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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第七章 メイド(仮)さんと女神様
487/502

481 道の向かう先 4

「ブランディーヌ君。君は目先の事に囚われ過ぎている」


 連絡(メッセージ)を受け取って出向先の龍の国から急遽戻って来たエイブラムは、ブランディーヌの話を聞くなりこう言った。


「なんですって!?」


「このところ、ミランダ様が風と月の女神様の化身だどうだという噂が流れて、君もそれに引きずられているようだが、今回の件から我々が受け止めるべき事柄の本質は、化身がどうこうという話ではないだろう?」


 ブランディーヌに疑問を投げ掛けて一旦黙らせ、エイブラムは額の汗を拭った。こちらも転移の後、門から駆けつけてきたのである。空になっていたエイブラムのカップにおかわりの水が注がれる。


 皆は再び食堂に集まっていた。むしろ、人数自体はアリアが駆け込んできた時よりずっと増えている。マリコ、ミランダにブランディーヌという、里の中でも目立つメンバーが急いだ様子で行き来したので、それを見た人たちが何事かと集まってきてしまったのだ。


 真ん中に座らされているのは今回の当事者であるカミルとアリアで、その向かいに神格研究会の二人が陣取っている。そこでブランディーヌが一連の出来事と自らの所見を述べたところでエイブラムの待ったが掛かったのだった。


「いいかね、ブランディーヌ君。ミランダ様とマリコ様は神々の加護を受けておられる。それは間違いないことだろう。そして、神々が誰かの命を救ったと思われる話が増えてきている。こちらも個々の真偽はともかく、誰かが助けられたのは本当の事だ。だが、この二つは本来全く別の出来事で、関連があるのかどうかは不明だ」


 近くで見守るマリコたちに軽く頭を下げながら、エイブラムは言った。ミランダの姿が伝承にある風と月の女神のものに近付いて以来、彼はミランダにも「様付け」である。一方、その二つをまとめて考えていたブランディーヌは微妙に口を尖らせる。


「それはそうですけど……」


出版部(きみのところ)は多少の誇張があっても、神々の素晴らしさを伝えられればそれでいいのかもしれないが……真偽については神々の判定(ジャッジメント)もあることだしね。しかし、今回重要なのは、こちらのカミルさんとアリアさんを助けたのは神々の内のどなただったか、ということだ」


「え……? あ!」


 一瞬虚を突かれたような顔をしたブランディーヌは、すぐに何かに思い至ったような声を上げた。エイブラムが頷いて席から立ち上がる。ブランディーヌだけではなく、この場に居る全員に向かって話し掛けるつもりのようだ。


「そうです。現れた、神と(おぼ)しき方の姿は、今のマリコ様の様な服装に黒と思われる髪。これはどなたの事なのでしょうか?」


 エイブラムのセリフに、皆の視線が引き合いに出されたマリコに向けられる。


「命と太陽の女神様……」


(いや、ちょっと待って待って)


 誰かがポツリと漏らした声に、視線に込められた温度が上がる。マリコは盛大に顔を強張らせ、思わず首元に手を当てた。襟に隠れて見えないが、そこには命と太陽の女神の色とされる黒の、しかも外すことのできないチョーカーが巻かれている。今日現れたのが変神(へんしん)したマリコではないのは確かだが、似たような事はやっているのでどうにも居心地がよろしくない。


「そう、命と太陽の女神様です。これは! つまり!」


 マリコの内心をよそに、エイブラムは注目を集めるように語調を強めた。当然マリコもそちらに向き直る。すると何故か、エイブラムの方もマリコに目を向けていて、お見合いする形になってしまった。マリコの頬が再びピキッと引きつる。


「これまで記録の無かった、命と太陽の女神様のお姿。その一部が判明したのかも知れない! という事なのです!」


 おおお、とどよめきが食堂内に広がっていく。マリコがふと隣を見ると、並んで話を聞いていたミランダも、皆と一緒になって感激したような表情を浮かべている。マリコは小声で聞いた。


「そんなにすごい事なんですかね?」


「何を言われる。神々の今まで謎だった事が明らかになるなど、滅多に無いのだぞ? 神話に書き足されるかも知れぬのだ。……まあ、マリコ殿……と私とは、その滅多に無い所に足を踏み入れている訳だが」


 同じく小声で答えかけたミランダは、途中からさらに声を潜めてそう言った。現代日本の感覚を引きずっているマリコにはピンと来ないところではある。だが、神々の実在が知られていて、神話が実話と認められているこの世界では、その書き足しとは歴史書あるいは常識の書き足しにも等しい。


 それにマリコがなるほどと頷いている間にも、エイブラムの話は続いていた。


「そのような訳で、今回の件について私は、もう少し話をお聞きした後、このブランディーヌと共に本部へと報告するつもりです」


 再び食堂に、今度はどよめきを越えて歓声が上がる。自分たちは今、神話が書き換えられる――かも知れない――場面に立ち会っているのだ。その栄誉の一翼を担う事になるブランディーヌも立ち上がって周りに頭を下げている。化身云々の話はとりあえず横に置かれ、「命と太陽の女神の姿は、マリコ様の様な服装に黒らしい髪」と報告されるらしい。


(いや、待って待って)


 これまで、白と黒という色の情報しかなかった命と太陽の女神だが、黒ワンピースに白エプロンなどという、服装を特定してしまっていいものか。ついでに自分の名前を引き合いに出すのはどうなのだ。止めようもない雰囲気を感じながらも、マリコは頭を抱えた。

抜けのある神話については「021 世界の始まり 18 一冊目『世界の始まり』」をご覧くださいますよう。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様が実在する神話というのは、こうして続きが描かれて行くんですね〜
[一言] 猫神様の衣装が公式にミニスカメイドエプロンになってしまう? (^_^)b どこかに神絵師はいませんか!! イラストプリーズw
[一言] そしてマリコさんを命と太陽の女神の挿し絵のベースモデルに起用してマリコさんに信仰が集まっていく流れかな?
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