054 猫耳メイドさんと 9
「私の部屋とは言ってもまだ何もないんですが、いいんですか?」
「構わない、というよりお願いしたい。私の部屋は今……ちょっと散らかしていてな。できればもう少し片付いている時にお招きしたい」
「分かりました」
二人は話しながら階段を降りて行った。目指す先は一階にあるマリコの部屋である。
「ええと、ここでしたよね、私の部屋」
一つの扉の前で立ち止まってマリコはミランダに聞いた。同じ作りの扉が並んでいるせいで、今一つ自分の部屋の位置に自信がなかったのである。
「ああ。私の部屋の左隣だったからここで間違いない」
(隣とは聞いてたけど、押入れの向こう側がミランダさんの部屋だったのか)
「ありがとうございます。ではどうぞ、ミランダさん」
「失礼する」
マリコは部屋の鍵を開けるとミランダを招きいれた。マリコの部屋とは言うものの、昨夜寝かされただけであり、まだ私物の一つもない机と椅子とベッドだけの部屋である。
「ああ、マリコ殿。ついでに言っておこう。その窓の外が中庭だ。あるのは、井戸と物干しと物置くらいだったはずだ」
言われて、マリコは障子窓を持ち上げて外を見た。中庭に面した壁にいくつか扉があり、中庭にはミランダの言ったとおりの物があった。先ほど洗濯場で会ったエリーが、中庭は終わったと言っていたとおり、物干しには今は何も干されていなかった。
「どうぞ、お掛け下さい。ミランダさん」
「あ、ああ。ベッドの方に座ってもいいだろうか?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ」
ミランダはベッドの端にちょこんと腰掛けた。しっぽは身体の脇を回しているらしく、足の横から先が出ている。
「ではマリコ殿、約束を果たそう。どちらからが宜しいか? しっぽなら、失礼ながらここに寝転がさせてもらう方が触り易いと思うが」
何気ない風にミランダが言う。耳がピクリと動き、スカートの裾からのぞくしっぽの先が揺れている。マリコは揉み手をしたくなるのを押さえて、密かに唾を飲み込んだ。
「で、では、まず耳を」
「承知した」
マリコは急いでブーツの紐をゆるめて脱ぐとサンダルに履き替え、ミランダの隣に腰を下ろした。まずは間近から耳を観察する。やや短めのボブカットの髪の間から三角の耳が飛び出している。耳の外側に生えた毛は髪のようには伸びないらしく、短めに長さが揃っており、きれいな虎縞模様を描いていた。耳の内側には柔らかそうな白っぽい毛が端からある程度奥まで生えている。そこから奥は人間の耳と同じように産毛の生えた肌になっていた。
「本当に猫の耳に似ているんですねえ。うう、かわいい……」
「そうか? これまで、そんなことは言われたことがないんだが」
「いやいや、かわいいですよ、絶対ですよ、間違いないですよ」
「そ、そうか……」
べた褒めされたミランダは少し顔を赤くする。
「ところでミランダさん、この髪も本当は縞模様なんですか?」
伸ばしてある今のミランダの髪はオレンジ色の髪と茶色の髪が混ざって生えているように見える。
「ああ、根元では耳やしっぽと同じように縞になっている。ある程度長くなると混ざってこのとおりだがな。あ、もしや縞模様が見たいから切れなどとは……」
「言いませんよ、そんなこと。十分きれいじゃないですか」
「そうか?」
「はい」
マリコは言い切った。
「さて、それでは撫でさせてもらっても?」
「ん? ああ」
ミランダは耳を差し出すように、マリコの方に少し首を傾けた。ミランダの目は自然とマリコの顔を見上げるような形になる。
(くっ、猫耳美少女の上目遣い!!)
マリコは声を上げそうになるのをなんとか押さえ、ミランダの耳に手を伸ばした。耳の付け根辺りからそっと撫で上げる。
「ひゃっ!」
撫でられた瞬間、自分で触る時とは段違いのくすぐったさに、ミランダは思わず目を閉じて声を上げた。マリコはあわてて手を離す。
「あっ、すみません。痛かったですか?」
「いや、なんでもない。ちょっとくすぐったかっただけだ。大丈夫、続けてかまわない」
「だめなようなら言ってくださいね」
「ああ」
マリコはまたやわやわと猫耳を撫でる。
(おお、猫耳だあ)
「んっ」
毛並みを確かめるように撫でる。
(柔らかい毛だなあ)
「んんっ」
耳の付け根を爪を立てないようにカリカリと撫でる。
(付け根の形も猫そっくりだなあ)
「ふあっ」
耳たぶを軽くつまんで撫で上げる。
(大きい分、耳たぶは厚めだな。おお、柔らかい)
「ひうっ」
耳の内側を覗き込みながら、そこに生えている毛をそろりと撫でる。
(内側の毛はもっと柔らかいなあ)
「ひゃああっ! ま、待った、マリコ殿っ。んっ、み、耳にっ。いっ、息っ。がっ」
なるべく声を抑えていたミランダだったが、ついに耐え切れずに身体を震わせて声を上げた。傾いた身体をあわててマリコが受け止める。
「大丈夫ですか、ミランダさん」
「だっ、だいじょうぶ……なにかこう、ゾクゾク、しただけ……」
支えられながら、ミランダは潤んだ目でマリコを見上げるのだった。
猫耳を撫でているだけなので大丈夫。
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