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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第六章 メイド(仮)さんの奔走
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413 ドラゴンの生活入門 5

 山の中とは言っても全部が全部森という訳ではない。草地もあれば岩場もあり、川が流れていれば川原になっている所もある。野営をする際には基本的にそうした場所が選ばれた。風呂場やテントを建てることを考えれば、当然ながらその方が楽だからだ。わざわざ森を切り拓いて、ということはそうそう無い。


 二人が降りた野営地もそうした場所の一つで、風呂場の周りは草地だった。だからこそシウンはここを選んだのだろう。木々が密生する所で(ドラゴン)の巨体に戻る訳にもいくまい。


 再びの形態変更(モードチェンジ)を行うシウンを横目に、マリコは片手剣と盾を取り出して身に着けた。ナザールの里からそこそこ離れたこの辺りだと、灰色オオカミ(グレイウルフ)やクマが普通に出没する。多少拓けた場所だからといって流石に丸腰でいる訳にはいかないだろう。


「デハ」


「はい、いってらっしゃい」


 身体のサイズと喉の構造の違いからシウンの声は太く大きく、マリコのお腹に響いてくる。マリコがそれに応えるとシウンは大きな頭を頷かせて、こちらも大きくなった翼を広げた。バサリと一打ちすると、白銀の巨体がフワリと宙に舞い上がる。近くの木々にいたらしい鳥たちが驚いて飛び立ち、泡を食って逃げていった。


 シウンがそのまま緩やかな弧を描いてマリコから距離を取りつつ上昇していくのを、マリコはほうと息を吐いて見上げた。中間形態(ミディアムモード)の時とは違って、今度は全身の鱗が煌いている。泳ぐように空の(きざはし)を昇っていく銀龍は、やはり美しかった。


 やがて、かなりの高さまで上がったシウンはスピードを上げて飛び始めた。マリコとの距離が開いた分、一見そんなに速そうには見えない。しかし、それは遥か上空を飛ぶ飛行機がゆっくりに見えるのと同じである。


(ここまで来た時よりずっと速いみたいですねえ。何倍出てるんでしょう)


 そんな事を考えながら眺めるマリコを知ってか知らずか、急上昇の後、宙返りして急降下とシウンは自在に空を泳ぐ。急降下の途中で戦闘機のようにロールを打って向きを変えると、その翼の先から細い糸のような雲を引いた。


「おおー!」


 昔観たアニメのような光景に、マリコは思わず声を上げる。同時に、翼やしっぽは風を切るために防護(プロテクション)の範囲外になっているのかも知れないなと思った。


 そのマリコの歓声が聞こえた訳でもないだろうが、シウンはマリコの方へ向かって来るような進路を取ると、真っ直ぐに落ちるかのような急降下を始めた。


「おおおっ!?」


「ゴアア!」


 マリコの心配をよそに、シウンは地面に激突する寸前に声を上げて一度宙返りすると、そのまま水平飛行に入った。マリコの前、かなり離れた位置を木の天辺に触れそうな低空で通過していく。起こった風が木の葉を舞い上がらせ、至近を通過された鳥たちも慌てて飛び立つ。シウンが通り過ぎた後、吹き付ける風がマリコの頬を打った。


「落ちるのかと思いました……。びっくりさせないでくださいよ、もう」


 再び上昇していくシウンを見上げながら、マリコはやれやれと額を拭った。これまでこんな飛び方を直接見たことは無かったが、やはり(ドラゴン)はかなりの機動性と速力を持っているようだ。もっとも、全力を出すと早々に魔力を使い切るらしいので、いつでもという訳にはいかないだろう。


 飛ぶシウンの姿を追いながらそんな事を考えていたマリコは、かなりの速度で近付いてくる気配を感じてそちらに振り返った。木々が茂っている、今シウンが上を通った方だ。


「え、オオカミ!?」


「ガウアアアッ!」


 走り出てきたのは一頭の灰色オオカミ(グレイウルフ)だった。マリコは反射的に剣を抜く。真っ直ぐ向かって来る相手に対し、一歩脇に寄ってみるが、迫る灰色オオカミ(グレイウルフ)は何故か全く進路を変えなかった。マリコはその進路上に置くように剣を振るった。


 灰色オオカミ(グレイウルフ)はそのままマリコとすれ違うように走り抜け、数歩進んだところでその首がぽとりと落ちた。身体が地面に崩れ落ち、噴き出した血が辺りを染めていく。


「これ、もしかしなくても、シウンから逃げたんですよね……」


 さっき逃げ散って行った鳥たちと同じだろうとマリコは思った。急降下してきたシウンの姿を見て恐慌状態に陥ったのだろう。目の前に立っていたマリコに反応していなかったように見えたのは、それが原因のようだった。


 斬る必要は無かったのでは? とも思ったものの、これもこのところナザールの里に向かっていた異変の玉突きの一つになりかねないなと思い直した。改めて空を仰ぐと、今のシウンはかなり高い所を優雅に飛んでいる。あの高さなら問題無いようだが、地表近くに降りてくれば、また近くに居る動物がパニックを起こすことになりそうだ。


 幸い、今マリコが居る野営地の辺りには、他に影響を与えそうな大型の動物の存在は感じられない。ならば、ここへ戻って来る分には問題無さそうである。


(ここ以外に降りるなって言えばいいんでしょうけど、ここから叫んでも聞こえませんよねえ。……って、あ、メッセージ送ればいいんですか)


 マリコはポンと手を打った。すぐ近くに居るので送ろうと思った事がなかったが、先日のフレンド登録のおかげで、シウンにはメッセージを送れるはずである。早速入力ウィンドウを呼び出して文章を打ち込んだ。


「問題は、飛んでる途中で見られるのかどうかなんですが、……まあやってみれば分かりますね。送信っと」


 シウンを見上げたまま、送信のボタンを押す。その直後、かなりの速度で飛んでいたシウンがピクリと反応するのが見えた。メッセージが送られたことに気付いたらしい。速度を落としたかと思うとじきに移動しなくなった。翼は動いているようなので、その場でホバリングしているらしい。次に手が動くのが見えた。


「空中でも操作できるんですね……」


 メッセージを読んだらしいシウンは、顔を下に向けてマリコの方を見た。マリコが手を振って見せると、もう一度手元に目を向けた後、ゆっくりと降下し始めた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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