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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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074 就寝 4

 食堂に戻った三人は、残っていた飲み物を空けると片付けを始めた。少々とは言え、ウイスキーを飲んだにも関わらず酔いらしいものを感じていなかったマリコは、少しぬるくなったビールの残りを、わざと気を抜いて――抵抗(レジスト)しないように心掛けて――飲み干してみた。


(これで酔いがくるようなら、なんでもかんでも抵抗(レジスト)するわけじゃないってことだろう)


 ◇


「残っている明かりはどうするんですか?」


 程なく片付けも終わり、マリコはポツリポツリと明かりが残るだけになった食堂を見渡した後、サニアを振り返って聞いた。


「魔法の明かりはそのまま放っておいても勝手に消えるからいいんだけど、火が点いているのがないかだけは見ておいてね。ああ、マリコさん、魔法のことだけど、解除(リリース)無効化(キャンセル)は分かってる?」


解除(リリース)無効化(キャンセル)?」


 無効化(キャンセル)という魔法はゲームにもあったが、解除(リリース)というのはマリコには初耳だった。魔法で掛けられた鍵を開けたり、魔法による隠蔽を見破ったりする際に使うのが、無効化(キャンセル)だったはずである。


「自分で掛けた魔法を取り消すのが解除(リリース)、他の人が掛けたのを破るのが無効化(キャンセル)よ。だから、細かく言えば解除(リリース)は魔法じゃないわね。マリコさん、なんなら一つ、無効化(キャンセル)灯り(ライト)を消してみればいいわ」


「分かりました。やってみます。……無効化(キャンセル)


 マリコは頷いて、近くの灯り(ライト)に向かって無効化(キャンセル)を使った。すると、今日一日で最早慣れつつある魔力の流れる感触と共に、標的にした灯り(ライト)はふっと消えた。


「これが、無効化(キャンセル)


「大体分かると思うけど、元の魔法を打ち消すんだから、もっと魔力のこもった魔法を無効化(キャンセル)する時は、もっと魔力を使うわよ」


「分かりました」


 ◇


「「「お疲れ様でした」」」


 三人の声が重なり、解散ということになった。エリーは今から歩いて帰宅するのだが、彼女の家はすぐ近く、というより、里の住民の家はまだ大半が宿屋の近くにあるので問題は無い。マリコとサニアに見送られて帰っていった。


――マリコさん、ここの宿に来てくれてありがとう。助かった。


 むしろ、エリーが最後に遺した言葉の意味が分からず、マリコは首を傾げた。それが「胸のサイズが話題になる度に引き合いに出される対象が交代したことに対する礼」だとマリコに分かるのは、もう少し後のことである。


 ◇


「じゃあ、おやすみなさい、マリコさん」


「おやすみなさい」


 厨房から裏側に続く廊下に出た所で、マリコとサニアは挨拶を交わして分かれた。サニアは廊下に出てすぐの左側にある扉を開けて入っていく。ロの字型の宿屋の南側の辺にあたる部分の一階と二階の一部はサニアやタリア達の家として使われていた。


 ランプの代わりに、灯り(ライト)を掛けたカップを掲げたマリコは一人廊下を進み、また角の所の手洗いで用を足してから自分の部屋へと戻った。


 自室の扉を開けると室内は明るかった。風呂に出掛ける前に掛けた灯り(ライト)がまだ残っていたのだ。中に入ったマリコは扉を閉めて一応鍵を掛けると、灯り(ライト)の灯るカップをテーブルに置いて、ベッドにぽすんと腰を下ろした。両腕を上げて、うーんと伸びをする。


(ああ、服を掛けておかないと)


 そのまま寝転がりそうになったマリコは、風呂場でアイテムボックスに入れてそのままになっている服のことを思い出した。腕を下ろすとよいしょと立ち上がる。クローゼットを開けて、エプロン、メイド服、ストッキング、とハンガーに掛けていった。残った下着類を畳んで枕元に置くと、マリコは布団に滑り込む。


解除(リリース)解除(リリース)


 二ヶ所に灯っていた灯り(ライト)を消すと、部屋は闇に包まれた。とは言え、月明かりか星明かりか、障子のはまった窓がわずかに明るい。マリコの目の能力とも相まって、何も見えないということはない。予想通り、わずかに回ってきたような気がする酔いに身を任せながら、マリコは天井を見上げた。


(すごく長い一日だったような気がする。やった事を考えると、元の身体だったらきっともう、とっくにへばってへたり込んでいただろうな)


 戸惑うことばかりだったはずなのに、今「マリコ」の身体であることに感謝の念が湧いてくるのが自分でもなんだかおかしかった。


――ここはどこなのか


――女神様はどこなのか


――私は本当に元の自分なのか


 疑問は何一つ解決しておらず、違和感も山のようにあるというのに、奇妙な達成感が身体を包んでいる。今日起きた出来事の一つ一つが頭の中でぐるぐると回り、それぞれの記憶が、どうしてだか誰かの笑顔で終わる。


――自分がマリコだからなのか


――この平和そうな里だからなのか


――それともこの世界だからなのか


 自分が何者かもはっきり分からないのに、たった一日で居場所のようなものができてしまっている今の状況に、マリコは驚きを通り越して呆れさえ感じていた。


――そして、その中でマリコが誰かと笑っている


(自分がまた、他人(ひと)と笑い合えるなんて)


 クスリと、自嘲にさえ失敗した笑みを漏らして、マリコは静かに目を閉じた。

最終回ではありません(笑)。

次回、登場人物一覧のような物。それで第二章終了の予定です。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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