き、かわす。昨日と同じような光景が展開されていた。


(うーん……)


 マリコは考えていた。ミランダの攻撃を捌く事自体は、ほとんど考えることなく身体が反射的に行っている。「マリコ」の能力によってそうなっているのは明らかであったが、それは一体どういうことなのかとマリコは考えていった。


(調理もそうだったけど、身体が勝手にスキルを使っているわけじゃない。使おうと決めるのは自分の判断と意思だ。でないと、わざと避けずに木刀に当たるとかできっこない。今だって受けたり弾いたりしてるけど、そうするのがいい、それならできる、って瞬間的に判断してる。だけど……)


 内心でそう考えながら、マリコは飛び込んで面を打とうとするミランダに対して逆にこちらから踏み込んだ。振り切られる前の木刀の柄元に自分の木刀の柄元を当てて押し返す。上半身をのけ反らされそうになったミランダは、押し返された勢いに逆らわずに跳ねるように後退すると得物を構えなおした。


(今もそうだ。私はミランダさんのどこの何を見て、押し返すのが最適だと判断したんだろう?)


 相手の動きを予測する根拠とするために、捉えている情報があるはずである。反射的に対応する自分の身体が、いったい何の情報を元に対応しているのかを、マリコは見極めようとしていた。身体の動きを身体自身に任せて、意識を「自分がどこを見ているのか」確認する方へと集中させていく。


 ミランダの突き。横へ弾く。


 胴への薙ぎ。受け止める。


 足への払い。下がってかわす。


(なるほど。分かってきたかも)


 しばらく繰り返すうちに、マリコには「自分が見ているもの」がだんだんと見え始めた。目標を捉えるミランダの視線、重心移動する際の身体のブレ、足を踏み込む時に先に力が入る腰や太もも、腕を振る前に動き始める肩や腰。そういったものを見て、ミランダの次の動きを予測しているのだった。


 正直、普通はこのようなことはしないし、そもそもできないだろう。マリコはいきなり手にした高レベルの技とそれを使いこなせる身体を、頭で理解しようとしたのだ。ただ、マリコの記憶には無くともそれはかつて「マリコ」が理解し、反復したことである。今のマリコは図らずもそれを「思い出す」作業をしているのだった。


「一度止まってください、ミランダさん」


 さらにしばらく確認を続けたマリコは、ミランダが下がったタイミングに合わせて剣を下ろした。


「ふう、どうなされたマリコ殿」


「はい、教えて差し上げられそうなことができました」


 マリコはミランダに笑顔を向けた。


 ◇


「何と。私にそんな癖があったのか」


 攻撃する際の目の動きや狙い所による腕の振りや足捌きの癖、無駄など、自分で気付いていなかった事をいくつかマリコに解説されて、ミランダは驚きの声を上げた。


「はい。動きの細かいブレなどはもう、繰り返し練習して身体に覚えさせるしかないと思いますけど、今説明した事は意識していればじきに直せるんじゃないでしょうか」


「ううむ、なるほど。……しかしマリコ殿」


「はい」


 ミランダは木刀を握ったまま腕を組んで何度も頷いた後、顔を上げてマリコを見た。


「人に教えた事がないと言われたが、十分教えられるではないか。今のはどうやって気付かれた? 自分にそんな癖があるなどと指摘されたのは初めてだ」


「ええとですね、せっかくですから何か教えてあげられることはないかって考えてですね。じゃあそもそも、私はどうしてミランダさんの攻撃を受けられるのかって思ったんですよ。それで……」


 マリコは先ほど考えた事をかいつまんで説明していった。


「……はあ。私の剣をあれだけ受けながら、そんなことをしておられたのか。なにやらもう、雲の上の話を聞いているかのようだ」


 話を聞き終えたミランダは、感心と呆れの混ざった複雑な声を上げた。


「しかし、直すべき点が見出せたからには、直す努力をするのみ。マリコ殿、これからもご教授願いたい」


「はい。私でできることなら」


 一転、力強く宣言するミランダに、マリコは眩しさを感じながら笑って答えた。


「かたじけない。それでは早速次なんだが……」


「ん?」


 言いかけたミランダが言葉を止めて顔を上げた。マリコも背後に人の気配を感じて振り返る。


「おや、昨日があれだったから今朝は誰も来ないかと思ってたんだがね。若いもんは元気でいいねえ」


「ああ、おはようございます、女将さん」


「おはようございます、タリア様」


 宿の方から、タリアがやってくるところだった。ブラウスにスラックス、腰には剣といつもの姿である。


「はい、おはよう、二人とも。それにしても元気だねえ、ミランダ」


「タリア様こそ。それで今日はどうなされたのですか。いきなり来られるとは珍しい」


「いやなにね、木刀を打ち合う音が聞こえたんで窓からのぞいてみたら二人が見えたんでね。まあ、昨日見てた感じとサニアから聞いた話じゃ、マリコが引っ張り出されそうな気はしてたんだがね」


 タリアは、例の面白い物を見る顔でマリコ達の顔を交互に見た。こうなることは分かっていたという顔をしている。マリコがちらりとミランダの方に目をやると、ミランダは目を泳がせた。


「まあ、鍛錬しとくのはいいことさね。で、ミランダ。そっちは一区切りついたんだろう?」


「マリコ殿にもう一度手合わせ願おうと思っていたところです」


「じゃあ、一区切りはついたってことでいいね。私もちょっとマリコに用があってね」


「いたしかたありませんな」


「私にですか?」


 ミランダの口調が丁寧になっているな、などと考えていたマリコは、話をいきなり自分の方に向けられて思わず自分を指差した。


「ああ、ミランダとは剣の話をしてたんだろう? ちょうどここに来てることだし、私もあんたと魔法の話をしとこうと思ってね」


「魔法、ですか」


 タリアの口からは、マリコが予想していなかった言葉が飛び出した。

剣と魔法……。いやまあ、そういう話なんですが。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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