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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第六章 メイド(仮)さんの奔走
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416 ドラゴンの生活入門 8

 天頂を幾分通り過ぎた太陽の光を浴びながら、マリコは空を行く。正確には中間形態(ミディアムモード)で飛んでいるシウンにまた抱えられているのだが、マリコも飛んでいることには違いない。ただ、行きほど景色や胸の感触を楽しんでいる余裕は無い。二人は帰路を急いでいた。原因はあの後さらに届いた、ツルギからのメッセージにある。


 内容としては、次の事がほぼ本決まりになったというものだった。マリコのような回復役あるいは回復系魔法を教えられる者に来て欲しいということ。来てくれるのであれば龍族側の転移門を開く用意があるということ。開いただけでその回復役が龍族側の転移門に移動できるかどうかが不明なので、場合によっては誰か案内役を送るつもりであること。


 ここまでは先ほどまでのメッセージをまとめたようなものだったが、二人が急いで戻っている理由は新たに付け足された項目による。それは、この話を人族に伝えて返事をもらう役目がシウンに与えられたということだった。それを読んだシウンは思わず「何故だ」と声を上げたが、マリコにはこれは仕方がないだろうと思えた。


 ツルギの話によれば、今も人の姿で人に紛れて暮らしている(ドラゴン)は何人かいるらしい。だが、彼らの内の誰かにこの役目を割り振るのは無理があるのだ。それまで普通に暮らしていた人が突如「実は私、(ドラゴン)でして、こんな話が……」と言い出したらどうなるか。考えるまでもないだろう。


 その点、シウンについては、ツルギが直接知っているだけでもマリコを含めたバルト一行が正体を知っている。つまりシウンは今のところ、正体を知られた上で人族と一緒にいる唯一の(ドラゴン)なのだった。これ以上の適任者はいないだろう。


 ◇


「おお、マリコ殿、帰られたか。シウン殿も」


「二人ともお帰りなさい」


 宿に戻るとカウンターの中から声が掛かった。ミランダとサニアである。時間的には昼を大分回っており、食堂にはポツポツしか人がいないものの、カウンター内ではそろそろ夕食分の仕込みが始まる頃だった。ミランダの手には包丁が握られているので、下ごしらえに参加しているのだろう。


「それで、どうだったの?」


「ええ、そちらは特に問題なく、なんですが……」


「あら。今なら二人とも執務室にいるわよ」


 タリアの後継者であるサニアには、出掛けていた目的も知らされている。マリコが裏表両方の意味で答えた後に言葉を濁すと、何かあると察したようだった。タリアとエイブラムの所在を教えてくれる。ブランディーヌについては、外に居ることの方が多いので仕方が無い。


「助かります。で、できればお二人もご一緒に」


「ぬ」


「え、そんな話なの? 分かったわ。フローラ、しばらく任せてもいい?」


 サニアはカウンターの奥を振り返って交代を頼むと、ミランダと共に出てきた。四人で奥に向かう。ノックして執務室に入ると、向かい合わせで座っていたタリアとエイブラムが振り返った。手紙らしき物を手にしている。


「ああ、マリコにシウン。戻ったのかい。ちょうど良かった……って、あんたたちまでどうしたんだい」


「私が来てもらったんです。少々聞いていただきたい事がありまして。でも、ちょうど良かったというのは?」


「それについては私から。とりあえず皆さん、お掛けください」


 手にしていた紙を軽く示して、エイブラムが一人掛けの席へ移った。空いたソファに、マリコたちメイド服の三人が腰を下ろし、サニアは母であるタリアの隣に並んだ。それを待ってエイブラムが少し申し訳無さそうな顔をして口を開く。


「流石に黙っている訳にはいきませんので、(ドラゴン)の事は中央に報告致しました。当面こちらでシウンさんからお話を聞いて、中央からの発表は折を見て、という方向で進めていたのですが……。申し訳ない、その前に何人かが会いに来たいと」


 エイブラムはそこまで言うとシウンに頭を下げた。シウンは事態が把握しきれないらしく、少し慌てた様子でマリコの顔を見る。しかし、マリコが何か言う前にエイブラムが続けた。


「中央四国(よんごく)からは各国長(くにおさ)が、神格研究会(うち)も会長が来ると言うので、シウンさんは龍族を代表して来た訳でもなんでもなく、普通のお嬢さんなんですよ! と、お断りしたんですが……」


「断りきれませんでしたか」


 シウンに代わるようにマリコがそう言うと、エイブラムは頷いた。


神格研究会(うち)は何とか、当面私とブランディーヌ君に任せるということになったんですが、四国については何かしらの担当官を送ると」


「私に会ってもどうなるというものでもないだろうに」


 やはり顔に疑問符を浮かべながらシウンが言う。来るのが外交官的な人か調査員的な人かは分からないが、とにかくシウンに会いに何人かが来ることになったらしい。ある程度仕方のない面はあるだろうが、シウンには少々負担になりそうだ。そう考えたところで、マリコは自分の持って来た話はそれどころではないことに気が付いた。


「ええと、エイブラムさん。それ、ちょっと待ってもらえますか。実は、シウンさんに……」


 マリコはツルギから来たメッセージについて皆に話していく。話が進むにつれ、それぞれの顔色がそれぞれに変わっていった。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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