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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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046 猫耳メイドさんと 1

 仕込みが終わり、使っていた包丁やまな板を洗っていたマリコは、ふと忘れ物を思い出した。今朝、部屋で使った食器や桶がアイテムボックスに入れっぱなしになっていたのだ。食器類は同じ物が食器棚に並んでいたので、洗ってそこへしまったものの、浴衣や桶をどうすればいいのか分からない。


「サニアさん、お借りした寝巻きや桶を持ったままなんですが、これどうすればいいんでしょう?」


「ああ、ごめんなさい。言ってなかったわね。洗濯物は朝洗濯場に出しておいてくれればまとめて洗うから、明日からはそうしてちょうだい。今日のところはとりあえず洗濯場へ持っていってくれればいいわ。桶はマリコさんが自分のを買うまでそれを使っててくれるかしら。そういえば、着替えも持ってないのよね……そうね、明日一緒に買いに行きましょう」


「え、買物ですか?」


「そうよ。着替えもないんじゃ、あなたも困るでしょう?」


 借りた物をどうするかという話がいきなり買物に行く話になって、マリコは思わず聞き返した。そもそも今のマリコは無一文なのだ。サニアに言われるまで、買物に行こうという考えさえ持っていなかった。


「それはそうなんですが、買物しようにも、私お金を持ってないんですが……」


「そこは心配しなくてもいいわよ。その辺を立て替えておくのも宿屋の仕事のうちなんだから。ここで働いて、お給金が貯まって返せるようになったら、その時に返してくれればいいのよ。女将から新しい門の話、聞いたんでしょ? 最前線(フロンティア)にやってきた開拓者(パイオニア)の面倒を見るのも、それと同じことなのよ」


「給金……、出るんですか」


「何言ってるの、当たり前じゃない。決めるのは女将だから細かいところは分からないけど、宿屋(うち)の仕事で住み込みなら、食事や部屋代の分を引いても一日で大銀貨四、五枚くらいにはなると思うわよ」


 マリコとしては、「とりあえずタリアに保護してもらった」という感覚だったので、ここで働くという形にはなったものの、給料が支給されるというところをすっかり忘れてしまっていた。しかし、マリコは表向きには、タリアの知人の紹介でやってきた住み込み要員である。給料が出ない方がおかしいことになる。


(昨日はそんな話どころじゃなかったからな。でもそういえば、今朝聞いたような気もするな。ええと、仮に銀貨一枚百円とすると、手取りで日給四、五千円。一月で少なめに見て二十日分として八万から十万円くらいか。食費と家賃分引いてそれなら、歳の割には高いんじゃないか?)


「それ結構高いんじゃないですか?」


「そうね。ここの里では一番高いかも知れないわね」


「ええっ!?」


 マリコが驚いていると、悪戯っぽい顔で見ていたサニアがぷっと吹き出した。


「いやねえマリコさん、考えてもみてよ。この田舎の里には、農家の他には小さいお店がいくつかあるくらいなのよ。お給金をもらってる人が何人いると思う?」


「え。ああ、そういうことですか」


(農家なら作った物を売ってお金にするんだろうし、お店も小さいなら家族だけでやっててもおかしくない。税金とかがどうなってるのか分からないけど、必要経費に計上するために家族に給料払って社員扱いとかは……、ないんだろうなあ)


「そう、この里でまともにお給金をもらってるのは、うちの娘達だけなのよ。だからその中でも働く時間が長くなるあなたやミランダのお給金が一番高いってことになるの。でも、金額としては普通そのくらいよ。気にしなくてもいいわ」


「分かりました」


「ああ、ずいぶん話がそれちゃったわね。洗濯物のことだったわよね。ええと、ミランダ!来れる?」


 ようやく元の話に戻したサニアは、ジュリアとテーブルを拭いていたミランダを呼んだ。


「何用かな、サニア殿」


「そっちはもう終わりでしょう?マリコさんが初めてだから、洗濯場に連れて行ってあげてちょうだい。ついでに、エリーがそろそろ洗濯物を取り込んでると思うから、二人で手伝ってあげて。それが終わったら二人とも夕食時間の準備を始めるまで一休みしていいわよ。なんなら、裏の方に何があるか、マリコさんに教えてあげてくれると助かるわ」


「承知した」


 やってきたミランダにサニアはてきぱきと指示を出す。ミランダは手にしていた台拭きを洗って置くとマリコの方を振り返った。


「ではマリコ殿、参ろうか」


「はい」


 マリコはミランダについて厨房を出た。そのまま廊下をずっと進み、いくつかある宿屋の裏口の一つ――正面の入り口とは反対側にあたるもの――から外に出る。少し傾いた太陽がまぶしく、マリコは思わず目を細めた。


 じきにまぶしさに慣れたマリコの前には、渡り廊下で繋がったそこそこ大きな平屋の建物があった。建物の屋根には煙突があり、かすかに煙が上がっている。


「マリコ殿、これが浴場だ。洗濯場はこの裏にある。こっちだ」


「これ、お風呂場なんですか。大きいですねえ」


 ミランダに続いて進みながらマリコは答えた。建物の大きさは体育館とまではいかないものの、学校の教室をいくつか並べたくらいはある。


「一度に五、六人入れるくらいだな。宿屋の者だけでなく、里の者も時々入りに来るから、このぐらいは必要だろう」


「ああ、公衆浴場を兼ねてるんですか」


 建物の裏側に回り込むと、建物の前は物干し場になっていた。柱に掛かった竿が並び、シーツや浴衣を始めとした洗濯物が風になびいている。


「エリーはいるか? マリコ殿を連れてきたぞ」


 ミランダが声を掛けながら入っていったので、マリコも続いて洗濯場に入った。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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