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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第六章 メイド(仮)さんの奔走
432/502

426 龍の国へ 8

 マリコたちは転移門を離れて(ドラゴン)の住処となっている崖の方に向かう。歩きながらツルギとコウノから(ドラゴン)の暮らしについて話を聞いた。やはり基本的には狩猟生活であるらしい。畑もある程度はあるようだが、穀物や野菜を育てているのは一部の趣味人だけで、大部分はリュウゼツランが植えられているという。


「私のように人に紛れて暮らしていた者がこちらに戻る時に持ち込んだ物の中で、お酒が一番気に入られたようです」


 頭を掻きながらツルギが苦笑気味に言う。マリコも知っている通り、龍型の時と人型の時では味覚がかなり変わるが、酒だけはどちらでも美味いと感じたらしい。何とかこちらでも造れないかと、製造方法を習得するために旅立った者が何人もいたそうだ。試行錯誤の結果、元々自生していたリュウゼツランから酒が造れることが分かって栽培されるようになったという。呑み助の酒に掛ける執念は世界共通であるらしい。


「でも、あの身体で飲むなら、量が要りそうですねえ」


 (ドラゴン)が飲むのなら、樽一つでもジョッキ一杯分くらいにしかならなさそうだ。漫画のような光景を思い描いたマリコが聞くと、ツルギは笑って首を横に振った。


「そんなことをしたら、どれだけお酒を造っても足りませんよ。飲む時は中間形態(ミディアムモード)になるのが普通なんです」


「そうなんですか?」


「ええ。お酒に限らず、飲み食いするのは中間形態(ミディアムモード)で、というのが一般的ですな。もちろん、龍の姿で食べることもありますが、先日の私のような有様は普通ではないのです」


「それは、まあ」


 灰色オオカミ(グレイウルフ)を一度に十頭も食べるのが普通ではないというのは、その時のツルギの世話をしていたシウンからも聞いたので知っている。しかし、普段から中間形態(ミディアムモード)で食事をするというのは初めて聞いた気がする。


「これについては、神々のおかげですな」


「神様? お酒に出会えた事ですか?」


「あー、それももちろんですが、形態変更(モードチェンジ)ができるようになった事ですよ」


 酒好きらしいマリコの意見に笑みを浮かべつつ、ツルギは訂正する。


「その昔、神々から彼の能力が授けられる以前は、我々の数は今よりずっと少なかったそうです。今のようにこの辺りに住み着く者はさらに少数でした。何故だと思われますか?」


「ああ、もしかして食べ物の問題ですか」


 マリコは今の話の流れから、そうだろうという思いを口にする。果たして、それは正解だったようで、ツルギは頷いて話を続けた。


 それによると、大人になった(ドラゴン)が暮らしていくには、一人当たり数十キロ四方の狩場が必要になるらしい。もちろん、地形や気候によって差はあるが、そのくらいないと獲物を狩り尽くしてしまうことになるのだそうだ。そうなると常に獲物を求めて移動しなければならなくなるし、狩られた土地の生き物のバランスが戻るのに長い年月が必要になってしまう。


 しかし、形態変更(モードチェンジ)の能力を得たことで、中間形態(ミディアムモード)での生活が可能となった。こちらの方が圧倒的に「燃費」がいいのだ。つまり、それまでに比べて、同じ面積に住んでいられる人数が増えたのである。結果、縄張りの面積という問題が緩和された龍族は増えていったのだそうだ。もちろん、狩りや飛行速度については龍の姿である方が有利なので、両者を使い分けているのだそうだ。


 ◇


 そんな話を聞きながら、やがてマリコは岩壁の前に着いた。目の前にはほぼ地面と同じ高さに四角い穴が口を開けている。穴の高さは三メートルほど、幅はその倍近くあるように見えた。横広なのは翼を広げたまま出入りできるようにしてあるからだそうだ。


 岩壁の上を見上げると十数メートル上に別の入口が開いている。左右に目を向けると同じ様に地表付近に開いた入口がいくつか見えた。


「飛んで出入りするって聞いたはずなんですが、こんなに低い所に入口があるのは……」


「あー、それは……」


「飛ぶのを忘れて落っこちたり、入り損ねて壁にぶつかったりすると危ないからですー。だからお爺ちゃんちの入口も近くにあるんですー」


「ああ、そういう理由ですか」


 やや言い辛そうにするツルギをよそに、コウノがズバリと理由を口にした。思い返してみれば、ツルギも飛べなくなってずっと地面を這っていたわけで、マリコとしても納得である。


(お年寄りの部屋を一階に移すようなもの、というよりバリアフリーの一種でしょうかね、これ)


「それでは失礼して……形態変更(モードチェンジ)


「え!?」


 考えながら頷いていたマリコに声を掛けたツルギが虹色の光に包まれる。驚くマリコの袖がツンツンと引かれた。


「ここに住んでるイシヅチお婆ちゃんはー、身体()まだ丈夫なんですー。だから、小さい生き物を獲物だと思うことがあってー……」


 龍の姿で近付かないと狩られる恐れがあるのだとコウノが言う。寝ている事も多いので、その場合はそのまま、もし起き出したらツルギと二人で押えるので、その間に治療して欲しいのだそうだ。身体が大きいというのは、それだけで十分に脅威なのである。


「それじゃあ、私もー。形態変更(モードチェンジ)!」


 コウノも虹色の光に包まれ、本来の赤い龍の姿に戻る。ズシンズシンと足音を立てて進む金龍と赤龍の後に続いて、マリコは恐る恐る(ドラゴン)の巣――としか思えなくなってきた――に足を踏み入れた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても不思議なところを表現されていて、とてもいいですね…
[一言] 食糧事情に対する公式の回答が!(笑) 幻獣っぽくても魔力や霞を食べれば生きられるということもなさそうで生きるだけでも大変そうです…… >だから、小さい生き物を獲物だと思うことがあってー………
[一言] マリコさん、龍たちにとっては救世主だよねぇ。 マリコさんがパクッと丸呑みにされて仕方なしに口の中から治療をして涎まみれで生還するまで想像した( ˘ω˘ )
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