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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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048 猫耳メイドさんと 3

 ミランダは二本目の木刀をアイテムボックスから取り出すと、それを横向きのままマリコに向かってひょいと放った。弧を描いて飛んできたそれを、マリコは反射的に受け止めた。きれいに磨かれて艶光りするそれは、形といい重さといい、日本にあった木刀そのものだった。


「構えられよ」


 そう言ってミランダは木刀を中段に構えた。左足を下げてまっすぐに立つその姿勢は、剣道の構えそのままのようにマリコには見えた。春の午後の日差しの中、茶色の瞳の中の光彩は針のごとく細まり、ボブカットの髪の間から出た耳はピンと立ち、スカートの裾から下がったしっぽはゆらりゆらりと左右に揺れている。


(おお、木刀とは言え、剣を構える猫耳メイドさん!)


 ミランダの姿に見惚れて無意識に自分も構えを取ろうとしたマリコは、そこでハッと我に返った。握った木刀を慌てて下ろすと、ミランダに左の手のひらを向けてブルブルと振った。


「いやいや、待って待って。待ってください、ミランダさん」


「どうなされた」


「どうなされたじゃありませんよ。どうして一勝負とかいうことになるんですか。私にはミランダさんと勝負しなくちゃいけない理由が全くないんですけど」


「マリコ殿、それは貴殿の強さを確かめたいからだ」


「え? 強さを確かめる?」


「そうだ。今後、貴殿が我らと共に狩りに出られるかどうか、私は確かめておかねばならない」


「狩り? ミランダさんが狩りに行くんですか?」


「私だけではない。エリー達も一緒だ」


「は?」


 宿屋の女中さんが狩りに行かねばならない理由がマリコには想像できなかった。


「ああ、マリコ殿は忘れているのか、そもそも経験がないのか。ふむ、これは先に説明が必要だな」


 ミランダは納得するとようやく木刀を下ろした。


「マリコ殿、先ほど串焼きを作るのに、鶏の他に野豚の肉を使っただろう?」


「野豚……、ああ、昨日の定食でも出ていたあの肉ですね。あ、野豚っていうことは野生なんですか」


(家畜になってるなら、普通「野」はつかないよな)


「そう、あれが野豚だ。あれは森に住んでいるから、時々我々が狩りに行くんだ」


「そういうことですか」


「増えすぎると里まで出てきて悪さをするからな。間引きも兼ねている。で、宿屋で使う分以外は肉屋に回すんだそうだ。里の中で売る以外に他の門に売りに行ったりもすると聞いた」


(鶏肉は輸入して豚肉を輸出してるようなものなんだな)


「なるほど。でもどうして宿屋の人が狩りに行くんですか? 狩人さんっていないんでしたっけ?」


「野豚については、一番たくさん使うのが宿屋(うち)だから、それが手っ取り早いからだと聞いている。そもそもここは最前線(フロンティア)だから、ほとんどの者がちょっとした狩りくらいはできる。だから狩り専門の者はここの里にはまだいないとタリア様が言っていた。それにそこまでいくと大抵は探検者(エクスプローラー)の領分になるからな」


探検者(エクスプローラー)?」


(また知らない言葉が出てきたぞ)


「ああ、新しい門の周りなどのこれから開拓しようとする土地から危険な動物を駆逐したり、そこに何があるか探ったりする者を探検者(エクスプローラー)というのだ。探検者(エクスプローラー)の中には狩りが中心の(パーティー)も多いから、最前線(フロンティア)で狩人の役目をしているのはもっぱら彼らということになろう」


探検者(エクスプローラー)っていうのは、ゲームとかによく出てくる冒険者みたいなものなんだな)


「野豚狩りもその人達に頼めば済むんじゃないんですか?」


「駆け出しの者ならともかく、ある程度腕のある探検者(エクスプローラー)なら野豚狩りでは割りに合わないのではないかな。それに、いつ出掛けて行っていつ帰って来るのかはっきり分からん連中だからな。毎日のように使う肉には間に合わない。自分達で行く方がマシというものだ」


「そういうことですか」


「ついでに話しておくと、探検者(エクスプローラー)の中で、特に新しい門を見つけることを目標にしている者を門の探検者(ゲートファインダー)と呼ぶのだ。タリア様は門の探検者(ゲートファインダー)として旅をして、見事門を見つけた方なのだぞ」


「その二つ、どう違うんでしょう」


「普通の探検者(エクスプローラー)は、言ってみれば、新しい門や里を中心に開拓者(パイオニア)が拓くための土地をゆっくり広げていく者だ。だが、門の探検者(ゲートファインダー)の方は、途中を飛ばして一気に次の門を目指す者。どちらも人の住む領域を広げる者ではあるが、どちらがより危険だと思われる、マリコ殿」


 ミランダは言葉を止めてマリコに聞いた。彼女の言葉には門の探検者(ゲートファインダー)に対する憧れや畏敬の念が込められているようにマリコには感じられた。


「それは門の探検者(ゲートファインダー)の方でしょうね。常に未開の地を行くことになるんですから」


「マリコ殿もそう思われるか。その危険な旅を経て、タリア様は十八の時にここの門に着いたのだそうだ。今の私と同じ歳ですごいことだ」


 そう語るミランダの瞳はまたキラキラ輝いている。


(タリアさんはミランダさんの憧れを体現した人っていうことなのか)


「というわけで、マリコ殿」


「は、はい」


「数日中には野豚狩りに出掛けねばならぬのだ。いざ、勝負!」


 いきなり呼びかけられ、驚いて返事をしたマリコに対して、ミランダはキラキラした瞳のまま木刀を構えた。


(結局、そこに戻るのか!)

なんか会話ばっかりに…

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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