383 ドラゴンスレイヤーへの道? 10
一行はシウンの作った道とも呼べない道を進んで行く。確かに時折、倒れた木を乗り越えたり倒れずに残っていた低木を払ったりはしなければならない。しかしそれはバルトが言った通り、未開の森の中を進むよりはずっと楽な道行きだった。しかも、襲ってくるような野生動物に全く出会わない。
シウンは先ほど、ブレスを吐く前に一々咆哮を上げていた。マリコたちはそれを聞いた鳥たちが慌てて逃げ出すのを見たが、鳥だけではなく森の木々の下にいた動物たちのほとんども逃げ散っていたのである。
「これは、あのシウンちゃんの気遣い、なんだろうねえ」
「そのようですね」
しばらく進んだところで、全く要らないわけでもない山刀を手にバルトと並んで先頭を歩いていたトルステンが言い、二人の後ろを歩いていたマリコは頷いた。もしもシウンがいきなりブレスだけを吐いていたら。一同の行く手には生き物の死骸がもっと落ちていたことだろう。先に吼えることで森の動物たちを逃がし、不必要に巻き込まれるのを避けたのだと思われた。
「でもこれ、ちょっともったいないわよね」
根こそぎ倒された、太さが一抱えほどもある木を避けながらカリーネが言う。倒れた木には材木として十分使えそうな物もかなり混じっていた。このまま放置して腐らせてしまうのは確かにもったいない。マリコは思いつきを口にした。
「帰りに拾って帰りましょう」
「拾ってって、マリコさん……」
「ある程度枝を払って、アイテムボックスに仕舞えば……」
「ああ、それならある程度は何とかなりそうね」
倒れた木の輸送計画などを話し合いながら、一行はシウンたちの後を追った。
◇
道無き道を進むより早かったとは言え、一直線である分、傾斜はきつい。谷になった場所へと下り、隣の峰の上に辿り着く頃には陽が傾いていた。一行が山の上に立って向こう側を見下ろすと、シウンがブレスで切り拓いた道がまだ続いている。少し下った所の地面に、三頭の龍がいるのが見えた。山頂付近の木々はほとんどが高く伸びており、切り拓かれていなければまだ見えなかっただろう。
銀色はシウン、赤はコウノのようだ。そして、残る一頭は大きな金色の龍だった。シウンたちの倍近い長さの身体が、蹲るようにその場に座り込んでいる。さらにその傍らには、何か灰色がかったものが積み上げられているのも見えた。
「あれがコウノさんの言ってたっていうおじいさんですか。流石に大きいですね」
「ああ、大きいな」
マリコの言葉にミランダが頷き、続いてバルトが戸惑ったような声を上げる。
「いや、確かに大きいんだが、それ以上に何というか、その……、太い?」
シウンとコウノはトカゲの胴体を少し大きめにしたような、いわゆる西洋龍の体型をしている。それと比べて、今見えている金の龍は体長こそシウンたちの倍くらいだが、身体の幅は倍どころではなかった。伝説上の生き物と言われるツチノコに手足と角と翼を付ければあんな形になるのではないだろうかとマリコは思った。
これ以上近付いても大丈夫なものかどうか判断が付かず、マリコたちがその場に留まっているとシウンたちの顔がこちらを向いた。向こうも気が付いたらしい。シウンが羽ばたいて舞い上がり、こちらへと向かって来る。金の龍はというと、マリコたちに気付いていないのかそれとも興味がないのか、自分の前にいるコウノの方に顔を向けたままである。
じきにマリコたちの近くに降り立ったシウンは中間形態へと変化した。
「無事に追いついて来られたな」
「まあ、基本的には坂道を歩いてきただけですし。それで、あの金色の龍がおじいさんなんですか」
「そうだ。名をツルギと言って、私の祖父に当たる。コウノにとってもな。ああ、我々の祖父と言っても、私とコウノは姉妹ではないぞ。従姉妹なんだ」
コウノが言ったおじいさんというのは文字通りの意味だったようだ。
「それで、早々に来てもらってなんだが、もうしばらく待っていてもらえるだろうか。祖父の手当の途中なんだ」
「手当って、どこか怪我してるんですか!?」
ここから遠目に見る分にはツルギが特に大きな怪我を負っているようには見えない。マリコは驚いて聞き返した。
「あー、大怪我という訳ではない。あの通り、肥え過ぎて自力で飛べなくなっているくせに無理矢理這い回るものだから、肘やら腹やらに擦り傷をな……」
「大変じゃないですか」
「いや、本当なら傷自体はしばらくじっとしていれば治るんだがな。本人が動いてさらに擦るから治るものも治らん」
シウンの言う通りなら、ツルギは傷口をさらに擦りながら這っていることになる。想像するだけで痛そうだ。マリコはつい何故止めないのかと聞いた。
「言って止まるものなら苦労はしない。祖父は二度童でな。だからこそ我々がついているんだ」
「二度童……」
「ああ、長生きした龍族の者が、たまになる」
二度童。マリコはその言葉に覚えがあった。それは歳を取った人が子供に帰ること。つまり、認知症の別名、やや古い言い方ではなかったか。
うむむ、見事予想通りの展開に(汗)。
なお、二度童または二度童子という言い方は実際にあります。
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