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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第七章 メイド(仮)さんと女神様
488/502

482 道の向かう先 5

「ただ……」


 皆の声が収まるのを待って、エイブラムは再び口を開いた。一通り話し終えたかに見えたが、まだ何か続きがあるらしい。


「神々の御召し物については、これまでの認識を改めるべきではないかという議論が、本部の方でも行われているようです」


「これまでの認識?」


 首を傾げたマリコにエイブラムは「ええ」と頷いた。


「神々はそれぞれの象徴たる色か、それに近い色の物を御召しになられる。それが我々のこれまでの認識でした」


 各地での目撃情報や加護を得た人の話をまとめた結果、これまではそうだったという。例えば火の女神なら、鎧姿だったり衣をまとっていたりと服装の情報は複数あるのだが、色に関しては全て赤系統、つまり炎の色合いであったそうだ。


 一番目撃情報の多い風と月の女神は、色どころか服装までいつも同じ、あのサリーのような白い衣である。イメージカラーで言えば髪の銀か瞳の金ということになるのだろうが、絹のような光沢のある衣が銀に近い色合いと捉えられているらしい。


(あれはイメージがどうこうと考えた結果じゃなさそうですけど)


 時々洗濯に行ったりするので、猫耳女神の服が着替えまで全部同じデザインだと知っているマリコとしては、そう考えざるを得ない。そもそもあの衣装は女神ハーウェイの衣そのままなのだ。しばらく前までなら、新しいデザインを考えるのが面倒だったからそうしているのだと思っていただろう。


 しかし、このところ女神の考えや現状を知るにつれて、余計な力を使わないためにそうしている、あるいは元々そんなところまで気を回せるほどの余裕は無いのではないかと思えるようになってきていた。


(とすると、掃除や洗濯がいい加減だったのも力の節約……、いえ、そっちは単なるズボラの可能性も……)


「ところがです。先日の、ミランダ様に似た風と月の女神様が現れる件がありました」


 考えに浸りかけていたマリコは、エイブラムの声に顔を上げる。似たも何も、変神(へんしん)を忘れたミランダ本人だったのだが、そんな事を口に出す訳にもいかない。微妙な表情になっているミランダとこっそり顔を見合わせるに留めた。


「あれで議論が起きたのです。御召し物の事だけではありません。神々はその御姿さえ変える可能性があるのではないか、と」


 元の世界でも姿を変える神仏の話は多かった。そもそも、人智を超えた存在が人の姿をしていなければならない必要はないだろう。仏教だと仏様は一定の形などに収まらない存在であり、衆生――普通の人たちの事――に理解しやすい姿として仏像のような人型を取って現れるとされている。


 もっとも、今エイブラムが言っているのはそこまで突き詰めた、理屈の話では無さそうだった。何せこの世界では、神が存在する事を誰もが知っている(・・・・・)。物理的に現れる事が度々あるのだから、視覚情報の重要度も高い。


「そこへ先ほど、新たな情報が入りました。昨日また、一人の女の子が助けられたそうです」


「えっ!?」


 エイブラムの言葉に驚いた声を上げたのはブランディーヌである。


「それ、私聞いてないんですが!」


「それはそうでしょう。私も本当につい先ほど、中央から送られてきたメッセージで知ったばかりの『第一報』ですから。君に伝えるのは私の役目で、だから今伝えたんです」


 エイブラムによると、そのメッセージを受け取ったのは龍の国の転移門を(くぐ)る直前だったらしい。ナザールの里に女神が、という連絡を受けて戻る途中で来たそうだ。本部から来た「情報」と今から向かう「現場」。エイブラムがメッセージの方を後回しにしたのも無理からぬ事だろう。


「そ、それで、内容は!?」


 食いつくブランディーヌにエイブラムは頷いた。


「場所は中央四国(よんごく)よりさらに西にある街の郊外。雨で増水していた川に落ちた女の子が神様に救い上げられたそうです」


「それだけじゃ神様かどうか分からないだろうに、その方は何をやらかしたんだい?」


 タリアが面白そうな顔をして聞いた。同じ疑問をマリコも抱いたところだったので、つい頷く。女神のクエストは「助けられればそれで良し」なので、助けられた方が必ずしも「神様に助けられた」と気付くとは限らないのだ。こっそり危険から遠ざけた場合など、助けられた事自体に気付かない時もある。だが、それで構わない。


「渦を巻く濁流が、いきなりその子の近くだけ止まったんだそうです。ただ、その子は泳げなかったらしく、それでも溺れかけた。そこへ水着姿の神様が飛び込んで抱え上げられたそうです。それでその子を岸に居た親の所まで届けた後、『飛び込まなくても良かったんだ』とつぶやかれて、川面を歩いて去って行かれたとのことです」


 それは確かに人間業では無さそうに聞こえた。しかし、マリコのゲームでの知識で言えば、水系の魔法を極めた者なら近い事はできそうにも思える。ただ、ここでマリコが気にすべきなのは、この「神様」はマリコではなく、ミランダでもなさそうだという事だった。そしてやはり、やり方が猫耳女神でもなさそうなのだ。


(他にもこれをやっている人が居る?)


「それで、その神様について、他には!?」


 再び思索の淵に沈みかけたマリコの意識は、どこか切羽詰ったブランディーヌの叫びによって引き戻された。エイブラムは落ち着いた表情のまま、ブランディーヌを見る。


「うむ、間近で見た者が居ますからね。その方は青い髪に青い瞳、にも係わらず緑色の水着をまとっておられたそうです。だからこそ今、本部では神々のお姿や御召し物について……」


「エイブラムさん、私が聞きたい事を分かってて言ってるでしょう!? 私が聞きたいのは! 男神様なんですよね、って事なんです!」


 エイブラムの言葉を遮って、ブランディーヌは叫んだ。エイブラムは気の毒そうな目を向ける。ブランディーヌの顔から、見る見る血の気が引いていった。


「神が御召しになっておられた水着は上下が別れた、大層布面積が小さい物だったそうです。で、かなり豊かなお胸をお持ちだそうです」


「あっ、ああっ……」


「背丈は人としては並み程度。つまり、君くらいの背格好の女神様だった、とのことです」


「……」


 「水の神様は男神派」の急先鋒であったブランディーヌは、言葉を失ってその場に崩れ落ちた。

ブランディーヌさんの「水の神様は男神派」活動については「216 新たな日常 15」および「219 来たるべき者 2」、「222 来たるべき者 5」辺りをご覧ください。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ブランディーヌさんの神様オタク具合が面白いです笑 いや、この世界ではブランディーヌさんほどの神様オタクはそうそう珍しいものでもないのでしょうか?
[一言] ブランディーヌさんドンマイ
[一言] 水着あるんだこの世界 まあ、マリコさんは当然持ってるとしてw
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