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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第六章 メイド(仮)さんの奔走
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419 龍の国へ 1

 マリコは湯船の縁にその身体を預けていた。髪をお湯に浸けないよう、頭には手拭いが巻かれている。隣にはミランダが同じ様にして並んでいるが、巻かれた手拭いの上に猫耳が出ているところが違っていた。その二人の方へ向かって、水面下をスイッと影が近付いてくる。目の前まで来たそれは、ザバリと飛沫(しぶき)を上げて浮き上がった。


「ぷはっ!」


「風呂は泳ぐ所ではないと言うのに」


 そこだけ出した顔を手で拭って額に掛かった濡れ髪をかき上げるシウンにミランダが小言を言うと、シウンはフッと笑みを浮かべる。


「泳いでなどいない。向こうの端の壁を蹴ってここまで来ただけだ」


「貴殿、分かっておられるか。それは世間では詭弁と呼ばれるものだ」


「まあまあミランダさん。私たちしかいないことですし」


 マリコはミランダを宥めつつ、風呂場の中を見渡した。木のイスと桶が並んだ洗い場にも、夏が近付いて以前ほど激しく湯気を上げなくなった湯船の中にも、マリコたちの他には誰の姿もない。


 そもそも食堂の店仕舞いを終えてから最後に風呂に入るのは、宿に住んでいる者――タリア一家と住み込みの者たち――の仕事の一環でもあった。ちゃんとした掃除は翌日お湯を抜く時に行うが、入浴のついでに簡単な片付けと壊れている物はないかといった点検をしておくのである。


 これまでならこの場にサニアが居ることも珍しくなかったのだが、妊娠期間も半ばとなりお腹も目立ってきたため、最近は仕事自体を比較的早めに上がるようになっていた。その分、入浴する時間帯も早めである。アリアやハザールと一緒に入っていることも多い。そんな訳で、今風呂に居るのは住み込み組である三人だけなのだった。


「本当に泳ぐには、この身体でもここは少々狭い」


 蹴伸びしてきたポーズのまま、二人の前で首だけお湯から出していたシウンはそう言って立ち上がった。豊かな双丘が柔らかく揺れ、肩から流れたお湯がそれを伝って斜めに滑り落ちていく。十人は楽に浸かれる湯船ではあるが、シウンが言うように自由に泳げるほど広くはない。シウンの蹴伸び一回で端から端まで行ける程度である。


「それで、始まりの地の事なのだが……」


「ええ」


 龍の国についてもう少し詳しく話を聞きたいと言ってあったのである。シウンは湯船の縁に歩み寄るとマリコの隣、ミランダとは反対側に腰を下ろした。お湯の深さは肩が出る程度。シウンの胸部装甲は座った勢いで一旦はとぷんと沈んだものの、じきにふわりと浮かび上がって二つの浮島を形作った。


 それを何となく目で追いはしたものの、自前の物で見慣れてしまったマリコにはそう珍しい光景でもない。今は龍の国の方が重要である。マリコは少しシウンの方へ身を捻った。今度はマリコの浮島が回転移動して小さな波を作ったが、わざわざ気にする者はもういない。


「転移門のある所から言うと、片側はすぐ近くまで山が迫っている。反対側は平地で、少し行くと川がある。子供の頃はよくそこで泳いでいたんだ。それで……」


 そういった説明にあまり慣れていないらしいシウンの話は度々脱線した。ミランダと二人掛りでそれを軌道修正しながら、それでもある程度は龍の国や(ドラゴン)の暮らしを聞き出すことに成功する。


 それによると、ほとんどの(ドラゴン)は場合によって姿を使い分けながら暮らしているらしい。龍の姿は力も強く飛ぶのも速いが、細かい事をするのには向いていないからだそうだ。そのため、住処(すみか)も龍サイズの物と人サイズの物を二つ構えたり、龍サイズの物の中に人サイズの部分を設けたりしているのだという。


 「始まりの地」で言うと、シウンが言っていた近くの山は中にいくつもの大きな横穴が掘られ、それぞれに(ドラゴン)が住んでいる。また、平地の部分にも人の姿で住むための石で作られた家が建っているのだそうだ。ただし、ある程度の人数がまとまっているのは始まりの地くらいのもので、各地に散った(ドラゴン)住処(すみか)はほとんどが一戸分なのだという。


(一つの山に洞窟が一杯あって、それぞれに(ドラゴン)が住んでるんですか……。普通のファンタジー作品だったら大変そうですね)


 どの洞窟に入っても(ドラゴン)。近くの家を訪ねても出てくるのは(ドラゴン)など無理ゲーもいいところだろう。戦わねばならない状況でないことにマリコは感謝した。


 ◇


 翌朝、マリコたちの一日は普通に始まった。シウンを通じたツルギとの話では、今日転移門を使ってみることになっていたのだが、いきなり直接ナザールの転移門に現れるとは考えにくかったからである。どこかの国か街を経由して来るのなら、実際にナザールまで来るのにどれだけ掛かるか分からない。


 また転移門を使う時刻もはっきりとは決まっておらず、使う前にはメッセージが入ることになっていた。というのも、これまでナザールの里から離れたことのないマリコには実感が無かったが、この世界にも時差があるのだ。星が丸く、自転している以上、当然の話ではある。ナザールの里は東の端の最前線(フロンティア)なのだが、龍の国はさらに東にあるのだ。距離にもよるが、向こうで夜明け後であっても、ナザールはまだ夜ということもあり得る。


「おっ。来た!」


 マリコたちが朝練を終えて朝食の支度を始めた頃、シウンがメッセージの受信を告げた。それはナザールがもう朝を迎えたかどうかの確認で、向こうはもう朝とは言えなくなりつつある時間だという。主だった面々が集まって見守る中、大丈夫だというシウンの返信が送られた。それに対して、では今から試すというメッセージが来る。ツルギからの次のメッセージを皆が待ち構える。


『おめでとう』


「「「えっ!?」」」


 龍の国への第一歩を待つ人々にも、そうでない人々にも、同じ様に声が聞こえた。

何かと理由を付けてはお風呂シーンを押し込んでいる気がします(汗)。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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