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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
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379 ドラゴンスレイヤーへの道? 6

 確かにミランダには出会って早々に勝負を挑まれた。ただし、あの時には一応の理由があった。マリコが強そうだから手合せしてみたかったというミランダの個人的な希望も含まれてはいたが、表向きには数日中に行われるであろう野豚狩りに際して、それに参加できるだけの腕があるかどうかという話だったはずである。


 翻って今はどうか。シウンと仕合わねばならない理由があるのだろうかとマリコは考えた。引っ掛かるのは「ここから始めなければいけないらしい」というシウンのセリフである。この言葉から今回のこの勝負はシウンが望んでいるのではなく他に何らかの理由があり、しかもそれがシウン自身にもはっきり分かっていない、ということが読み取れる。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 現実(・・)での事柄をゲームに基づいて考えるというのも妙な話ではあるが、この世界の成り立ちを考えれば仕方がない。マリコはシウンに待ったを掛けると、ゲームの設定にヒントを求めた。


(召喚獣関係で他に何かありましたっけ)


 召喚獣のシステムはゲームのサービス開始当初からあったものではなく、後から実装されたものである。実装時には既に「マリコ」としてプレイしていたので、その時のお祭り騒ぎはマリコも覚えている。皆こぞってガチャを回し、手に入れた召喚獣を我も我もと連れ歩いていた。


 大別すると、召喚獣には騎乗できるものとできないものがいる。中でも(ドラゴン)のように空まで飛べるものはレアである。ただし、召喚獣で飛ばないと行けない場所やクリアできないクエストなどは無かった。もしあったら乗って飛べる召喚獣が不可欠になってしまう。ゲームの進行にガチャのレアが必須など暴動確定であろう。


 ゲームにおいては、長距離の移動には転移門を使い、そこから先は自分の足で歩くのが普通だった。それは今のこの世界もほぼ同じである。そして、行った事のない転移門には転移できないところも同じだった。つまり、誰かに連れて行ってもらうという裏技的なことをしない場合、一度は自分で歩いて行かねばならなかったのである。


 もちろん今の世界ほど離れているわけではないので、隣り合った転移門まで歩いてもせいぜい十数分だった。だが、ゲームを遊んでいて十数分歩くのは結構面倒である。ルートによっては途中でモンスターと遭遇戦になることもあって余計に時間が掛かる。それを短縮してくれるのが騎乗できる召喚獣だった。徒歩よりずっと速いので、モンスターに出会った時もほとんどは振り切れるのである。


(ん? あれ?)


 ここまで考えたところで、マリコの頭の中で何かが引っ掛かった。新しくPCプレイヤーキャラクターを作った場合、始めに降り立つ村で数々のクエストをこなすことになる。いわゆるチュートリアルに当たる部分であり、その中で基本的なスキルをいくつも覚えたはずである。


 もちろん、比較的自由度の高いMMORPGであったので、このクエスト群の途中でも村を出ることはできた。だが、一番近い街の転移門に向かおうとするとほぼ間違いなく道中で遭遇戦になる。チュートリアルを経てある程度強くなっていないと突破は難しいので、死に戻って続きをやることになるのが普通だった。


 しかし、騎乗型の召喚獣がいればかなりの確率で途中のモンスターを突破できてしまう。だが、それでは困るのだ。基礎になるスキルを持っていないと習得できないスキルや初期のクエストをクリアしていないと発生しないクエストも多いので、結局は戻ることになる。プレイヤーとしては二度手間もいいところである。


(何か、制限があったような……。ああ!)


 マリコはようやくかつての知識を掘り起こした。召喚獣の実装は「マリコ」がそこそこ育った後のことだったので、意識することなくクリアしていた条件があったのである。それは、初心者が騎乗型召喚獣を引き当てた場合、チュートリアル相当部分の最終クエストが終わっていないと実際の召喚ができない、というものだった。


(じゃあ、この勝負は私が召喚獣に見合う能力を持っているかどうかを確かめるためのものってこと?)


 シウン本人に納得できるよう条件が形を変えたものだとすれば、まだ分からないでもない。シウンが素手で構えて見せたということは、こちらも素手でやれということなのだろう。殺し合うわけではない。力が測れればいいのだ。だが、新たな疑問も浮かぶ。始めから召喚獣としてメニューにも登録されていたヤシマのことである。


(ヤシマにはこんなの無かったんですよね)


 ヤシマとシウンの違いは何かと考えてみても、ウマと(ドラゴン)という種類の差くらいしかない。だが、実際に顔を合わせてみると、(ドラゴン)は人と同じ様に知能と人格を持っていた。今のように変身していると人と全く区別がつかない。その辺りが扱いの違いになっているのだろうかとマリコは思った。


(女神様に種明かししてもらわないと分からないですね、これは)


 そこまで考えたところで、マリコは疑問を棚上げすることにした。正解を知っているのは女神だけなのだ。教えてくれるかどうかは分からないが、質問を心の中にメモするとシウンの方へ向き直る。


「おっ、やる気になったか」


「やらないと話が先に進みそうにありませんから」


「そういうことだ。では、そこの貴公、立会いを頼む。三本勝負だ」


「私か!?」


 傍に居たミランダが指名を受けて驚いたように自分を指差す。あわてて周囲を見回すと、バルト一行はいつの間にか少し距離を取ってギャラリーと化していた。シウンたち二人が一応服を着たからか、バルトとトルステンも前を向いている。


「貴公が一番話が合いそうだったのでな」


「ぬ。ふむ、そうか」


 どこか通じるものがあるのか、ミランダはそれで納得したようである。マリコとシウンの間に立ち、さらに数歩下がった。シウンが構えるのを見てマリコに目を向ける。


「素手による立ち合いということのようだが、マリコ殿もよろしいか」


「ええ」


 マリコは頷くと、シウンに対して一礼する。シウンも一旦構えを解いて礼を返した。改めて両者が構えると、それまで黙って見ていたコウノがハッとして声を上げた。


「待って、シウンちゃん。そのままじゃ……」


「構わん! 始めてくれ」


 コウノの声を遮ってシウンが言う。ミランダは頷いて片手を上げた。


「分かった。では。始め!」


「ホアチャア!」


 ミランダの手が振り下ろされるのと同時に、シウンが気合いを入れて飛び出す。数メートルあった間合いが一気に詰まり、半身に構えていたマリコは軽く目を見張った。勢いに乗ったシウンの拳が突き出される。

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