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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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071 就寝 1

 今マリコ達は、大方の明かりが消えて薄暗くなった食堂の一角でジョッキ――サニアの分はさすがに酒ではない――を傾けている。風呂上りの一杯は、最後に残ることになった者への労いとして振舞われているものである。自腹で代金を払うなら追加で飲むこともできるが、女性の割合が高い今の宿のメンバーでは、そこまでする者は滅多にいない。


 今夜は宿泊する者がいなかったため、カウンターに夜番はいない。里の者がそれぞれ家を建てて住むようになった後、こんな日がたまに巡ってくる。外で何かあれば、開けっ放しの宿の門から門番が駆け込んでくることになっており、それで十分なのだ。門が一日中閉められることなく、代わりに門番が置かれるようになったのも、皆が宿の外に住むようになってからのことである。


(全く、ひどい目に遭った)


 マリコは、昼間とは違ってビールを一口ゆっくりと喉に流し込むと、まだ半分以上中身の入ったジョッキをコトリと脇に置き、腕を枕にしてテーブルに突っ伏した。目を閉じると、先ほど演じた醜態がまざまざと甦ってくる。


――これが肩に重さを感じると言う贅沢なモノか


 目の笑っていない笑顔を貼り付けたミランダとサニアに湯船の角に追い詰められ、二人掛かりで散々に触りまくられ。


――お湯に浸かると、どう軽くなるんですって?


 それを下から手で支えられたまま、湯の中での立ち座りを繰り返させられて浮かび具合やら体感重量やらを確認され。


――やっぱり土台の大きさに比例するのかしら?


 遂には、エリーも含めた四人で代わる代わる並んでみての、各部の大きさやら色合いやらの比較検証大会へと発展し。


――とばっちり


 エリーに一言、文句を付けられた。巻き添えを食ったエリーにはいい迷惑であったろう。苦情が出るのも当然である。


 その後、羞恥も合わさってのぼせかけたマリコは脱衣所へ担ぎ出された。幸い、身体の方はじきに回復したものの、自分でやるはずだった浄化(ピュリフィケーション)どころか、着替えやら何やらもほとんどミランダにやってもらう羽目になった。髪を乾かす際に使われた、熱風(ホットウィンド)温風(ウォームウィンド)という新たな生活便利魔法に驚いたことと、ミランダが妙に楽しそうだったことが、マリコの記憶に印象深く残っている。


(途中からは二人とも普通に笑ってたから、基本的には冗談というかじゃれあいみたいなものなんだろうけど……女の子ばっかりだとああなんだろうか。あけすけというかスキンシップが激しいというか)


 そこまで考えた時、マリコは後ろに人が立つ気配を感じて目を開いた。マリコの横に水色の袖をまとった手が伸びてきて、ゴトッとマリコのジョッキの隣に同じジョッキを置いて引っ込んでいく。


(ミランダさん……?)


 手の形とパジャマの袖の色から、マリコがその持ち主を推測した時。


 左右の身八つ口――着物の袖の付け根の開口部――から、ズボッと手が差し込まれ、ブラジャーをしていないマリコの胸を鷲づかみにした。


「わあっ!」


 マリコは跳ね起きた。すると今度は、起き上がった肩に後ろからチョンとあごが乗せられる。イスの背越しにミランダが貼りついていた。


「んふふー、マリコ殿ー」


 スリスリと頬を擦り付けながら、間延びした声が掛けられる。もちろん、手はつかんだままである。


「ミ、ミランダさん? 手を……って、お酒臭い!? 一体どれだけ飲んだんですか!」


「んー? 追加で一杯だけだがー?」


 ビールを口にしているマリコにも感じるアルコール臭である。心配になったマリコは、先ほどミランダが置いたジョッキを取って自分の鼻に近づけて嗅ぐと、底に少し残った物を舐めてみた。明らかにビールではない、ウイスキーのような蒸留酒の味がする。


「これは……。まさか、ジョッキ一杯飲んだんですか!?」


「そんなにはー、注いでー、いないー、んふふ」


 マリコの問いに怪しい口調で答えながら、ミランダはふにふにと手を動かす。


「ひうっ。手、手を離してください」


「んー? 自分にはないんですからー、十分珍しいですよー」


「ああっ!」


 昼間、マリコがミランダのしっぽを撫でる時に言ったセリフである。


「さわっても?」


「くうっ」


「ふふー」


 マリコの抵抗が収まったのをいいことに、ミランダは存分に揉みしだいた。


 ◇


 マリコがくすぐったさに耐えていると、やがて手の動きは唐突に止まった。同時に肩と背中にズシリと重みが掛かってくる。


「ちょ、ちょっとミランダさん!?」


「マリコ殿……、明日からも、よろしく……たの……む」


「え!? 待って待って、そこで寝ないで。サニアさんもエリーさんも、笑ってないでなんとかしてください。ああっ、転ぶ転ぶ」


 マリコは、イスの背越しに後ろに手を回し、辛うじてミランダのパジャマをつかむと、それまで面白そうに眺めていた後の二人に助けを求めた。

前話の描写が足りないとの各方面からの指摘を受け、本来の予定より若干回想(?)部分が増えました。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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