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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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069 入浴時間 5

連載開始当初から書いてやろうと思っていたシーンの一つに、やっとたどり着きました。

「それじゃあ、ちょっと手を首の後ろに当ててみてくれるかしら。こう」


 サニアが両腕を上げて肘を曲げ、自分に腕枕をするように両方の手のひらを首の後ろに回す。すると、腕に引かれてサニアの胸が上を向いた。


「ええと、こうですか?」


 その胸になんとなく目を引かれながらも、マリコは素直に腕を上げて、サニアと同じポーズを取った。見守っていたサニアの目がキッと細められ、眉根に縦じわが刻まれる。


「まあっ。昨日はほとんどミランダに任せてたから見間違いだと思ってたけど、やっぱり! ミランダ!」


「やむを得ぬ、承知した」


 ガシリ、とマリコの両手首が、後ろからミランダに力強くつかまれた。


「え?」


 疑問の声を上げるマリコに構わず、ミランダはつかんだマリコの手首を揃えて少し引き下げた。左右に広がっていたマリコの肘は上を向き、サニアに向かって胸を突き出すような姿勢になっていく。


「え? えっ? ちょっ、ミランダさん、何するんですか」


「何するんですかじゃないわよ、マリコさん」


 抗議の声を上げるマリコに答えたのはサニアだった。振り返ろうともがきかけていたマリコが正面に顔を向け直すと、目を細めて少し恐い顔になったサニアと目が合った。


「うっ。え、ええと、私、何かしたんでしょうか?」


「した、というか、むしろしてないのが問題ね」


「え?」


「これよ、これ!」


 サニアは、曝け出されたマリコの腕の付け根を指して、そこを指でつついた。


「ひゃっ」


「年頃の女の子が、ここをこんなにしたままなんてっ! あり得ないわ」


 マリコはくすぐったさをこらえて、指差されたそこに視線を落とした。


 一つまみの、髪と同じ色合いの柔らかそうな毛がそこにはあった。


「え? 腋……毛?」


「そうよ! その様子だとマリコさん、気にしたこともないのね?」


「い、いえ、それはっ」


 マリコの額に冷や汗が浮かぶ。思い返してみても、こちらへ来てからそこにそれが生えているかどうかなど、気にしたり確認したりした覚えはない。朝着替えた時にもそれはそこにあったはずだが、それを見た記憶が全くなかった。


 そもそも、こちらに来る前から、そんなものを気にしたことは――ああ遂に生えたと安堵した思春期の頃以外には――なかった。もちろん、それを剃ろうと思ったことなどなかったし、普段はその存在自体を忘れていたと言ってもいいくらいである。


 自分の年代の男であれば、それは至極普通のことであった。ただ、女の子がそれではまずい、ということはさすがのマリコにも想像がついた。マリコは額に浮かんだ汗が玉になって伝い落ちるのを感じた。


 再び剃刀を手にしたサニアが、ゆらりとマリコに向き直る。その顔には微笑みが戻っていたが、目が全く笑っていない。マリコは震え上がった。


「そこもきっちりきれいにしましょうね?」


「ひっ。じ、自分で……」


「できるの?」


「くっ」


 マリコは言葉に詰まった。直刃の剃刀を扱う自信がなくて、顔を剃ってもらったばかりである。黙り込んだマリコを見て、サニアは一旦剃刀を置くと、また石鹸の泡を立て始めた。


 その時、ガラリと脱衣所の扉が開いた。マリコが何とかそちらに目を向けると、三つ編みにしていた髪を下ろし、服を脱いだエリーが入って来るところだった。


 やや小柄な小麦色の身体の前に手拭いを持ったエリーは、身長に対してかなり豊かな胸と腰の、いわゆるトランジスタグラマーな体型をしている。しかし、元々の体格が違う分、絶対的な大きさとなると、マリコに軍配が上がるだろう。


「エリーさん……」


 助けを求めるようなマリコの声に、エリーは扉を閉めたところで一度立ち止まった。腕を取られたマリコから、サニア、ミランダと視線を巡らせ、最後にまたマリコに目を向けた。


「ん、大丈夫」


「えっ」


 マリコが絶句すると、エリーはトコトコと歩いてミランダの隣り――マリコとは反対側――に腰を下ろした。助けてくれる気はないようだ。


「しばらく前に、ミランダも同じようにされてたから大丈夫。若女将の腕は確か」


「エリー! 何を言い出す」


 マリコの後ろで、ミランダがあわてた声を上げた。


「ミランダさん?」


「いや、違うのだマリコ殿。寒い頃には、ほら、いろいろと面倒になるものだろう?」


 その後続いたミランダの言い訳によると、どうやら、冬の時期に数日さぼってサニアにとがめられたことがあるらしかった。


「はい、マリコさん、じっとして」


 ミランダの話に呆れつつも和みかけたマリコだったが、サニアの声に現実に引き戻された。他人事ではないのである。曝された腋に石鹸の泡が塗り込められる。


「くうっ」


「はい、そのまま動かない」


 塗り終えたサニアは手の泡を洗い落として、剃刀を手に取る。マリコはさすがに逃れるのは諦めた。どちらにせよ、このままというわけにもいかないのだ。


「ミランダさん、もう動きませんから離してください」


「それはできぬ相談だな。マリコ殿が怪我をしてはいかん」


「そう言いながら、どうして声がちょっと楽しそうなんですか!」


「いやなに、マリコ殿がそうして恥ずかしげにしている様子を見ていると、何やら胸がすくような思いがするのは何故であろうな?」


「あっ、もしかして。昼間のことを根に持ってますね」


「そんなことはないぞ?」


「二人とも黙って。行くわよ」


 サニアの左手がマリコの二の腕に添えられる。マリコはぎゅっと目を閉じて身構えた。


「んんっ」


 サリサリと、軽い音と共に剃刀の刃がマリコの腋を撫でていく。これまで味わったことのない感触に、マリコは震えそうになるのを必死にこらえた。


(顔を剃ってもらった時は床屋でやってもらうみたいで気持ちよかったのに……)


 全てが終わった時、マリコは顔中どころか腕や胸まで、羞恥で真っ赤に染まっていた。

ノクターンに行きなさいと言われるようなことはしていない、と思うのですがどうでしょう?

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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