044 夕食の仕込み 1
昼食後、マリコ達が洗い物をしているとアリアが戻って来た。アリアより少し小さい男の子を連れている。
「お母さん、おばあちゃん、ただいま」
「ただいま」
「アリア、ハザール、おかえりなさい」
「ああ、二人ともおかえり」
(お、この子がハザールなのか。アリアよりお母さん似かな)
ハザールは短めに切り揃えられた明るい青緑の髪と、同じ色の瞳をしていた。アリアに劣らず、将来有望そうな美少年である。カミルと同じようなジーンズっぽい長ズボンにシャツを着ている。
「マリコ、紹介しておくよ。これがもう一人の孫のハザールさね」
「こんにちは、ハザールさん。マリコといいます。よろしくお願いしますね」
「こ、こんにちは」
マリコがしゃがんで挨拶すると、ハザールはタリアの陰に隠れるようにしながら返事をした。
(ちょっと人見知りな子なのかな)
「ハザール、ちゃんとしなさいよ。あんたがさっきバクバク食べてたから揚げ、このマリコおねえちゃんが作ったんだよ」
「えっ!? そうなの?」
アリアに注意されたハザールは顔を振って、自分の姉とマリコの顔を交互に見た。
「そうよ。ちゃんと挨拶できない子は、きっともう、から揚げ作ってもらえないわね」
「はじめまして、ハザールといいます。またおいしいから揚げをよろしくお願いします」
「「「ぷっ」」」
「ハザール、何よそれ」
現金なハザールの挨拶に皆が吹き出し、アリアは呆れた声を上げた。
◇
マリコ達はディナータイムの仕込みの続きに取り掛かる。とはいえ、メインメニューのから揚げの仕込みは、粉をつけて揚げればいいところまで昼食前に済ませてある。米を研いでごはんを炊く準備を終え、後は他の料理をどうするかというところで、サニアが爆弾を落とした。
「今日はもう、マリコさんに任せてしまうつもりなんだけど、だめかしら?」
「え」
「腕の方は問題ない、というか十分以上みたいだし、あなたが何を作るか見てみたいというのも大きいわね」
(さすがにおおらか過ぎるんじゃないか)
「いいんですか、それ?」
マリコは思わず、タリアを振り返って聞いた。
「まあ、いいんじゃないかい? 夕方は定食以外には、酒のアテになりそうな物があれば大体事足りるからね。マリコ、後の材料で作るとしたら、あんたなら何を作るね?」
(おおう、止めてくれるどころか賛成されてしまったよ。レパートリーはそんなに多くもないんだけどな。ん?)
ふと視線を感じてマリコが振り返ると、ミランダとアリアが目をキラキラさせてマリコを見ていた。ハザールはいない。夕方にもから揚げが出ると聞いて、カミル――から揚げを食べて、ビールが欲しいと嘆いたらしい――に知らせに走って行ったのだ。
(うわ、なにかすごく期待されてる)
「そうですねえ……。サニアさん、炭火と、あともしかして竹の串ってありますか?」
マリコは少し考えた後、とりあえず聞いてみることにした。
「あるわよ。何? 串焼きにするの?」
(竹もあるのか!? 本当に何でもあるような気がするな。どういう世界だここは。まあ、今はいいか)
「はい、焼き鳥にしようかと思います」
(鶏で残ってるのが、セセリと皮と内臓とぼんじり。揚げてもいいけど、揚げ物ばっかりになるのもなんだし、酒のアテならここは焼き鳥の方が良いだろうな)
◇
サニアが言ったとおり、串焼きはここでも普通にあるらしく竹串もあった。ただし、出てきたのは長さが三十センチ程ある長いものだったので、マリコは半分に切って使うことにした。切った残りも先を削れば十分使える。削るのはミランダが引き受けてくれた。
「こういうのは割りと得意だからな。任せてもらって構わない」
そう言ってナイフで器用にサクサク削っていく。包丁の時と違って手付きに危なげがない。
炭火を起こすのをサニアに頼んでおいて、マリコは串を作っていく。砂ズリ、肝臓、ぼんじりは、適当な大きさに切ってそれぞれ串に刺していく。皮は一度軽く湯がく。生だと串が通りにくいからだ。湯がいた物を小さい短冊型に切って、折り曲げて串に刺す。
(問題は、本当ならメインになるモモ肉が全部から揚げに行っちゃてて無い、ってことなんだが……)
マリコは昔食べた、とある居酒屋の焼き鳥を真似てみることにした。親指の先くらいに切ったセセリを丸めて、帯状に切った皮で一巻きする。これを四つ串に刺すと、見た目にも上品な感じの焼き鳥ができあがる。マリコが食べた物はモモ肉や胸肉が使われていたが、セセリでも問題ない。
それでもセセリ自体の量が少ないので全体としては肉が少なめである。肉っぽい串を補うために、昨日からよく出てくる豚っぽい肉をもらって平たい四角に切って串にする。これで一通り種類が揃った。鳥、皮、ズリ、キモ、ぼんじり、豚バラもどきである。
(今日は全部塩とコショウで焼くことにしよう。次があったらタレを考えてみてもいいかもしれないな)
試食用の串がいくつかできたところで、マリコは焼く準備を始めた。
食堂系小説にするつもりはないんですが…うまそうに書けないし。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




