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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
413/502

407 猫耳女神の理由 1

 カップを傾けてスープを飲み干した女神が、満足そうに目を細めてふうと息を吐き出した。目の前にスプーンと共に置かれた皿は既に空で、わずかにオレンジ色の跡だけが残っている。


「うむ、馳走になった!」


「お粗末様でした」


 答えながら、マリコは手拭いを女神に差し出した。


「何じゃ?」


「口の周りが微妙にオレンジ色です」


「おお、すまぬの」


 女神が口元を拭いている間にマリコは食器を下げた。油汚れはさっさと洗ってしまうに限るのだ。流しの前に立ちながら、女神から見えない角度でマリコは思い出し笑いを浮かべた。


 先ほど、用はなんじゃと真面目くさった顔になって座り直した途端、女神のお腹がきゅうと抗議の声を上げたのである。どうやら相当長い時間、本を読み続けていたらしい。何とも言えない空気が流れた後、流石にマリコも気が引けて「では話を」とは言えなかった。


 女神の食事を準備することにしたものの、女神の部屋には基本的に大した食材が無い。普段は各地で供えられた物の一部を頂いているからである。そのため、いつでも都合のいい物が手に入るとは限らないのだ。間が悪かったのかこの時もそうだった。パンやご飯は供え物の定番なので問題無いが、ちょうどいいおかずが無い。


 そこでさてと首を捻ったマリコは、自分が持っている物のことを思い出した。探検に出掛ける時に準備した物の内、流石に生ものはもう残していない。だが、凍らせてあったミックスベジタブルもどきと野豚肉、それに玉ねぎペーストとトマトピューレがあった。明日にでも食堂で使い切ろうと思っていた物である。


 供え物のご飯とそれらを使って作られたのが、野豚ライス――チキンライスの野豚版である――とオニオンスープだった。マリコとしてはかなり手抜きなものだが、女神には好評だったようである。考えてみれば、そんな料理が供えられることはあまり無さそうなので珍しかったのかも知れない。


 ◇


 洗い物を終えてお茶を入れたマリコは、女神と向かい合った。テーブルをはさんで、マリコはイスに腰掛けているが、女神は姿勢こそ正しているもののベッドの上であぐらをかいている。


「で、じゃ。何が聞きたい」


(ドラゴン)に会いました。あれは一体どういう事なんですか」


 マリコは今回の道行きの途中で思い当たった疑問を並べ立てた。何故召喚獣だったシウンが混ざっているのか。あのシウンとの勝負に意味はあるのか。どうして(ドラゴン)がメッセージ機能を使えるのか。そもそも、(ドラゴン)がいて、かつあんなにも人間っぽいのは何故なのか。細かいところまで言い始めるとキリが無い。


「ふむ」


 マリコの取り留めの無い話を黙って聞いていた女神は、話が途切れたところで頷いてマリコを見た。


「では、根本的なところから始めることにしようかの。何故(ドラゴン)がおるのか。それはじゃな」


「それは?」


「カッコいいからじゃ!」


「はぁ?」


 あまりにも堂々ととんでもない理由を挙げる女神に、マリコは耳を疑った。


「まあ、そんな呆れた顔をせんでもよい。もちろんカッコいいからだけではないわ。ふむ、そうじゃの。ではこちらから聞くが、おぬしの知る『わしの世界』はどんなじゃった?」


「それはゲームでは、ということですか」


「そうじゃ」


「ええと……」


 マリコはゲームの世界観について、記憶を掘り起こした。女神ハーウェイを中心とした神話関係は創作だったが、それ以外は基本的にはいわゆる「剣と魔法の世界」である。人々が暮らし、(ドラゴン)を始めとしたモンスターもいる。言ってしまえば「よくある西洋風ファンタジー」だったのだ。マリコがそう言うと女神は頷いた。


「そうじゃな。間違うておらぬ。では、西洋風ファンタジーにおける(ドラゴン)とは、どういった存在じゃ?」


「そりゃあ、さっきも言いましたけど、モンスターの代表格というか……」


「そうじゃろう? おぬしもそう思うじゃろう。そこでじゃ。『西洋風ファンタジー』を名乗りながら、(ドラゴン)がおらぬ世界を描いた物語があったら、おぬしはどう思うかの?」


「それは……」


 もちろん、(ドラゴン)の存在しない世界を描いた西洋風ファンタジーは実在するだろう。だが、女神が今聞いているのはそういうことではなくマリコ個人の所感である。そして、マリコの感覚で言えば、(ドラゴン)のいない西洋風ファンタジーは確かに物足りなく思えるのだ。


「わしもそうじゃ。故にわしはここを(ドラゴン)のおる世界とした」


「ええぇ。いや、そんなんでいいんですか」


「創世神が決めたことに異を唱えられる者が、この世界のどこにおる」


「そりゃそうですけど」


 猫耳を揺らして偉そうに胸を張った女神は、マリコの視線をスルーして話を続ける。


「それでじゃ。またおぬしに問うが、おぬし、(ドラゴン)と戦って倒したいか」


「え? いや、何で戦わないといけないんですか」


 マリコの頭に浮かんだのはシウンやツルギたち、自分が出会った(ドラゴン)である。勝てるかどうか以前に、戦わねばならない理由が無い。朝練で稽古を付けるのとは訳が違う。


「まあ、そう言うじゃろうの。じゃから、それこそが(ドラゴン)が人間臭い理由じゃ」


「それじゃあ、わざと(ドラゴン)をああいう風に創ったって言うんですか」


「わしが一から十まで全て創った訳ではない。ある程度誘導はしたがの。それは人とて変わらぬ。獣のようにしか考えられぬのでは、喰い合うことしかできんじゃろうが。それではどちらもただでは済まぬ」


 マリコの経験と立場で言えば、シウンたちを知ったからこそ戦う理由はないのだと言える。しかし、女神の言い分だと、戦わせない、つまり対立を避けるために双方を今の形に導いたようである。


「なんだってそんなややこしい事を……」


 段々と理解できる範疇(はんちゅう)を越えつつあるように思えて、マリコはそっとため息を吐いた。

ややこしいですが、次回に続きます(汗)。


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