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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第六章 メイド(仮)さんの奔走
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414 ドラゴンの生活入門 6

 野営地の上まで戻って来たシウンは翼を大きく羽ばたかせて一旦空中に留まると、さらに細かく翼を動かしながら徐々に高度を下げていく。やがて、ヘリコプターみたいだなあと思いながら見上げていたマリコの前にフワリと着地した。翼を畳んでマリコへと顔を向けた次の瞬間、その目がカッと見開かれる。


「マリコドノ。ソレハイッタイ!?」


 シウンの視線の先には、首と胴が泣き分かれになった灰色オオカミ(グレイウルフ)が転がっていた。


「え? ああ、これはですね。今からする話にも関係するんですが……」


「ハナシ? ナラバマタレヨ」


 マリコを止めると、シウンは中間形態(ミディアムモード)へと姿を変えた。(ドラゴン)のままでは話がし辛いからだという。またすぐ戻るからと、例のセーターは着込まずにビキニアーマー状態のままである。


「それで、マリコ殿が無事なのは見れば分かるが、一体何が起きたのか」


 シウンもマリコの腕前は知っているし、灰色オオカミ(グレイウルフ)が一太刀で倒されているのは一目瞭然である。しかし、何故そうなってマリコが自分を呼んだのかまでははっきりとは分からない。マリコは事の顛末とメッセージを送った理由を説明していった。


「……そんな訳ですから、ある程度高度を取って飛んでほしいんです」


「なるほど、心得た。それで……、あれはどうされるのか」


 話を聞き終えて頷いたシウンが尋ねたのは、何故かマリコが倒した灰色オオカミ(グレイウルフ)のことだった。


「正直、どうしようかと思ってるんですよ」


 これが普通の探検行であれば、獲物として持って帰ればそれで済む話だった。しかし、今は少々事情が異なる。マリコは近くの見回りという名目で出掛けて来ているのだ。灰色オオカミ(グレイウルフ)を持ち帰れば、それが里の近くまでやってきていたということになってしまう。かと言って、このまま捨てていくのも忍びない。そんな話をすると、シウンは大きな首をふむと頷かせた。


「では、私がもらっても構わないか?」


「もらう? ええ、それは構いませんけど、どうするんです?」


「無論、食べる。ああ、もちろんマリコ殿に手は掛けさせない。そのままでいいんだ」


「ええ!? そのままって、生でですか」


「ああ」


 ツルギたちと分かれて以来、マリコはシウンとほとんど一緒に行動している。バルトたちと一緒に里に戻る間も、里に入ってからも、シウンは普通にマリコたちと同じ物を食べていた。生肉が食べたいなどと言うのは聞いた事が無い。


 しかし、治る前の事ではあるが、ツルギは一度に何頭もの灰色オオカミ(グレイウルフ)を食べていたはずである。あれが病気のせいでないのなら、シウンがそのままの灰色オオカミ(グレイウルフ)を食べるのもおかしいことではないのかも知れない。


「マリコ殿」


 マリコの疑問は顔に出ていたのだろう。シウンが口を開いた。


「我らにとっては、龍の姿こそが本来のものだ。あの姿に戻っている時に空腹を感じると、それに応じた物に食欲を覚える。ただそれだけのことなのだが」


「それは龍の姿の時には灰色オオカミ(グレイウルフ)が美味しそうに見えるってことですか」


「そういうことだ。それに、『見える』だけではなく、実際美味しく感じる。あー、これはちゃんと比べて確かめたことは無いのだが、多分、形態(モード)が変わると味覚の感じ方も変わっているのだと思う。爺様ならもっと詳しく知っていると思うが、私にはまだそこまでの経験が無い」


「ああ、なるほど」


 龍の姿の時と人の姿の時では、美味しいと感じる物自体が違うらしい。考えてみれば確かに、そうでもなければマリコたちと同じ食卓を囲めないだろう。「共に暮らせるように」女神がそうしたのだろうなと、マリコは思った。


「それでは、あれはもらって構わない、ということでよろしいか」


「ええ」


「では、失礼して早速」


 シウンは灰色オオカミ(グレイウルフ)に歩み寄ると変身を解いて龍の姿に戻った。まずは落ちている頭を摘み上げてポイと口に入れると、ボリボリとアラレを噛み砕くような音を響かせる。ゴクンと飲み込んだ後、胴体の方をつかみ上げた。


 シウンの身体はツルギほど大きくはないので、流石に一口でとはいかない。ビーフジャーキーか何かのようにブチブチと食い千切りながら、もぐもぐと平らげていく。途中、しばらく口をモゴモゴさせた後、手の上に何かを出していたのは恐らく魔晶だろう。その様子や表情は、マリコから見ても普通に美味しそうに食べているように見えた。


(とは言え、何も知らずにいきなりこれを見たら、確かにびっくりするくらいでは済まないでしょうねえ)


 話が通じる事も人柄も――ついでに胸のサイズも――知っているからこそ、驚くことも恐れることも無く、こうして見ていられるのだ。女神がそう仕向けたことは、きっと間違いではないのだろうなと、マリコには思えた。


「さて、ついでに私もお昼にしましょうか」


 太陽は中天に近い。少し早いがいいだろうと、マリコも食堂で用意してもらってきた弁当を広げることにした。ただし、流石に血の匂いが鼻につくので、シウンからは少し距離を取って。


 ◇


「ゴチソウサマデシタ」


「ごちそうさまでした」


 やがて食べ終えたシウンとマリコは、そう言ってそれぞれ手を合わせる。シウンの方を見ると、どうやら浄化(ピュリフィケーション)を使ったようで、辺りに散っていた血しぶきもきれいに無くなっていた。これなら臭いに釣られてやってくる動物もいないだろう。


「シウンさんはもう少し飛ぶんですか?」


「アア、イッテクル。デハ」


「いってらっしゃい」


 翼を広げたシウンが、再び空へと舞い上がる。マリコとの話の通りまずは高度を取るようで、その姿はどんどん小さくなっていた。やがて、豆粒ほどにしか見えなくなったシウンが今度は横に移動し始める。


「おー、速い速い! ……あれ?」


 それを見上げていたマリコは、じきにシウンの動きが止まったことに気が付いた。何だろうと思う間もなく、シウンは降下を始める。ぐんぐんと速度を上げるシウンは、途中で虹色の光に包まれた。


形態変更(モードチェンジ)した!?」


 ほとんど落下する勢いで降りてきた中間形態(ミディアムモード)シウンは地表ギリギリで翼を広げてブレーキをかけ、マリコの目の前にダンと降り立った。銀の鱗に包まれたEカップがばゆんと縦に揺れたが、シウンの表情はそれどころではないと物語っている。


「何があったんですか!?」


「じ、爺様が!」


「爺様……、ツルギさんがどうしたんですか!?」


「今、爺様がメッセージを送ってこられて……、向こうの転移門を使うかも知れないと!」


「何ですって!?」


 東の最前線(フロンティア)であるナザールの里より遥か東。未だ使われた事のない、つまり誰もまだ行けない(ドラゴン)の領域にある転移門が使われるという。空を飛ぶシウンをのんびり眺めている余裕は、一瞬で消し飛んだ。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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