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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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042 昼休み 1

 マリコ達はお茶を飲みながら食後のひと時を過ごしていた。タリアやサニアが特に急かすこともないので、事実上の昼休みということらしい。マリコはジュリアやエリーとも改めて挨拶を交わした。二人は里の中にある自宅から通ってきている娘達だ。


 エリーはやや目尻の下がった茶色の瞳の、背中で一本の太い三つ編みにした同じく茶色い髪と、健康そうな小麦色の肌を持つ娘だった。背はジュリアよりやや低く――百五十五センチほどだろうか――胸はかなり豊かでジュリア以上マリコ以下といったところで、耳の先がジュリアと同じようにとがっている。顔つきも体つきも少し丸っこく、ジュリアと並んでいると対照的な印象を受ける。


 マリコを含めて六人全員が女の人である。女三人寄れば姦しいの言葉どおり、場は十分以上に賑やかだった。ミランダが知っていたように、マリコの記憶が怪しいという事は皆にも知らされているらしく、その辺に突っ込まれないのがマリコには有難かった。それでも、先ほど披露したばかりの料理に関する話はかなり聞かれることになったので、マリコもできる限り解説していった。


 そのうち、マリコも気になっていたことを聞いてみることにした。


(漫画やアニメでよく見るやつほど耳が長いわけじゃないけど、エルフとかドワーフってファンタジーの定番だよな)


「ジュリアさんとエリーさんは、エルフとドワーフということなのですか?」


「え、エルフ? 先祖にエルフの里から来た人がいたのは多分間違いないでしょうけど、私自身はここナザールの里の生まれですよ」


「あたしもここで生まれたし、先祖とかよく分からないよ」


「えっ?」


 ジュリアとエリーの答えに少し驚いて思わずタリアの顔を見た。


「ん? ああ、エルフやドワーフの部族のことかい? そりゃあ、神様が転移門を使えるようにしてくれるまでは四つの部族はそれぞれで暮らしてたことになってるけどね。門を通って行き来できるようになってからは、よその里へ引っ越してそこの人と結婚する人もたくさんいたからね。千年も経っちまった今じゃあ、元がどこの部族かなんて自分の見た目で推測するしかないさね」


「そういうものなんですか」


「そりゃそうだよ。エルフの部族は髪が青から緑で華奢な人が、ドワーフの部族は髪が赤から茶色や金色で体格もしっかりした人が多かったって言われてはいるけど、大体はっていう話なんだからね。ドワーフの里で背が高い人や、エルフの里で小柄な人も当然いたそうだし、体格だってそうさね」


「では、エルフとかドワーフっていう種族があるわけではないんですね」


「みんなひっくるめて人なんだから、そんな分け方してもあんまり意味がないね。耳の形やしっぽの有る無しは大抵両親のどっちかの形になるし、髪の色も両親のどっちかの色になるか二人の間の色になるかだからねえ。それも絶対ってわけでもないし」


(まとめて「人」、なのか。ゲームの設定とは全然違うな)


 ゲームでの種族は、典型的なファンタジー的設定がなされていた。エルフとドワーフは妖精族で「人間」とは異なる種族とされており、アニマなどという種族はそもそも存在さえしていなかった。当然ながらプレイヤーキャラクター同士で子供をもうけることはできなかったので、ハーフのような存在もいなかった。


「いいかいマリコ、考えてごらん。始めの四つの里はともかく、後から見つかった門ってのは誰もいない所へあっちこっちの門から人がやって来て宿屋や里を作るんだよ。見た目の差なんか誰も気にしやしないし、第一そんなのを気にして人を選んでたら、新しい里なんかいつまで経ってもできやしないさね」


「ああ、それはそうなりますよね」


(元から住んでる人がいないんだから、新しい門にできる里は始めから()()の坩堝になってるってことか)


 タリアの説明にマリコは納得した。始めの四つの里から離れていくほど、その傾向は強くなっていくはずだった。


「だから、四つの里のどこかに先祖代々住み続けてるとかでもなけりゃあ、元の部族なんか気にしても仕方ないんだよ。その辺を今でも割りと気にしてるのは、アニマの国くらいじゃないかね」


 タリアはそう言うと、例の面白そうな物を見る顔をしてミランダを見た。


「ああ、国長(くにおさ)にはこの大きな耳としっぽを持つ者でないとなれないからな」


「え、それはまたどうしてなんですか?」


 マリコが昨日読んだ本のとおりなら、里の長を継ぐ条件に容貌の項目はなかったはずである。


「それは、我らアニマの民が風と月の女神様の眷属であるからだ」


「えっ!? 女神様の眷属なんですか?」


 ミランダが自信満々に言い切ったので、マリコは思わず聞き返した。


「うむ」


「違うでしょう。マリコさん、ほら、神様方の中で姿が割とはっきり伝わってるのは風と月の女神様だけでしょう。アニマの里の人達は、女神様と同じ耳としっぽを持ってる自分達を、女神様の祝福を受けた眷属だって言ってるのよ」


 頷いたミランダに、横からサニアが口を挟んだ。


「サニア殿、そんな口から出まかせを言っているみたいに言わないでいただきたい。事実、アニマの国には風と月の女神様がおいでになった記録が幾度もあってだな……」


「眷属だって明言されたっていう記録はないって聞いてるわよ」


「むむう」


(アニマの国では、見た目の親近感から風と月の女神様が主に信仰されてるってことなのかな)


 サニアとミランダの言葉の応酬はしばらく続き、話に熱が入るに従って、ミランダの耳がピコピコ動き、椅子の後ろに垂れたしっぽがゆらゆら揺れる。話の内容も興味深かったが、マリコはそちらが気になって仕方がなかった。


(ああ、あの耳としっぽを、思いっ切りナデナデもふもふしてみたい)


 マリコは膝の上に置いた手がわきわきしそうになるのを、握りしめることでなんとか押さえた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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