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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
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404 最前線の先から来たりし者 9

 上掛けに(くる)まった肩を軽く揺さ振られて、マリコは薄っすらと目を開いた。頭の側にある窓の外はもう大分明るくなっている。ぼんやりしたまま、マリコは肩に置かれた手から腕へと視線を巡らせた。その先には銀の髪に縁取られた顔がある。


「ああ、ミランダさん。おはようございます……」


「しっかり目を覚まされよ」


「やはり朝は弱いんだな、マリコ殿は」


「へ?」


 返事が二つ返って来て、マリコはつい間の抜けた声を上げた。二つ目の声がした方に目を向けると、そこにも銀の髪に縁取られた顔がある。その下にある身体がまとっている服も、同じ白と黒のメイド服だった。


「ミランダさんが、二人?」


「寝ぼけておられるのか。シウン殿だ」


「え? シウン、さん」


 マリコはゴシゴシと手で顔を擦って改めて二人を見た。二人は色合いこそ似ているが顔付きは別人とはっきり分かる程度には違うし、頭の上に乗っているのは一方が猫耳でもう一方はマリコの物と同じホワイトブリムだ。マリコは少し視線を下げる。そこは確かに二人が別人だと物語っていた。


「ああ、シウンさんだ。おはようございます」


「……マリコ殿。今どこを見て確信された……。いいからさっさと起きられよ!」


「あっ」


 わずかに顔を引きつらせたミランダが、えいっと上掛けをはぎ取った。ひんやりした朝の空気に曝されたマリコが反射的に身体を丸め、はがした方のミランダが目を見張る。数瞬の間を置いてシウンが口を開いた。


「先日から思っていたことだが、随分器用なのだな、マリコ殿は」


「え? ひゃっ!」


 マリコは丸めた自分の身体を見下ろして奇妙な声を出した。パジャマタイプの寝巻きを着ていたはずが、いつの間にか脱いでしまっている。不幸中の幸いと言うべきか、辛うじて下だけはまだ穿いていた。


 (ドラゴン)探索の途中、抱き着き防止のために布団ごとくくられて寝ていたのだが、朝起きると何故かくくられたまま服を脱いでいたことが度々あった。スキルとして身に着いたとでもいうのか、宿に戻っても治っていなかったらしい。帰途ではシウンにも見られているので、器用だというのはこのことだろう。


 流石にマリコも、普通に服を着ている二人の前で自分だけ半裸なのは恥ずかしかった。ミランダから上掛けを取り返して改めて包まる。


「それで、二人してどうしたんですか」


「鍛錬だ、鍛錬。言ってあったではないか」


「引き続きご教授願いたい」


「あー。そ、そうでしたねえ」


 朝の鍛錬は前からやっていたことではある。シウンについては、まだ人型できちんと身体を動かしきれないので里に戻る途中、ミランダと二人していろいろと教えていた。朝練の存在を知ったシウンが参加したいと言い出したのは当然と言えば当然で、ミランダがそれを断るはずもない。一つ息を吐いたマリコは、着替えたら行きますからと何とか二人を部屋から追い出した。


 最前線(フロンティア)である以上、多少なりとも心得がないと安心して暮らすのは難しい。そのため、ナザールの宿を囲う壁の中、その一角が運動場として解放されていた。個々の都合もあるので、毎日全員が出てくるわけではない。それでもマリコたち三人が向かうと、既に何人もがそれぞれ剣や弓、魔法などの練習をしていた。


「あ、マリコさんにミランダさん。それにシウンさんも。おはようございます」


「おはようございます」


 マリコとミランダは顔も知れている上に教える側に回ることも多いので、自分の練習以外に引っ張りだこになることもしばしばである。ただ、今朝の一番人気はシウンだった。それも、エリーやシーナたち宿勤め組に取り囲まれている。


「昨夜、あまり話せなかった」


「一緒に狩りに行くことに……」


「得意な得物は……」


「え、いや、あの」


 いろいろと質問攻めに遭ってしどろもどろになっているシウンを見て、マリコとミランダは顔を見合わせた。このままではボロが出るのも時間の問題である。マリコはやむなく割って入ることにした。


「ええと、皆さん。シウンさんは武器の扱いにまだ慣れていません。だからこそ、ここに来ています」


 マリコはシウンが基本的に初心者であると説明した。実際、武器を持っての戦いは初心者なのだ。素手での格闘についてだけは、元の姿や中間形態(ミディアムモード)になれば十分やれるのだが、里に居る間はそうそう姿を変える訳にはいかないだろう。当面は人型の身体の使い方を身につけるのが目標である。


「なら私が……」


「剣と弓だと、どっちを使うの?」


「じゃあ、今から早速……」


「え、いや、あの」


 すると今度は、それぞれが教えようとする方向で、やはりシウンは取り囲まれてしまった。理由が何かは関係なく、皆シウンの事が知りたいし、仲良くなりたいのである。それは全く悪い事ではないのだがと、マリコとミランダは顔を再び見合わせた。

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