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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
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399 最前線の先から来たりし者 4

「ブランディーヌも来たようだし、話を始めるよ!」


 腕相撲のリングを囲んでいた人たちはその声の方に振り返り、そこでやっとタリアたちが来ていることに気が付いた。元々待っている間を使って始まった腕相撲である。メンバーが揃ってもまだ続けようという者は流石にいなかった。テーブルやイスがガタガタと並べ替えられていくのを見て、シウンは少し物足りなさそうな顔をしていた。


「さてと……。ああ、先に一つ済ませておこうかね。その()はシウン。見ての通り、新人さね。よろしくしてやっておくれ。シウン、今日のところはとりあえす、マリコの隣にでも座っておいで」


 皆がそれぞれが席に着いていく中、エイブラム、ブランディーヌと並んで座ったタリアはシウンをそうさらっと紹介した。アドレーたちを続け様に破ったシウンには「何者なんだ」という視線も向けられてはいたが、元よりメイド服姿である。タリアの言に一同は「ああ、やっぱり」とごく自然に納得した。


 そもそも、このところナザールの里には人の出入りが増えている。神格研究会関係者に工事関係者、マリコの所に治療を受けに来る者や食事目当ての観光客と、基本的には初めて見る顔ばかりである。見るからに怪しげででもない限り、最早いちいち気にしていられないというのが現状だった。


「それでは、今回の道行きですが……」


 やがてバルトによる報告が始まり、食堂の空気が張りつめる。(ドラゴン)というほぼ未知の、しかも強力であろう相手を求めての探検だったので当然と言えば当然だろう。適宜、トルステンやマリコによる補足が加えられて話は進む。あんまり目立って皆に迷惑を掛けないようとツルギからも言われているシウンは、終始黙って聞いていた。


 ◇


 報告が終わった時、皆の雰囲気はかなり穏やかな、しかし同時に興奮を伴ったものになっていた。(ドラゴン)が撃退しなければならない相手ではなかったことに安堵し、話のできる相手であったことで将来の可能性が広がったからである。これは新たな部族と出会ったということでもあり、転移門開通に準じる、実に千年余り振りの大事件でもあった。


「さ、行きますよ、ブランディーヌ君」


「え!? 私はちょっとシウンさんにお話を……。ちょ、引っ張らないで!」


 タリアが解散を宣言した後、エイブラムはブランディーヌを引きずって奥へと消えた。ブランディーヌにこの場では話されなかった更なる事情を話し、中央への報告を行うためである。ブランディーヌも中央もひっくり返るであろう事を、エイブラムは疑っていなかった。


「ま、しばらくはこれで大丈夫だろうさ。後の事は様子を見て追々だね」


 タリアがそう言って席を立つ。「後の事」が何を指しているのかは疑う余地がないので、マリコは「分かりました」と答えてタリアを見送った。しかし、数歩進んだところでタリアは足を止めて振り返る。


「ああ、そうそう。シウンの部屋を準備しておやり。マリコの隣でいいだろうさね。サニアもいいかい?」


 サニアが頷くとタリアは今度こそ去った。住み込みの者用となっている部屋にマリコは住んでいる。廊下側から見て、マリコの部屋の右隣はミランダの部屋だが、左はこれまで空室だった。掃除は時々しているので、シーツなどを運び込めばすぐに使えるはずである。サニアはマリコに顔を向けた。


「マリコさん、要る物は分かるわよね? 行李はこっちで出しておくから、後はお願いしていい?」


「はい」


 前に自分がしてもらったことばかりである。宿の仕事をするようになっている今、基本的には洗濯場でほとんど揃うと分かった。シーツと枕と、と考えたところでふと思い当たる。


(シウンさん、服を持ってないじゃないですか。とすると、今日のところは宿の寝巻きを借りて、明日には買物に行かないといけませんね)


 そんなところまで自分の時と同じで、マリコが思わず苦笑いしていると、今度は残っている皆に向けてサニアの声が掛かる。


「貴方たちはこの後お風呂? いつも通り、準備してあるわよ」


「ああ、ありがとうございます」


「シウンちゃん、ここのお風呂は大きいわよ? 行きましょう」


 バルトが礼を言い、カリーネがシウンを誘った。


「あれより大きいのか!? あ」


「どうしたの?」


 何かを思い出したようなシウンにカリーネが問うと、シウンは顔を上げてマリコを見た。次いで他の面々もぐるりと見渡すと、肘を曲げて胸の前で右の拳を握って見せる。


「マリコ殿、ミランダ殿。それにご一同も。私と腕相撲をして頂けまいか」


「ああ、それは私も望むところだな」


「そんなに気に入ったんですか」


 ミランダが即座に応じ、マリコは少し呆れた声を出した。やはりいろいろとミランダに似ているなあと思わずにはいられない。しかし、周囲を見渡してみると、集まっていた里の皆は大部分が散って行った後である。今また腕相撲を始めようとしたら、残っている人たちに皆を呼び戻すから待ってくれと言われそうだ。気持ちは分かるが、それぞれ仕事の途中で集まっていたことを考えれば、それはそれで迷惑になりそうでもある。マリコはシウンに待ったを掛けてその予測を話した。


「先にお風呂行って、晩御飯の頃にゆっくりか、夜にでもする方がいいと思いますよ」


 五連戦の後ということもあって、シウンはマリコの言葉に従った。


 ◇


「これは確かに広い! 素晴らしいな!」


 この数日ですっかり風呂の魅力にとらえられたシウンは、宿の大きな風呂が甚く気に入ったようだ。幸いマリコたち六人以外はおらず、マリコにここの風呂の使い方を教わったシウンは、身体を洗い終えて今は伸び伸びと湯船に浸かっている。


「足が伸ばせるというのが特にいいな」


「あー、それは同感」


 湯船の縁に肩を預けて伸ばした身体を浮かべるシウンにミカエラが答えた。


「でもここで泳ぐのはダメですからね、シウンちゃん」


「う、そうなのか。気を付ける」


 何かを察知したらしいカリーネに先に釘を刺され、シウンは首をすくめて何故分かったなどとつぶやいている。人も(ドラゴン)も考えることは似たようなものらしいとマリコが笑っていると、脱衣所の方でバタバタと音がした。誰かが駆け込んできたらしい。じきにガラリと浴室の扉が勢いよく開かれる。


「シウンさんがこちらにいると聞いて!」


 前も隠さずに飛び込んできたのはブランディーヌだった。

懲りずにまたお風呂(汗)。


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