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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
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391 ドラゴンの謎 5

 背中に回っていた腕が緩み、チャプリとお湯を揺らしてシウンの身体がマリコから離れる。押し潰されていた双丘は元の丸みを取り戻した。もっとも、一メートル角ほどの湯船の中のことである。シウンの顔はまだ手を上げれば触れられる距離にあった。


 その顔がついとそらされたかと思うと、シウンは無言のまま中空をにらんでそこへ指を走らせる。マリコはその仕草に目を見張り、上げそうになった声を何とか押し留めた。それは自分がメニューの操作をしている時そっくりだったのである。


(まさか、シウンさんも加護を受けているというの!?)


 マリコの驚きをよそに、シウンは何かを探すように視線を上下させたかと思うと、それはじきに一点で留まった。一瞬見開いたように見えた目がスッと細められ、口元が弧を描く。明るい笑みを浮かべたままのその顔がマリコに向けられた。


「うむ、ちゃんと登録できているな。よかった。マリコ殿も確認しておいてくれ」


「か、確認? 何をですか」


「もちろん、フレンドリストだ」


「フレンドリスト!?」


 シウンの口から出た予想外の単語に、マリコは思わず聞き返した。


「ああ、人族が相手だと、互いに認められる相手でないとダメらしいな。マリコ殿は中間形態(ミディアムモード)の私を圧倒できる腕をお持ちだったから、心配はしていなかったんだが……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 サクサク話を進めようとするシウンに、マリコは慌ててストップを掛ける。シウンのセリフにはあっさり聞き流すわけにはいかない事が含まれ過ぎていた。


「フレンドリストというのは、こう、空中に窓みたいなのが開いて、そこに一覧が並ぶやつでしょうか?」


 マリコが指先で宙に四角を描きながらそう聞くと、シウンは「もちろんだ」と答えた。どうやらマリコのと同じか、かなり近い物のようである。となれば、マリコの次の質問は決まっている。


「もしやシウンさんは、神様の加護を受けてるんですか?」


「え? 神々の加護というのは、皆が皆受けているものではないのか?」


「ええっ!?」


 今度は二人共、疑問符の浮かんだ顔を見合わせることになった。


 ◇


「じゃあ、龍族の皆さんは全員がフレンドリストを使える、と」


「そういうことだな」


 確認するように聞くマリコにシウンが頷いた。二人は結局一緒に湯船に浸かっている。湯船の中に立ったまま話をしていると身体が冷えてきたので、一旦洗い場に出て掛け湯をし、お湯が減ったところで改めて入ったのである。


 前のマリコとミランダの時との違いは、それぞれが湯船の対角に背中を預けて向かい合わせに座っているところだろうか。立て膝をした足の先を互いの身体の横に差し込んで、なんとか二人とも肩までお湯に浸かっている。


 そうして、人族と龍族の加護について情報を交換した。人族に対する神々の加護が人によって違うという話はシウンを驚かせた。一方、龍族全員が受けるという加護はフレンドリストそのもののことであり、マリコやミランダのようにメニューが開けるというわけではないようだった。


 龍族は転移門がどうこうというよりも前からフレンドリストが使えたようである。フレンドリストがあるということは互いにメッセージを送れるということでもある。行動範囲の広い龍族にはうってつけの機能だとマリコは思った。


「我々が離れて暮らせるのも、この力があるからだ。いや、この力があったからこそ、離れていても暮らせるようになったのか」


 シウンはそう言って納得したように頷いた。鶏が先か卵が先かのような話になるが、シウンは流石にそこまで古い事は知らないのだそうだ。


「それで結局、マリコ殿の方はどうなのだ。フレンドリストが使えるとは聞いたが、私はどうなっている」


「ああ、そうでした」


 認識のズレを確認する方に気を取られてまだ開いていなかったリストを、マリコはようやく開いた。すると、猫耳女神とミランダだけだったリストの下に、確かにシウンの名前が増えている。


「ありましたありました。ちゃんと載ってます」


「なら良かった。これでマリコ殿とはいつでも連絡が取れるし、いざとなれば駆けつけられる」


「そうですね、って駆けつけられる!? どうやってですか?」


「それはもちろん、空を飛んで」


「いえ、方法ではなくてですね。どうやって私の居る所を見つけるつもりなんですか、ってことです」


「え!? もしや、ご存じないのか。フレンドリストを開いてそこに載っている誰かの事を考えれば、その相手が居る方向と大体の遠さが感じられるんだ」


「そうなんですか!?」


 初めて聞く話にマリコはまた驚かされた。


「何なら試してみればいい。ああ、今の我々では近すぎて分からないだろうから、私以外の誰かで。いや、人族にフレンドリストを使える者が少ないのなら、他には……」


「いえ、一応居ますから!」


 ぼっち認定されかかったマリコは、シウンの言葉を遮るように否定した。それからまずはミランダで試してみる。すると確かに風呂場の外、さほど離れていない所にその存在が感じられた。


(レーダーほどはっきり分かるわけではありませんけど、分かりますね)


 次に女神を意識してみる。今度は遥かに離れた感覚。方向も何かおかしいような気がする。


(ああ、女神様の部屋は宇宙に浮いてますから、距離の感覚はこれで合ってるんですね。方向は……、これ月が今ある方ですか)


 女神の間は地球と月の間に浮かんでいるはずである。猫耳女神がそこに居るのなら、今感じているもので間違い無さそうだった。


「分かって頂けたか」


 虚空をにらんでいたマリコの視線が戻ってきたのに気付いたのだろう。シウンが声を掛けてきた。それに頷き返したマリコの頭に、そこで別の疑問――あるいは予測――が湧いた。フレンドリストが開いたままのメニューをいじって、別のタグを選ぶ。


(あー、やっぱり。消えてますね)


 開いたのは召喚獣の項目。そこには馬のヤシマだけが残り、グレー状態ではあったものの一応表示されていたはずのシウンのアイコンが無くなっていた。


(どうしてこのタイミングだったのか、細かいところは女神様にでも聞かないと分からないでしょうけど)


 龍族とは言うものの、人格を持ち、知識や知能も他の人たちと変わらない。召喚「獣」扱いはおかしいということなのだろうなとマリコは思った。

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