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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第六章 メイド(仮)さんの奔走
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440 龍の国滞在記 12

 マリコの腕、肘の辺りがぱしぱしとタップされた。こちらの世界でも使われていたギブアップのサインだ。マリコは詰めていた息をふうと吐き出すと、角に引っ掛けていた右手の指を放し、その右腕でロックしていた左腕を相手の首から外した。


 次いで、膝裏で挟み込んで動きを封じていた翼も解放してよっこいしょと立ち上がる。一緒に地面に倒れ込んでいた相手の方も、一旦ごろりとうつ伏せになってゲホゲホと一頻り咳き込んだ後、何とか立ち上がった。


「ああー、かっはっは。いやー、負けた負けた。強いなあ、あんた。いや、マリコ様」


「いえいえ、そちらこそ。今のはかなり際どかったですよ、ゴケンさん」


 口の端から垂れた血を拳で拭って豪快に笑う壮年の赤龍に、マリコは素直に返事をした。実際、このゴケンがそれまでに相手をしたクロを含む八人より一段と手強かったのも事実である。長袖とロングスカートに隠れて見えないが、マリコの方もいいのをいくつももらっている。放っておけば明日には、身体のあちこちが斑模様の奇妙な生き物になれるだろう。


 マリコがゴケンと自分自身に浄化(ピュリフィケーション)治癒(ヒール)を施している間に、二人の少女が駆け寄って来た。クロとコウノである。最後の一人、ゴケンは彼女たちの父親なのだった。


「父様にまで勝つなんて、マリコ様すごいです」


「マリコ様、カッコいー。父様、カッコわりー」


「何だと!? コウノ、ちょっとこっち来い!」


「いやべー」


 赤龍娘であるコウノが逃げ出し、赤龍親父ゴケンがドスドスと足音を立てて追い掛け回す。腰に手を当てたクロが呆れて見ているところからすると、割りといつものことのようだ。周囲のギャラリーからも笑い声が上がっていた。


「ともあれ、人族でも強い奴は強いってことは納得した。皆もそれでいいか!?」


 いつの間にか戻って来たゴケンが言い、応という答えが周囲から返ってくる。対戦前にクロが教えてくれたところによると、ゴケンは龍族でも有数の実力者なのだそうだ。少し離れたところでコウノが頭を押えてしゃがみ込んでいた。捕まって拳骨を喰らったらしい。


 マリコは周囲に一度頭を下げてから口を開く。


「もちろん、街に住んでいる人たちの多くはそんなに強くはありません。でも探検者(エクスプローラー)の中には、私程度の者はそれなりに居ると知っておいてください」


 ゲームの「マリコ」は、決して最強のキャラクターではなかった。故にこの世界にもマリコより強い人はきっと居るとマリコは思っている。中間形態(ミディアムモード)(ドラゴン)との手合せに限って言うなら、バルトやトルステンも負けはしないだろう。ミランダや速攻の得意なミカエラでも十分戦えるとは思う。


 ともあれ、龍族側の用件は終わった。次はマリコの番である。皆が集まっている今の間に試しておきたい事があるのだ。マリコはあえて声を張って呼んだ。


「クロさん、ちょっとこちらへ」


「? 何でしょうか」


 今度は何が始まるのかと注目が集まる中、クロがマリコの前に立つ。


「先ほど、私はクロさんに治癒(ヒール)の魔法を掛けましたね」


「はい」


「この治癒(ヒール)、クロさんにも使える様になるとしたら、手に入れたいですか?」


「えっ、そんな事ができるのですか!?」


 クロが目を見張り、周囲がどよめく。龍族には治癒(ヒール)が使える者がほとんど居ないのだ。マリコは頷き返した。


「神格研究会の方々が長い年月を掛けて、治癒(ヒール)が使えるようになる条件を調べ上げられました」


 マリコは続けてその条件を並べていく。即ち、治癒(ヒール)を五回以上受ける、ポーションを一回以上使う、瀕死の重傷を負うの三つである。


「そして、治癒(ヒール)を使えるようになりたいと強く思うこと。ただ、ここから先がまだはっきりとは分かっていません。若い方が身に付け易いというのが研究会が現在つかんでいることだそうです。これを私は、新しい能力を手に入れられるだけの余力のようなものがあるかどうか、なのではないかと思っています」


 若い方がスキルポイントに余裕があることが多いという話だが、さすがにそれを明言する訳にもいかない。マリコは神格研究会の調査結果に自分の見解を付け足す形で説明した。この世界でも多くの事に手を出すよりは特定の何かに注力する方が上手くなり易い、つまり、一人の人がやれる事には限界があるというのは経験的に知られていたので、納得できる話ではあるのだ。


「そこでクロさん、それに今手合せしてもらった皆さんもですが、さっき私が言った三つ目の条件を備えている可能性が高いんです」


 手合せを始めるに当たって、マリコが出した対戦相手を選ぶ条件。それが「過去に、死にかねない大怪我をしたことがある」だった。マリコはクロに向かって指を一本立てる。


「先ほど、クロさんには一度、治癒(ヒール)を使いました」


 クロに向けられた手が開き、立てられた指が四本になる。


「あと四回、同じ事を繰り返せば、クロさんは治癒(ヒール)を使えるようになれる、かも知れません。必ずとは言い切れないのが申し訳ありませんが」


 周囲が再びどよめき、クロは息を飲んだ。治癒(ヒール)の取得はそれだけに留まらない。治癒(ヒール)を使える者の中からさらに、病気や麻痺などを治す魔法が使えるようになる者が出る。そのこともツルギを始めとした、人族と暮らした経験のある者から伝わっている。ツルギたちの二度童(にどわらべ)を治したマリコの魔法もそれだ。自分がそこまで至れるとまではさすがに思えない。しかし。


「挑んでみる気はありますか?」


 マリコの誘いに、クロははっきりと頷いた。それを見て取ったマリコの手が、今度は握られて拳になる。


「なら、もう少し手合せを続けましょう。治癒(ヒール)は効果を伴わないと使った事にならないようですから、今度は正面から当てに行かせていただきます。クロさんも遠慮なく来てください」


 ここに至るまでずっと考え続けてきた、マリコの治癒(ヒール)取得実習が始まる。

殴って治す。手合せの結果なので、わざわざ傷つけてる訳じゃない(笑)


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] す、スパルタマリコさんだ…(違う
[一言] マリコのヒーラー道場(ガチ)w
[一言] マリコさんは普通に強い。(まる)
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