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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
45/502

045 夕食の仕込み 2

※2015/03/03少々追記と微修正しました。

 厨房には、数基並んだかまどの端に大物用のグリルがある。そこに起こされた炭火に置いた網で、マリコは焼き鳥を焼き始めた。もちろん、焼き加減や串を焦がさないための注意など、調理ができる組への解説も忘れてはいない。こちらにも長い串を使ったバーベキューのような串焼きはあるが、こんな小さい串焼きは珍しいらしく、皆興味津々でマリコの作業を見守っている。


「マリコさん、この串焼きはどうしてこんなに小さく作るの?」


「ええと、食べやすさと手軽さ、なんだと思います。お酒を飲みながら片手で食べられますし、量も加減できて種類も選べますから。酒の肴の定ば……いえ、酒の肴にはこういう方がいいんだって、これを教えてくれた祖母が言ってたと思います。後は、小さい方が早く焼きあがるからですね」


「へえ、考えてあるのね」


 サニアの質問に素で答えそうになったマリコは、祖母を引き合いに出して誤魔化した。


(こっちに無い料理かもしれないのに定番とか言い切ったらまずいよな)


「あ、いい匂いがしてきた」


「昼を食べたばかりだというのに、この匂いを嗅ぐと食欲が湧いてくるな」


「ビールが欲しい……」


 網の上に並んだ串が香ばしい匂いを上げ始めると、期待のこもった声が上がる。炭火に落ちた油が盛大に上げる煙のほとんどは、グリルの上に設けられた、煙突につながる排気口に吸い込まれていく。それでも厨房には肉と油の焼ける匂いが満ちていった。


 今回の試食者は、タリア、サニア、アリア、ミランダ、ジュリア、エリー、帰って来たハザールの七人である。エリーは昼食後洗濯に戻っていたのだが、通いの娘の中で一番の酒飲みということで、意見を聞くためにジュリアがわざわざ呼び戻しに行ったのだった。


 やがて、数本ずつの試作品が焼き上がった。さすがに全員に全種類を一本ずつは多すぎるので、分け合っての味見が始まった。マリコとしては、焼き加減は問題はないと思うものの、受け入れられるかどうかはまた別である。今度はマリコの方が固唾を飲んで見守ることになった。


 結果として、評価は分かれた。否、評価自体は高く、好みが分かれたのだった。


「端がカリッとなった皮が一番おいしい」


「このズリのコリコリした感じが……ビール……」


「肝臓がこんなにおいしいなんて」


「串焼きなら、やはり肉こそ本命」


 順にハザール、エリー、ジュリア、ミランダの意見である。侃々諤々(かんかんがくがく)、感想を求められた皆が好き勝手に自分の好みを言い合っている。


パンパンッ!


 手を叩く音が大きく響いて皆が固まり、一瞬の静寂が訪れた。手を叩いたタリアはその隙を突いて声を上げる。


「おいしいってのはもう分かったから。何か問題があると思うやつだけ言ってみな」


 反論の声は上がらず、タリアは頷いてマリコを振り返った。


「ということさね。あんたはそのまま続行。できそうなところはサニア達に任せていいからね。いいかい」


「分かりました」


 タリアのゴーサインが出たので、マリコ達は本格的に焼き鳥を仕込み始めた。基本的には、一本一本にボリュームの差が出ないように気を付けて串に刺すだけである。マリコは見本の串をいくつか作り、気を付けるところを伝えた後、そちらの作業をサニア達に任せて、自分は一番手間の掛かる皮巻き焼き鳥に専念した。


 ミランダはひたすら串を削っている。アリアはサニアの隣で串刺し作業を、ハザールも材料や道具を運ぶのを手伝っていた。ジュリアとエリーはそれぞれ自分の持ち場へと戻って行った。


 ◇


 しばらくして、串作りが終わった。種類別に皿に盛られた串の山には乾いてしまわないように絞った布巾が掛けられ、一旦冷蔵庫へとしまわれていく。マリコは初めて触れるこちらの冷蔵庫をしげしげと眺めた。


(この冷蔵庫、見た目は木のロッカーみたいなのに、ドアを開けたら中で灯り(ライト)が点るとか、電気冷蔵庫そっくりだな。どういう原理なんだろう)


 サニアに聞いてみると、中に魔法回路だか魔術回路だかが組み込んであり、魔晶から供給される魔力で魔法を発動させるのだと言う。エルフの国の魔法研究者とドワーフの国の技師が協力して何十年か前に開発した物で、それなりに値段が高いので宿屋や店くらいでないと置いていないそうだ。


(本気で電気冷蔵庫の魔法版なんだな)


「普通の家ではどうしてるんですか」


「氷を入れて冷やす保冷庫を使っている家がほとんどじゃないかしら。ほら、保冷庫に使うくらいの量なら、ほとんどの人が(アイス)の魔法で出せるから」


(魔法、便利すぎる)


 串の山をしまうと夕食の仕込みも粗方終わった。あちこち確認していたマリコは、ふと油の入った鍋に目を留めた。大量のから揚げを揚げた油はかなり黒っぽくなっている。


「サニアさん、揚げ油はどうしましょうか。交換するんですか?」


「え?ああ、それを忘れてたわね。はい、浄化(ピュリフィケーション)


 サニアが魔法を使うと、黒っぽかった油はかなり元に近い色になった。


「これで今日は、減った分を足してやれば大丈夫よ。まあ、痛んだ油が元に戻るわけじゃないから、明日には交換ね」


 明るく言うサニアにマリコは目を瞬かせた。


 浄化(ピュリフィケーション)は不純物を取り除いたり、汚れを落としたりする魔法である。汚れを取るだけなので、酸化した油を元に戻すことはできない。これもゲームには無かった魔法だが、マリコには別のゲームやTRPGなどで見た覚えがあった。


(溜まり水を飲めるようにしたりとか、泥を落としたりとかは小説なんかで読んだことがあったけど、揚げ油の細かい揚げカスも取れるのか。いやまあ、考えて見れば同じことだよな。それにしても、魔法、便利すぎる)

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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