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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第七章 メイド(仮)さんと女神様
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485 道の向かう先 8

 三十分程後、ゴケンがトルステンを抱えて戻って来た。もちろん、カリーネを抱いたクロも一緒である。ミカエラたちよりはマシのようだが、トルステンとカリーネも若干顔色が悪い。地面に降り立った時には顔を見合わせて息を吐いていた。


「ふおお……おぉ?」


 先ほどと同じ様に興奮しかかったブランディーヌの声が、何故か尻すぼみになっていく。どうやら、マッチョな大男同士の組み合わせというものが、彼女の琴線にあまり触れなかったらしい。ところが、取り巻いて見守るギャラリーの中には熱の籠った視線を向けている者もいて、マリコはそれに気付いてしまった。


(あー、趣味嗜好の話なんだから、そりゃあまあ、いろいろあるんでしょうねえ)


 メイドさん好きが様々であるように、BL好きにも多くの派閥が存在するようである。とは言え、今その件についてブランディーヌに質問を投げ掛けてそちら方面の談義に巻き込まれている余裕はない。見なかった事にしたマリコはゴケンたちに近付いた。


「皆さんが食堂で待ってますから、行きましょう」


 何やらバツの悪そうなゴケンを促して一行が食堂へと戻ると、先ほど女神の目撃談の話をしていた辺りに主だった面々が集まっていた。夕方が近付いているせいで、一緒に話を聞こうという人の数は減っている。さすがに各自の仕事や自宅の夕食の支度を丸々放り出す訳にはいかないので、大半は戻って行ったのだ。


「さて、とにかく話を聞こうじゃないかい。洞窟が見つかったって?」


 一同が席に着いたところで、タリアが口を開いた。くっつけて並べたテーブルを囲んでいるのは全部で十四人にもなる。当事者であるバルト(パーティー)の五人とゴケンに加えて、タリアとサニアの里長母子と神格研究会の二人にシウン、クロの(ドラゴン)勢。あとはマリコとミランダである。サニアが抜けている厨房の手伝いに入ろうとしたところで何故か呼び戻されたのだ。


「ええ。ただ、見つけたと言うか、落ちたんです。洞窟の中に」


「「「!?」」」


 遠征組を代表して話し始めたバルトの一言目で、里側のメンバーに緊張が走った。落下によるダメージは想像以上に大きいのだ。体勢を崩していたり打ち所が悪ければ、ほんのわずかの高さであっても大怪我になるし、時には死に至る。まして落ちた先が洞窟なのであれば、床はほぼ間違いなく石だろう。


「……ふう。それで?」


 タリアは一瞬の沈黙の後、息を吐いて続きを促す。全員無事に戻って来ている以上、何とかなったということは見れば分かるのだ。労いや心配の言葉で話の腰を折るべきではないだろう。


「はい。そもそも何故そうなったかという所からになるんですが……」


 答えたバルトはそこで一度言葉を切って、ゴケンに目を向けた。黙ったまま腕を組んで座っていたゴケンがそれを見返して渋い顔を頷かせる。バルトは「それでは」と話を続けた。


 ◇


 ゴケンは荷運びのついでにバルトたちの道作りを手伝っていた。邪魔な木があればなぎ倒し、引っこ抜く。行く手を阻む岩があれば時に弾き飛ばし、時に拳や尾の一撃を以ってこれを砕く。ゴケンにとってはいい運動兼ストレス解消になるし、バルトたちにとっても作業に重機が加わるようなものである。(ドラゴン)が暴れているせいでちょっかいを掛けてくる動物も減って、石畳の敷設効率は益々上がっていた。


 ついでにというのも変だが、折角人族の戦い方に長けた一団と共に居るのだからと、合間合間にゴケンはバルトやトルステンからその技を教わった。ゴケンが特に興味を持ったのは格闘系の技である。


 (ドラゴン)は基本的に龍の姿で狩りをし、戦う。わざわざ大きさも力も劣る中間形態(ミディアムモード)や人型で戦う意味があまり無いからだ。龍の身体の構造が武器を扱うのに向いていないので、その場合の戦いは必然的に力業に偏ることになる。


 だが、格闘技なら龍の姿でもある程度身に着けられるのではないか、とゴケンは考えた。実際に教わってみると、身体の構造上再現不可能なものもあったが、再現できそうなものや参考になるものも多い。ゴケンは機会がある度にそれらを試していった。


 その日、東に進んだ一行の前にちょっとした岩山が現れた。年月を経て表面は大部分が劣化して土に覆われ、草木も生えているものの、見えている麓付近がずっと岩肌なので本来岩山なのだと分かる。高さは大した事がないが、平たく広がっていて、岩山というより台地と言うべきなのかも知れなかった。


「回り込むと結構な遠回りになりそうだね」


「でも上は木も生えているし、ゴロゴロした岩も残ってるそうよ?」


「そうだなあ」


 上空から偵察してきてくれたゴケンの報告を基に、トルステンとカリーネが意見を交わし、バルトはそれを聞きながらあごに手を当てた。単に自分たちが前進できればいいという訳ではない。後から来る者の事も考えて道を通さねばならないのだ。


 できた道を通る楽さで言えば、前後に若干の坂道ができるものの、岩山の上を通るルートの方がずっと距離が短いので楽だろう。だが、道を敷く前の、地ならしの手間を考えると迷うところである。そこへゴケンが口を挟んだ。


「山の上の始末は我々に任せてくれればいいだろうに」


「いや、それではあんまりゴケンさんたち頼りになりますし……」


「こっちも楽しませてもらってるからいいんだよ! 今日のところは私だけだが、明日にでもシウンを連れて来ればもっと早いだろう?」


 赤龍であるゴケンの火属性ブレスは山火事の恐れがあるのでおいそれとは使えない。だが、シウンは銀龍なのでブレスも風の属性となり、火事にならないのだ。山道を切り開くには実はシウンの方が向いている。バルトは少々頼り過ぎだろうかと考えていたのだが、本人にこう言われてまで断ることはできなかった。


 ゴケンがバキバキと大き目の木を倒した後を追って、バルトたちが細かい物を処理をし、最後にトルステンが石畳を敷いていく。じきに緩い坂道は終わり、しばらくは比較的平坦な土地が広がっている。そこもどんどん進んで行くと、やがて進路を塞ぐように大きな岩がポツポツと点在していた。


 無理に破砕せずとも進路上からある程度離せればいいので、大抵の岩はゴケンがゴロゴロと転がして脇に除ける。ところがその内の一つを前にして、ゴケンは何やら考え込んだ。それはちょうど龍の姿のゴケンの胴体位ある、縦長の岩だった。ゴケンは後方に居るバルトたちを振り返る。


「ナゲワザ、タメシテミタイ。ヤルゾ!」


 龍の姿特有の、割れ鐘のような声が響き渡る。どうやら、バルトたちが教えた技を岩相手にやってみるという事のようだ。もちろん、教えたのは人型の時である。(ドラゴン)サイズで実際にやってみる機会はそうそう無いだろう。


「え! 投げるの!?」


「待った待った! 皆、もっと下がれ! 離れろ!」


 元々やや後ろに居たバルトたちだが、急いでさらに距離を取り、脇に除けられた岩の陰へと駆け込む。岩をゴロンと転がすくらいならまだしも、投げられては巻き添えになりかねない。バルトたちが十分離れたのを見て、ゴケンは目の前の岩を抱き締めるように龍の両腕でつかんだ。


「バック! ドロップ!」


 力強い両脚が地面を蹴り、それを補助するようにしっぽも地面を叩く。ゴケンの身体が斜め後ろに向かって飛び上がった。長い首は地面に激突しないよう、前に向かって曲げられ、同時に翼を一打ち。巴のマークのような形になったゴケンは岩を抱いたまま、グルンと半回転した。


「なんか違うぞ!?」


 バルトたちの教えた技は、(ドラゴン)の体型に合わせてアレンジされたらしく、妙に派手な動きになっている。それでも一瞬の後、身体一つ分ほど後ろに、突き刺さるような勢いで岩の先端が着地した。ドカンという音と共に地響きが広がり、土ぼこりがもうもうと舞い上がってゴケンの姿を隠す。続いて、ガラガラと岩の砕けるような音と共にゴケンの声が聞こえた。


「ガアアッ!」


「ちょ、ゴケンさん!?」


「大丈夫なの!?」


「「(ウィンド)!」」


 (ウォーター)着火(ファイア)と並んで、日常的によく使われる(ウィンド)が岩陰から複数飛んで、土ぼこりを吹き散らす。しかし、辛うじて開けた視界の向こうに、ゴケンの姿は無かった。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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[一言] ホールインワンしてしまったのかw
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