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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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081 朝練 2

 着替え終わって身支度をしたマリコは、ミランダに連れられて昨日も来た敷地端の運動場へとやってきた。空には雲もほとんど無く、東の空が少し明るくなっているものの、まだ太陽は昇っていない。


「さすがに今日は誰もおらぬか」


 ミランダは無人の運動場を見渡して頷いた。


「え? さすがにって、どうしてですか?」


「ああ、今日は風の日であろう?」


「そうですね」


 風の日は月曜日、と頭の中で考えながらマリコは頷く。


「命の日に仕事をした者は、代わりに風の日、つまり今日が休みになることが多い。だから、いつもなら昨日宿にいた連中は、今日ここに顔を出すことが多いのだが……」


(休みなのに朝練には来るのか。大変と言うか熱心と言うか)


 マリコは内心でため息をついた。


「何を微妙な顔をしておられる。ある程度は使える腕がないと、本人が困るのだぞ? いくら柵で囲まれているとはいえ、里に全く動物が入り込まないわけではないからな。それに、ぬるま湯にはなるが朝から風呂が使えるのだ。悪い事は一つもない」


「ああ、なるほど。でも、それじゃあ今朝は……」


 皆が朝練に来る理由は分かったが、元々の疑問は晴れていない。


「昨日があの騒ぎであったろう? さすがに疲れが残っているのではないかと思う」


「まあ、結構な忙しさでしたからねえ。……あれ? じゃあ、そこに一緒にいた私がどうして起こされたんですか」


 ミランダの言い分通りであれば、昨日ひたすら厨房に籠っていたマリコも朝寝していていいはずである。


「うん? これは異なことを言われる。マリコ殿」


「はい」


「貴殿、本当に疲れておられるか?」


「は?」


 ミランダに不思議そうな調子で聞き返されて、マリコは思わず妙な声を上げた。


「いやなに、昨日マリコ殿が人一倍働いておられたのは、ほとんど一緒にいた故私も知っている。大汗をかいておられたことも。ただ、私の目には最後まで、マリコ殿が疲れたようには見えなかったのだ」


「えっ?」


「疲れを隠して気張っているような様子も全く見えず、店仕舞いまで泰然とこなしておられた。さすがマリコ殿は鍛え方が違うと思っていたのだが」


「あ、いえ、それは……」


 マリコは一瞬答えに詰まった。確かに多少は疲れたがさほどでもなく、「マリコ」の身体のおかげだと、昨夜自分でも思ったことである。実際、一晩ぐっすり寝た今は全く疲れも残っておらず、元気そのものだった。


「まあ、間違いではありませんが」


「そうであろう? 故に起こしても大丈夫だと判断したのだ」


 疲れていると嘘を言うのも気が引けて、しぶしぶマリコが認めると、ミランダは嬉しそうに頷いた。


(うう、やっぱりなんかいろいろ墓穴を掘り続けているような気がする)


「では、今日のところは二人だけだが、早速始めよう、マリコ殿。得物は昨日と同じでよろしいか?」


 ミランダは嬉しそうな雰囲気のまま、昨日の木刀を取り出しながら聞いてくる。マリコは少し自分の眉間を揉むと、気分を切り替えることにした。


「私は構いませんけれど、ミランダさんは実際の狩りの時は何を使ってるんですか? それに近い方がより練習になると思いますよ」


「ああ、それは問題ない。私が普段使うのはこの木刀に似た剣、刀だ。速さを生かす戦いが我らの常故、盾はあまり使わぬ。そう言うマリコ殿は何を使われる?」


「ええと、最ご……いえ、最近使っていたのは、これよりもっと大きな両手で持つ剣でしたけど、いろいろ使いましたから。今はこの木刀で大丈夫です」


 ゲーム時代のマリコは様々な武器を使った。剣で言うと、姪達の壁役の時はオーソドックスな片手剣に盾を装備するのが基本である。数が多い雑魚敵に対する時は手数を稼ぐために短剣を両手に装備することもあった。最終的にソロで出歩く際の標準装備となったのは、身の丈ほどもある大剣である。


 防具の方はと言うと、メイド服を作ってからはほとんど常にそれを着用している。そのため、イベントだろうとボス戦だろうといつも大剣を背負って現れるメイドさんとして、マリコの名は一部に知られていた。


「ああ、済まぬ。マリコ殿は持ち物が行方不明なのであったな」


「いえいえ、まあ、出てきてくれたらありがたいんですけれど」


「早く見つかるといいな」


「ええ」


 ミランダが二本目の木刀を取り出す。それを受け取ったマリコは、二、三度振って具合を確かめた後、昨日と同じように少し離れた位置についた。


「それでは始めるとしよう。マリコ殿、先に言っておくが、昨日のようにわざと当たるのはなしだぞ」


「分かりました。でも私、人に教えた事なんかありませんから、どこまで役に立つかは分かりませんよ」


「それは構わない。自分より強い者との試合はそれだけで十分鍛錬になる。それはマリコ殿も分かっておられよう」


「そうですね」


 相対した二人は礼を交わすと、それぞれ中段に構えた。


「いざ」


「はい。私はしばらく受けに回りますから、気にせず打ち込んで来てください」


「……承知」


 何か考えがありそうなマリコに、ミランダは短く答えて頷いた。


「では、参る」


「はい」


 待ち構える黒のメイドさんに向かって、深緑のメイドさんが飛び込んで行った。

――メイドさんと大きな……

――シッ! それ以上言うな!

当時、あちこちで囁かれた会話。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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