番外 006 女神代行代理(1,000万PV記念) 1 ★
1,000万PV記念ということで、以前レビューも書いてくださった仲根多鎖様からファンアートを頂きました。
それを眺めていて思い付いた番外編です。
頂いた絵はもちろん挿絵として挿入してありますので、共々お楽しみいただければ幸いです。
例によって本編自体との整合性は無視しております。「作者によるセルフ二次創作」として気楽にご覧ください。
その夜、クエストを報せるチャイムが鳴ったのはマリコがベッドに入る直前だった。
「あれ?」
見ればウィンドウに表示された現出予想時刻は今から二時間以上も先である。流石に余裕を持ちすぎではないかと思ったマリコだったが、「全知」の組み込まれたシステムがわざわざ報せたのだ。何か理由があるのだろうと思い直した。
「これはきっと、今から行っておけば事故を未然に防げる、ということなんでしょうね」
つぶやいたマリコは押入れ兼クローゼットという不思議な作りをしている作りつけの収納スペースに歩み寄ると、クローゼット側を開いた。寝巻きに着替えた後だったので、女神にもらった変神ブローチの付いたリボンタイはメイド服と一緒にそこに掛けてあるのだ。
(ここで変神してから行って帰ってきてから解除するんですから、着替えなくても大丈夫ですよね)
メイド服フル装備に着替えるのにはそれなりに手間が掛かる。その時間を惜しんだマリコは、ハンガーに掛かっていたリボンタイだけを手に取った。襟ではなく首に直接それを巻くと微妙に違和感があるが、それも変神するまでのことだと気にしないことにする。
「おっと、変神する前にっと」
変神ポーズを取りかけたマリコは、そう言って首のチョーカーに手を当てた。
「アイテムストレージ」
マリコの意思に従ってアイテムストレージウィンドウが開く。よっという掛け声と共に、マリコはそこからあるものを取り出して目の前に立てた。
マリコと同じ背丈に同じプロポーション、そして同じ顔。ただ、着ているメイド服がいつものマリコの物と細かいところで違っている。しかし、それは違いとしては瑣末なものだ。何よりそれには表情というものが無かった。マリコと同じ色彩のはずの瞳はピクリとも動かず、ガラス玉のようにただ正面に向けられているだけである。
等身大フィギュアにしか見えないそれに、マリコは手を伸ばした。両手で頬を挟み込むようにそっと触れ、そのまま自分の物と同じ感触の髪を梳くように指先をうなじへと滑らせる。そしてマリコはその両手をゆっくりと引き寄せた。同じ高さにあるマリコとそれの顔が近付いて行き、やがてその距離はゼロになる。
唇が重なった。
マリコの舌が相手の唇を割って侵入する。何か別の生き物のように蠢くそれはすぐに同族を探り当てた。粘膜同士が触れ合い、くちゅりという音がわずかに漏れる。絡み合うこと数秒。マリコと同じ顔をしたそれの瞳が揺れ、そこに意思の光が宿った。
その輝きを見て取ったマリコはそっと顔を離す。両者の間に細い細い銀の橋が伸び、それは一瞬の後に切れて消え去った。マリコは改めて相手の顔を見る。
もう一人の自分自身が見返していた。
◇
「おぬしがクエストへ出掛けている間にじゃ、いなくなっていることがバレてしもうては困るじゃろう?」
つい先日のことである。マリコを自分の部屋へと呼び出した女神は、開口一番こんなセリフを放った。白銀のしっぽをゆらゆらと揺らしながら何故か楽しげに言う女神に、マリコは何やら不穏な空気を感じ取る。だがセリフの内容自体は至極もっともだったので、マリコはとりあえず「そうですね」と返事をした。
「そうじゃろうそうじゃろう。そこでじゃ! こんな物を用意してみたのじゃ」
満足そうに頷いた女神は、そう言って部屋を区切る壁の方へと目を向ける。
「ドアを開けてこっちへ来るのじゃ!」
「ええっ!? 誰か居るんですか!?」
これまで、ここで女神以外の誰かに出会ったことはない。例外はマリコ自身が連れて来たミランダくらいのものである。しかし、マリコの驚きをよそに、壁にある扉がカチャリと開いた。そこから現れた者の姿を見て、マリコはさらに驚くことになった。差がないわけではないが、見た目はどう見てもマリコである。
「こ、これ、私、ですか!?」
「うむ。身代わり用半自律型有機アンドロイドじゃ。わし特製の大容量魔晶を内蔵しておっての。そこから供給される魔力で動いておる」
「アンドロイド!?」
女神がそう言う間に、そのマリコに似たアンドロイドはどこかぎこちない動きで女神の隣まで進んで来て止まった。それの腰の辺りをポンポン叩きながら女神は続ける。
「これを持っていくがよい」
「え、でもそれ……」
今の短い間だけで、マリコはそのアンドロイドに疑問を持った。姿形こそマリコそっくりではあるが、その動きといい表情といい、流石にマリコ自身とは違いすぎる。じっとしているのを遠目に見られるくらいなら誤魔化せるかもしれないが、身代わりというのは無理だろう。
「言いたい事は分かっておる。それを今から説明するのじゃ。まず、これは半自律型有機アンドロイドじゃ。今のままでも命じてやれば最低限の行動はできる。さっきのようにの。じゃがこれはパソコンで言えばOSだけがインストールされておるようなものでの。きちんと動くようにするにはデータなりアプリケーションなりを入れてやらねばならん」
「データ? それはもしかして……」
「うむ。おぬしの身代わりとなるのじゃから、おぬしと同じ様に動けねばならぬ。それにはおぬしのデータが必要じゃ。それも最新のものがの。それにの、身代わりがおるならもう一つ必要なデータができる」
「もう一つ必要なデータ?」
「そうじゃ。おぬし、自分がおらぬ間に何があったか知らぬままでは困るじゃろうが。身代わりがやった事はおぬしがやったことになるのじゃぞ? 必要なのは身代わりの経験データじゃ!」
「ああ、それは確かに無いと困ります」
自分がやったはずの事を覚えていない――実は知らないのだが――くらいならともかく、その後の予定や約束まで知らないままではいろいろと支障をきたすだろう。
「じゃろう? そうするとじゃ。その分はこやつからデータをもらわねばならぬことになろう?」
「そうですね」
答えながらマリコは思い出した。確か藤子・F・不二雄の漫画にそんな話があったはずである。おでこをくっつけて、身代わりのロボットから記憶をもらうのだ。
「おぬしが出掛ける時にデータを渡し、戻った時にこやつが得たデータを受け取るのじゃ。そうすることでおぬしのデータに漏れは無くなる。忘れるでないぞ」
「分かりました」
「では試しに一度、こやつにデータを渡して起動させてみい。データのやりとりは脳に近い顔面同士を接触させることでできるようになっておる」
(おお、そんなところまで同じですか。もしかすると女神様もあの漫画を読んだんでしょうか)
流石は現代日本出身の女神だなあと、マリコは妙なところに感心した。
「じゃあ、おでこをくっつけ合えばいいんですね?」
しかし、それを聞いた女神は怪訝そうな顔をする。
「何を言っておるのじゃ。表皮の接触程度の接続では転送速度がさして上がらぬではないか」
「それじゃあ、どうすればいいんですか」
「粘膜接続に決まっておろう。接吻じゃ、接吻。接触面積が大きい方がよいの」
「接吻って……、ええええ!?」
少々長くなってしまい書き切れませんでしたので、次回に続きます(汗)。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




