380 ドラゴンスレイヤーへの道? 7
迫り来る拳に、マリコも反射的に手を出した。手刀の形に指を伸ばした右手の甲で、真っ直ぐに突っ込んできたシウンの右拳を外に向かって弾く。軌道をそらされたシウンはわずかに姿勢を崩し、そのままの勢いでマリコの脇を駆け抜けた。
「んっ、ととっ!」
ゆらりと身体ごと振り返ったマリコの前で、シウンはたたらを踏んで勢いを殺した後、マリコの方へと向き直った。再び構えると、もう一度一直線に飛び込んでくる。
「ホワアァッ!」
(やっぱり)
マリコは先ほど感じた疑問を確信に変えながら、こちらもまた手刀で待ち受けた。内から外へと振り出された手の甲がシウンの拳に触れたところで手の平を返して手首をつかむ。同時に左手をシウンの二の腕に添え、つかんだ手首をグイッと引き下げた。
「ワチャッ!?」
肘をロックされた形のシウンの右腕は、二の腕に添えられたマリコの左手を支点とした梃子の棒と化す。直進していたシウンの身体に上向きの力が加えられ、足が地を離れた。扇を広げるかのように、シウンの身体が空中で半円を描く。
マリコがそこで手を放すなり引き落とすなりしていれば、シウンは投げ飛ばされるか地面に叩きつけられるかしていただろう。しかし、マリコはどちらも選ばなかった。二の腕から左手を放してワイシャツの胸元をつかみ、同時に右手を引き付ける力を緩めて、シウンを足からそっと着地させた。
「ホワッ?」
「シウンちゃん!」
マリコに手を取られたまま地面に半ば大の字になったシウンが何が起きたのか分からないといった感じの声を上げ、コウノがワイシャツをはためかせて駆け寄ってくる。あまりに呆気ない決着にバルトたちはキョトンとした顔をしており、審判役のミランダも判定を下していいものかどうか迷っている様子である。
(ほとんど素人、ですよね)
シウンの手を引いて立ち上がらせてやりながら、マリコは改めて思う。龍の姿でマリコの前に降り立ったシウンは、その姿に相応しい強さを感じさせた。だからこそ、人型に変じることでその圧力が下がった時にも油断はしなかった。
それが疑問に変わったのが始めに突っ込んできた時である。シウンの突進は姿勢も良く速度も乗っていたが、単にそれだけだったのだ。何かのフェイントではないかと疑いながら拳を払うと、シウンは簡単に姿勢を崩した。本当に技も何もない素直な一撃だったのだ。
しかし、どうやらそれだけではないようである。シウンの傍へ寄ったコウノが背中や尻に付いた土をパシパシと叩いてやりながら言う。
「もー。だから言ったじゃない」
「やはり無理があったか」
「碌に練習もしてないんだから当たり前だよ」
「ああ、すまん」
頭をかきながら応じていたシウンがマリコに向き直った。
「マリコ殿、申し訳ない。貴公を侮ったわけではないのだが、この姿では思っていた以上に元の力が振るえないようだ」
「どういうことですか」
「ええと、だな……」
詳しい事や細かい事は長老格にでも聞かないと分からないが、と前置きした上でシウンが言うには、龍族は一定年齢に達すると人型に変身できるようになるらしい。だが、元の身体とかなり違う構造になってしまうことから、龍の姿の時と同じように能力を使いこなすためには相応の時間を掛けて訓練する必要があるのだという。
(つまり、今はスキルなんかに制限が掛かっている状態、ということですか)
シウンの話に頷きながらマリコはそう考えた。確かに元の西洋龍っぽい形態と今の人型では身体のバランスから何から大分違う。仮に今自分に翼が生えたとしても、いきなり上手く飛ぶのはほぼ不可能だろう。これまでそんな器官は無かったのだから。慣らさないと無理だというのは納得できる話だった。
「そんなわけで、今の一本目は明らかに私の負けだ。だが、このまま続けても結果は見えていて折角の立ち合いの意味が無い。そこで物は相談なんだが……」
一通りあらましを話し終えたシウンが聞いてくる。
「姿を変えても構わないだろうか?」
「え、それは龍の姿に戻るっていうことですか!?」
マリコはシウンの龍としての姿を思い出した。正確なところは分からないが、感じたことからしても大きさからしても、以前戦ったボスオオカミより弱いとは思えない。流石にそんな相手に、しかも素手で立ち向かっては勝てる気がしない。
「いやいや、そうではない。ええと、実際に見てもらってからの方がいいか」
シウンはそう言うと数歩下がった。左手は肘を引いてお腹の横で拳を握り、右手は開いて突き上げる。
「形態変更!」
先ほども見た、虹色の光が渦を巻く。ただし、今回はそこまで大きくない。シウンの身体を覆い隠す程度の渦が巻き上がり、数瞬の後に音も無く収まっていった。見え始めたシルエットの大きさは今までと変わらない。
「これが中間形態と呼ばれているものだ。どうだろうか?」
これも人型の時と同じ声が響き、何人かが「おおっ」と驚いた声を上げた。
肩と胸、腰回り、そして前腕部と膝から下が白銀の装甲で覆われていた。よく見るとそれぞれ、小さな鱗状のパーツが集まってできているようだ。いわゆるスケイルメイル、しかも胸と腰を覆っている部分はビキニ型である。マリコの水着、アーマービキニではなく、こちらは正真正銘ビキニアーマータイプであった。
変化はそれだけではない。シウンの肉体も変化していた。顔や髪の長さ、色は変わっていない。だが、その髪の中、頭の両側から優美なラインを描く角が生えていた。そして腰の後ろ、アーマーのボトムの上部からはしっぽが伸びている。これももちろん白銀の鱗に覆われた龍のしっぽである。先にいくほど細いそれは脚よりも長く、別の生き物であるかのようにゆらりゆらりと揺れていた。
(まとも、かどうかはともかくですけど、服、持ってるんじゃないですか)
その美しさに目を奪われながらも、マリコは頭の隅でチラリとそう思った。
本家ビキニアーマー?
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