352 神の力 9
「他に何か気になることがあったかの?」
言いかけたものの何故か口ごもるマリコに女神は首を傾げる。
「先に、まず聞いておきたい事があるんですが」
「何じゃ?」
「とりあえず、今の『仕事』はこれで終わりですよね?」
「そうじゃな。ウィンドウを見てみるがよい」
言われてマリコは視野の端に出たままになっていたウィンドウに目を向ける。そこにはいつの間にか「クエスト完了」の文字が浮かび、報酬と確認のボタンが表示されていた。事が人命救助だったので報酬など気にしていなかったのだが、今回のそれは経験値で結構大きな数値である。
マリコが確認ボタンに触れると低いダラララッという効果音と共に経験値の数字が急速に減っていき、それがゼロになったところでチーンと鈴を鳴らすような音がしてウィンドウが消えた。それはゲームの時と同じ演出で、マリコは懐かしさについ笑みを浮かべる。しかし、聞くべき事を思い出して表情を改めた。
もしかすると薮蛇になるかもしれないが、マリコとしては聞いておかないわけにはいかない。顔を上げて女神に目を向ける。
「これ、『次』がありますよね?」
「ふむ。察しのよいことじゃの」
女神は満足そうに頷いた。こんなギミックを仕込んである以上、一度きりということはないだろうとはマリコも思っていたが案の定である。女神は今後もマリコに自分の代行をさせるつもりらしい。マリコはふうと一度息を吐いた後、次に聞くべきことを聞いた。
「それで『次』はいつ、どんなのが来るんですか」
「それは不明じゃ」
「は?」
「いや、どんなの、というところは決まっておるかの。どこかの誰ぞに生命の危機が訪れた時、じゃの」
「え、どこかの誰かって……」
生命の危機などと言うと滅多に無さそうにも思えるが、人数が多ければそれに応じて危機に陥る人の絶対数も増えることになる。さっき行ったのがアニマの国であったことから考えればおそらく全ての人、つまり約一千万人が対象ということなのだろう。
マリコの記憶によれば、日本全体では一日に二千人だか三千人だかが亡くなっていたはずである。それを人口比だけで置き換えるなら、この世界では毎日二、三百人ということになる。その中から老衰など避けられないものを除いたとしても、一体何人に生命の危機が訪れるのか。
「それで、いつ、という方じゃが、あらかじめ具体的にとはいかん。が、頻度としては週に一、二回のクエストとなるようにしてあるのじゃ」
「週に一、二回?」
「そうじゃ。何を驚いた顔をしておる。わしは別におぬしに全てを救えなどとは言わぬ。不可能な事を押し付けるような真似はせんと言うたじゃろうが」
確かにいくら瞬間的に移動できるとしても、毎日全ての現場へ行くなどどう考えても無理である。それを女神はシステム上で先に絞り込むと言っているのだった。
「おぬしにはの、小童らを助けてもらいたいのじゃ」
「小童……子供?」
「そうじゃ。大人であればある程度の危険を避ける知識も経験もあるじゃろう。あえて危地に踏み込むのも己の覚悟と責任でできよう。じゃが小童らにまでそれを求めるのは酷であろう?」
「それはまあ、そうですね」
「じゃからそういう、小童が死ぬような事態が起こると予測された時、おぬしにクエストが発生するよう設定しておる」
「それでさっきのも相手が子供だったんですか」
「そういうことじゃな。それで、どうじゃ? 『次』は無い方がよいかの?」
「……いいえ」
元々人の身を超える力を求めた代価としての「仕事」でもある。子供を助けろと言われて断る理由はマリコには無かった。
◇
「で、元の話に戻るんですけど……」
「ん? 今後のクエストの話はしたじゃろうが」
まだ何かあったかと、女神は不審げな顔をする。
「いえ、そのクエストに行くに当たって……ええとですね。女神様の話し方ってその、変じゃないですか」
「変とは何じゃ、変とは! いかにも神らしい、威厳ある口調じゃろうが!」
「すみません、言い間違えました。変じゃなくて、変わってるじゃないですか」
「同じじゃろうが!」
「ええと、とにかくですね。変神した時にはなるべく真似てるんですけど、その女神様の口調、難しいんですよ」
「ぬ……、まあそれは分からぬでもないがの」
一般的ではないということは自覚があるのか、女神はしぶしぶ頷いた。「のじゃ語」とでも呼べばいいのか、マリコには今ひとつ何が正しいのかはっきり分からない。
「それでですね。変神した時に口調も変わるようにってなりませんかね? ほら、前に何でも最後に『にゃ』が付いた時みたいに」
「ふむ。強制語尾添付システムかの。確かにあれをいじれば何とかなりそうな気はするの。よし、近いうちになんとかしてみるのじゃ」
「お願いします」
「……しかし、そんなに変かのう、これ」
「……」
マリコは返答を避けた。
いずれ、変神解除しても「のじゃ」だけ直らない神罰が……(笑)。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




