384 ドラゴンスレイヤーへの道? 11
待ってくれとは言われたものの、理由が怪我だと聞いた以上話は別である。最高レベルの治癒の使い手であるマリコは当然のように手伝いを申し出た。
「貴公は治癒が使えるのか!?」
「ええ、まあ」
驚くシウンにマリコは頷いた。だが、治癒に限って言えばレベルの上下こそあれ、今のマリコたち一行七人の内、実に五人が使えるのである。それを聞いたシウンはまた驚いて言葉を失った。その驚き様が逆にマリコを驚かせる。
確かに取得条件の敷居の高さ故、回復系魔法の使い手は全体的にさほど多くない。しかし、基本的な回復系魔法である治癒の使い手はそれなりに居るはずだった。マリコたちの七分の五は流石に普通とは言えないが、里レベルの集団であれば皆無ということはまずない。
「治癒を使える人って、珍しいんですか?」
「ああ。我々龍族には回復系魔法を使う者は滅多に居ないと聞いている」
マリコの疑問にシウンはそう答えた。聞けば、鱗に覆われた身体はそもそも傷付きにくく、自然治癒力が高いので回復も早いのだそうだ。加えて、龍族は元々身体が丈夫で病気になることも少ないのだと言う。それなら確かに、普段は回復系魔法の出番が無い。
さらに話を聞くと、龍族に回復系魔法の使い手が少ない理由がマリコにも分かってきた。龍族は集団生活をしないのだ。一緒に暮らすのは精々家族単位で、それも育った子供は独立生活を始めるので、普段から一緒に居るのは夫婦となったペアくらいだとシウンは言った。
(治癒の取得条件である「瀕死の重傷」を負うことがまず少ない、仮にそうなった時にも治癒を掛けてくれる相手が傍に居ない、ではねえ)
取得条件に「治癒のスキルレベル○○」が入っている他の回復系魔法は言わずもがなである。ともあれ、そういうことであればコウノとシウンの所へ移動しようかという話の流れになった。だが、それにバルトが待ったを掛ける。
「気を悪くせずに聞いて欲しいんだが……、俺たちが近付いても大丈夫なのか?」
マリコも含めた、組を預かる者としては尋ねない訳にはいかなかった。シウンとコウノについては――勝負を挑まれたマリコを除いて――穏便に対応できているが、ツルギは二度童だという。無邪気にであろうと何であろうと、掛かってこられることにでもなればあの巨体である。無事に済むとは思えなかった。
「今は眠っているし、起きている時も祖父は食べる事以外に対する興味をほとんど失っている。大丈夫だ、……と言いたいところではあるのだがな。流石に人族と出会うのは初めてだ。どういう反応をするかまでは、正直予想できん。だから……」
シウンは一度言葉を切るとバルトを見返した。その視線がバルトのそれと正面からぶつかる。
「貴公の懸念は理解できる。何かあるようなら、その時にはコウノと二人で何としても止めよう」
「……分かった」
バルトはシウンと重々しく頷き合った後、ちらりとマリコに目を向けた。しかし、マリコは何事か考えに耽っているようで、バルトたちの方をちゃんと見ていない。バルトがちょっと落とした肩を、トルステンがポンポンと叩いた。
◇
シウンを加えた一行はぞろぞろと坂を下った。近付くにつれてツルギの大きさを実感する。太くなった胴体の高さは横たわっていてもなお、マリコたちの身長より高い。ツルギの所へと到着すると、傍にいたコウノも虹を纏って中間形態へと変化した。赤い龍少女が小走りに寄ってくる。
「シウンちゃん、どうしちゃったの!? 皆連れてきちゃって」
「ああ、マリコ殿が治癒を使えるそうでな。手伝ってもらうことになった。それと、ちゃんはやめろ、ちゃんは。もう子供ではないんだから」
「え、治癒!? すごいね!」
「それで、爺様の具合はどうだ?」
「うーん。あんまり変わらないよ。治りかけたところをまた擦ちゃってて。とりあえず、見えてる所の土なんかを洗い落としたところ」
マリコたちの存在に慣れてきたのか、コウノはやや砕けた感じの話し方になっていた。二人の会話を耳に入れながら、マリコはツルギの方へ目を向ける。伏せの体勢になったツルギは自分の腕を枕にして、それでもどこか苦しげにみえる顔で眠っているようである。流石に身体が大きいだけあって、腕に乗っかった頭もマリコを丸呑みにできそうな大きさがある。
確かにシウンが言った通り、肘や膝に当たる部分の鱗が割れたり剥げたりしていた。洗った後だということで、大部分はきれいになっているが、それでももうわずかに血がにじみ出している。今のツルギの姿勢では見えないが、腹側もそうなのだろう。お腹の皮膚は他と比べて柔らかいことが多いので、もしかするともっとひどいかも知れない。
「えっ! これ!?」
そこまで見たところで誰かの声が上がった。そちらに目を向けると、遠目にも見えていた灰色の小山の前にカリーネが立っている。
「なんでこんなに灰色オオカミが!?」
続くカリーネの声で、マリコにもカリーネが驚いた理由が分かった。灰色の小山は積み上げられた灰色オオカミだったのである。山の大きさからすると十頭は下らないだろう。
「それは祖父、爺様の食事だ。普通なら二、三頭で十分なんだろうが、爺様、このくらい食べないと満足してくれなくてな」
「これで一食分なんですか!?」
今度はマリコが驚きの声を上げた。灰色オオカミはマリコと同じくらいの大きさがある。いくらツルギが大きいといっても、十数頭は食べ過ぎだろう。それで這うようにしか動かないのなら、太るのも無理はないなとマリコは思った。
「と、とりあえず、眠っておられる間に治癒を掛けようと思います。いいですか?」
「頼む。少し前に食べて寝たところだから、今しばらくは、つまり腹が減るまでは起きないはずだ」
シウンの返事に頷いて、マリコは眠る大型龍に腕を向けて構えた。
「治癒!」
魔力の流れ出るいつもの感覚。流れていった量もいつも通りである。身体が大きい相手だからといって、必要な魔力が増えるわけでもないらしい。皆が見守る中、ツルギの傷が治っていく。ひび割れは消え、欠けている部分には新たな鱗が生えた。
「おお!」
「すごい!」
シウンとコウノが声を上げ、程なく金の龍は本来の輝きを取り戻した。眠ったままのツルギの顔は少し穏やかになったように見える。マリコは腕を下ろして安堵の息を吐く。
すると突然、そのツルギの眼がパチリと開いた。目の前に立っているマリコとバッチリ目が合う。
「まだ寝てるはずじゃあ……、あ」
自分が言った言葉で、マリコの頭にひらめくものがあった。治癒は身体の傷を癒すが、その分体力を使う。ツルギは体力が減った分、腹も減ったのではないか。
「ゴアアアァッ!」
頭を上げたツルギがまるで返事をするように吼え、マリコの身体をビリビリと震わせた。
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