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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
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036 厨房の攻防 3

スプラッタ注意報継続中です。

鶏を捌いています。そんなに生々しくはないと思いますが、苦手な方はご注意ください。

 正直に言って、ミランダは見惚れていた。


――ここで脚を外側に開いてやると股関節が……


――この隙間に包丁を入れて、手羽と胸肉を……


――首に付いているこの肉をセセリと言って……


――トサカと足先はどうしておきましょうか……


――内臓はどこまで置いておけばいいですか……


 要所要所でミランダにも分かるように解説を入れ、時にタリアの方を振り返ってミランダには意図が分からない指示を仰ぎながらも、マリコがその手の動きを止める事は無かった。つい先ほどまで「羽をむしられた鶏の死体」であったものを「おいしそうな鶏肉」へと変貌させていくマリコの手元から、ミランダは目を離すことができなかった。


 特に、それが肩の骨だという尖った骨の裏側に包丁を入れたマリコが、次に鶏の胸元をつかんでパカリと開いて見せた時には、これまでグロテスクに思えるだけだったはずの内臓が傷一つなくそこにきれいに並んでいる様子に、ミランダはある種の感動と共に美しささえ感じた。


(これは剣の道と同じだ)


 ミランダは唐突に思い至った。マリコの動作には無駄がないのだ。その全てにちゃんと意味があり、次の過程へと効率的に繋がっている。そこには先人達が積み上げてきた厳然たる理論と技があり、実際に包丁を振るう個々人が日々研鑚を積んで体得した経験と技量があるのだということに、ミランダは気が付いたのだ。相手の急所に吸い込まれるような、正確な一振りを繰り出す為に必要なものと、どこに差があるというのか。


(鶏を捌くことなど自分でも何とかなるなどとなぜ思った)


 ミランダは己を恥じた。確かにある程度肉を切り取ることはできただろう。ただし、それは無駄と非効率に塗れ、そしておそらく、おいしさからもかけ離れたものになっていたであろう。無駄のない動きは無駄がない故に美しい。ミランダは達人の剣舞を見る眼差しで、マリコの舞に見入った。


 ◇


 とりあえず一羽を捌き終えたマリコは、一度包丁を置いた。目の前に並んだボウルには、切り分けられた部位がそれぞれきれいに収まっている。


(今の感覚、スキルが働いたってことなのか。不思議な感覚だったな)


 身体が勝手に動いたわけではない。マリコはあくまで、自分の意思で手を動かしていた。ただ、元の身体ではありえない精度と速度で身体が動くのだ。知識についても同様だった。正しく包丁を入れる目や、より早くきれいに捌くためのコツ。本来の自分が知っているはずのないそれらをマリコはちゃんと知っていて、それに基づいて手を動かしていたのだった。


(元の自分が知らないことも「マリコ」はスキル持ちとして当然知っているし上手にできる、ということなのか。元からあった知識なのか「マリコ」が身に付けている知識なのか、頭の中に境い目がはっきりあるわけじゃないから分かりにくいな、これ。料理が完成したわけでもないのに止められるのも不思議だけど、現実なら当たり前と言えば当たり前か)


 ゲームにおける調理は、一食分の材料と道具を揃えてスキルを使うと――出来に関しては運の要素が絡むものの――数秒間の調理時間後に料理が完成する、というものだった。要するに、一食一食作っていくのだ。当然、途中でキャンセルしない限りは料理が完成するまでスキルは終了しないし、キャンセルした場合は元の材料が戻ってくるだけで「作りかけの料理」になったりはしなかった。


 しかし、現実ならそんなことにはならないし、それだけでは済まない。今やっている「鶏を捌く」などの「下ごしらえ以前の作業」は最たるものだろう。それぞれの部位が最終的にどんな料理になるかなど、今の段階では決まってさえいない。調理以前の加工だと言うこともできるだろうが、これも確かに鶏から料理へと至る「調理」の一部であるとも言えるのだ。


(とにかく、今のは多分、スキルが働いたということなんだろう。つまり、私は「マリコ」が持っていたスキルを今も持っている、ってことなんだ。でも、なんで発動したんだろう。ショートカットキー押したわけでもないのに。自分が実際に「調理」を始めたから? 条件が揃ったから? そうだとしたらこれ、危なくないか? 調理くらいならともかく戦闘系のスキルとか勝手に出たらえらいことだよな……ん?)


 今起きた事について考え込んでいたマリコは、ふと視線を感じて隣を振り返った。するとそこには、頬を紅潮させ目に星を散らしたような表情で、プルプル震えながらマリコを見つめるミランダがいた。


「マリコ殿!」


「は、はい!」


 叫ぶように呼びかけられたマリコは反射的に返事をした。


「貴殿は素晴らしい料理人だ!!」


「え? あ、ひゃひっ!?」


 ガシリ、といきなり両の二の腕をつかまれて揺さぶられたマリコは、思わず変な声を上げた。


「あの流れるような包丁捌き、美しくもおいしそうな肉、無駄な肉の欠片も残らぬ骨。生まれてよりこのかた、捌かれてゆく鶏を美しいなどと思ったのは初めてだ。貴殿はきっと名のある料理人に違いない! そうだろう、マリコ殿!?」


「あ、あの、ミランダさん?」


 滔々と捲くし立てながらマリコを揺さぶり続けるミランダに困って、マリコは辺りを見回した。


 タリアはいつもの面白そうな顔で黙って見ていた。


 サニアはうつむいて笑いをこらえていた。


「また始まった……」


 アリアがぼそりとつぶやくのが聞こえた。


(この人、いつもこんなテンションなの!?)

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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