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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
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398 最前線の先から来たりし者 3

 三人が廊下に出ると、また歓声が上がるのが聞こえてきた。食堂の方からである。漂ってくる雰囲気から、マリコには何が起きているのか見当がついた。


「腕相撲始めたみたいですね、これ」


「そうらしいね」


「ああ、時々皆さんがやってるあれですか」


 マリコの言葉にタリアとエイブラムが頷いた。恒例になっているのはミランダとアドレーの勝負だが、その影響か里に住む他の面々もちょくちょく腕相撲をやっている。エイブラムも何度か見掛けたことがあるようだ。


 三人がカウンターの傍まで行くと、案の定いつもの場所にリング代わりの小テーブルが置かれ、周りに人が集まっているのが見えた。今の歓声は勝負が着いた時のものだったのだろう。負けたらしい方がリング前から下がっていく。


 それはアドレーたち猫耳五人組の一員、グレーの毛並みのエゴンだった。右手をブラブラさせながら、悔しそうな、それでいてどこか嬉しそうな不思議な表情を浮かべている。そして、そのエゴンを下した対戦相手、カウンターを背に胸を張って立っているのは何とシウンだった。エゴンが下がった後、今度はこげ茶の頭のウーゴがシウンの前に出ていく。


「これ、どうなってるんですか」


 マリコはカウンターの中にアリアを見つけて聞いた。観戦するために踏み台に乗っているのだろう、小さいはずのアリアの顔の高さが今はマリコとほとんど変わらない。


「あ、おねえちゃん。ええとね……」


 アリアが言うには、マリコとバルトがそれぞれタリアやブランディーヌを呼びに席を離れた後、入れ替わりにアドレーが仲間たちとやって来てミランダにいつもの勝負を挑んだのだそうだ。それ自体は相変わらずの結果だったらしい。


 ただ、その腕相撲に初めて見るおねえちゃん――もちろんシウンのことである――が興味を示したのだそうだ。ミランダからルールなどの説明を受けたシウンが私もやってみたいと言い出したところで、アドレー組の四人が相手なら俺が私がと一斉に手を挙げたのだという。一番手のオベドがあっさり負かされ、続くエゴンも全く歯が立たなかったそうで、後はマリコがその目で見た通りである。


 そこでまた歓声が上がった。ウーゴも敗退したようだ。マリコがそちらに目を向けるとエゴンと似たような表情を浮かべたウーゴが立ち上がって、右手をニギニギしながら下がっていく。四人目のイゴールも少しは粘ったようだが同じ結果に終わり、その後の反応までエゴンたちと似ていた。


(ああ、そういうことですか)


 何だろうと思って見ていたイゴールたちの奇妙な表情と態度の理由に、マリコはようやく思い至った。人型のシウンは体格的にはマリコやミランダとそう変わらない。つまり、見た目にはそこまで力がありそうには見えないのである。そんな女の子に腕相撲で負けたというのが、悔しそうな表情の理由であろう。


 また、シウンは綺麗な顔立ちをしている。顔の造作自体はそれほど似ていないが、やや強気そうな雰囲気はミランダに近い。そして、シウンの胸はほぼマリコに匹敵する。腕相撲の体勢を取った場合、それが見事にテーブルに乗っかっていたであろうことはマリコ自身の経験から言っても間違いない。それを眼前に見ながら、腕相撲ではあるもののその娘の手を握っていたのだ。負けた悔しさを差し引いてもお釣りがくるだろう。


 何をやってるんだかと思いつつも気持ちは分からないでもない。マリコ自身が微妙な表情になりながら改めてシウンの方へ目を向けると、新たな挑戦者が手を挙げた。アドレーである。彼は悠然と歩を進めてシウンの向かい側に立った。


「流石に我が(パーティー)のメンバーを全滅させられては、黙って見ているわけには参りません。勝敗はやってみないことには分かりませんが、お相手願えますでしょうか。私はアドレーと申す者。(パーティー)の長をやらせていただいております。以後、お見知りおきを」


 例の芝居がかった仕草で腰を折るアドレーに、シウンは頷き返して言った。


「ご丁寧な挨拶を頂いた。無論受けよう。我が名はシウン。大空を統べる龍族の末座に連なる者」


 シウンの口上に食堂は静まり返った。シウンには、いきなり(ドラゴン)だと名乗ると驚かれるだろうからそう紹介するまで黙っているよう言ってあったのである。おそらくアドレーの挨拶に対してつい真面目に返してしまったのだろう。マリコはタリアやエイブラムとどうしたものかと顔を見合わせる。しかし、静寂は一瞬で破られた。


「それは何という誉れ! 龍族の姫君に挑めるとは光栄の至り! それでは、いざ勝負!」


 アドレーは朗々とそう告げると、身体を曲げてテーブルに肘を突いたのだった。それはもちろん、腕相撲の構えである。次の瞬間、食堂中がドッと湧いた。アドレーの仰々しさに対してシウンが里の中で今話題となっている(ドラゴン)をネタに応じ、さらにアドレーがそれに乗った、と受け取られたのである。


 マリコたち三人は再び顔を見合わせて、ふうと息を吐いた。普通に考えれば、変身能力のことを知らない限り、今のシウンの姿を見て(ドラゴン)だと思うのはまず無理である。マリコたちは知っていたからこそ焦ったのだ。


「それじゃ、準備はいい? 用意……、始め!」


「ふんっ!」


「ぬうっ!」


 事情を知っている者たちの安堵をよそに、サニアの号令で腕相撲が始まった。手合せした時のマリコの感触だと、人型のシウンの筋力は決して低くない。ミランダと同じくらいはあるように感じた。不足しているのはスキルと慣れなのだ。それでも四連戦の影響はあるらしく、ミランダとの勝負後のアドレーとしばらく接戦を演じた後、辛うじてシウンが勝利をつかんだ。


「「「「オオオオオォ」」」」


「何があったんですか!? これ」


 シウンとアドレーが仰々しくお互いを讃え合い食堂中が盛り上がる中、バルトとブランディーヌがようやく入口に姿を見せた。

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