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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
35/502

035 厨房の攻防 2 ★

鶏を捌くシーンに入ります。そんなに生々しくはないと思いますが、苦手な方はご注意ください。

 ミランダは昨日タリアの部屋で会った時と同じ服装だった。メイド服はマリコの物とは違って全体が深緑色をしており、立て襟でネクタイやリボンの類は着けていない。膝丈のスカートの裾はパニエが入っているらしく少し広がっており、白いエプロンもスカート丈に合った膝上までの短めの物だ。足元は折り返した白い靴下にこげ茶色のローファーのような靴を履き、耳が出ているためだろう、頭には何も着けていなかった。


 そんな猫耳メイドさんが、引きつった顔をして、血の付いた出刃包丁を持って立っている。場所が厨房でなかったらちょっとしたホラーか猟奇物のワンシーンである。


「大丈夫ですか? 驚かせてしまったようですみません」


「い、いやっ。ふう、大丈夫だ。こちらこそ大声を上げてしまって申し訳ない」


 謝るマリコにミランダは息をついてそう答えると、ようやく包丁を下ろして調理台に置いた。台の上の大きなまな板には、捌きかけの鶏が乗っている。


「では、改めまして、マリコと申します。こちらでお世話になることになりました。よろしくお願いいたします。それと、昨日はその、いろいろとお世話になってしまいまして、ありがとうございます」


「おお、これはご丁寧に。既に承知置きかと思うが、私は名をミランダという。こちらこそよろしく頼む。昨日のことは気になさるな。聞けば、転移酔いで疲れていたそうではないか。私も何度か経験したが、あれは確かに堪える。眠り込んでしまうのもいたしかたないであろう」


(えっ!?)


 見た目の印象を裏切る、ミランダの時代がかった言葉遣いに、マリコは言葉を失った。


(ミランダさん、いつの時代の人なんだ。武士? さっきの「殿」も聞き違いじゃなかったのか。いやいや、こっちではそれが普通なのかもしれない。でも、他の人達は普通の話し方だったよな)


「ん? マリコ殿、どうなされた」


「え? あ、いえいえ、なんでもありません。それより、ええと……そう、今は昼の仕込みですよね。そもそも私はそのお手伝いに来たんでした。その鶏を捌くと聞いたんですが」


 あなたの言葉遣いに面食らって絶句したんです、と言うわけにもいかず、マリコは少々強引に話題を変えた。


「ああ、その通りなんだが、……もしやマリコ殿できるのか?」


「はい、多分。ただ、久しぶりなので思い出しながらになると思います。一度代わってもらっていいですか?」


(ミランダさん、上手下手じゃなくて単にやった事がない感じだな。この人もメイドさんというより武士か騎士かって雰囲気だしなあ。お茶を淹れるのは上手いんだから、一度見てもらえば後は早そうな気がするな)


「もちろんだとも。いや、助かった」


挿絵(By みてみん)


 ミランダは安堵の息をついて素直にマリコに場を明け渡した。代わったマリコはまず、ミランダが捌こうとしていた鶏の様子を見た。あちこちに包丁を入れられた鶏は、捌きかけというより、素人の殺人鬼に滅多刺しにされた惨殺死体のような有様だった。


(うわあ……。ええと、頭も付いているし内臓も入ったままなのか。元は締めて羽をむしっただけだったんだな。あー、この切れ目だと中身も切れちゃってるよなあ。これはちょっと面倒そうだな。こいつは後回しにして、とりあえずまともなのを一羽捌いて、ミランダさんにも手順を見てもらおう)


 マリコは目の前のそれを脇に寄せると、ミランダに説明しながら、捌いた部位ごとに分けて置くためのボウルを何個か並べた。次に、横で山になっている鶏を見た。全部トサカが大きいところを見ると雄鶏ばかりのようだ。マリコはその中の一羽の首をつかんで取ると、まな板に乗せてひっくり返しながら状態を見た。


(雄鶏ならモツの中の卵が無いから気にしなくて済むな。羽のむしり残しは……うん、無さそうだ。しかし、鶏捌くのなんか何年か振りなんだけど、案外忘れてないもんだな。締めて血抜きするところからじゃなかっただけマシだけど、この分だとそれもその内やることになりそうだなあ)


 先ほどミランダには「思い出しながら」と言ったものの、マリコは特に不安を感じていなかった。どこにどう包丁を入れればいいか、思っていた以上にちゃんと理解できているのが自分でも分かった。


「ミランダさん、鶏を捌くのも大体の順序があります。体の外側の部分から順に、骨や筋がどこに繋がっているかを考えて、繋ぎ目のところを切っていくのが基本なんです」


「ふむ、関節や腱が弱点ということなのだな。剣と同じか」


(やっぱり物言いが武士っぽいなあ)


「そういうことです。では、説明しながら進めますから見ていてくださいね」


「分かった」


「まずはモモ肉、つまり脚を取ります。丸焼きにする時などは内臓を先に抜く必要がありますけど、今日は全部ばらしますから、外から順に切っていく方が多分楽だと思います。で、脚ですが、お腹側の脚の付け根……ここですね。ここに包丁を入れて……」


 ミランダに手元を見せて説明しながら、マリコは先ほどミランダが置いた小振りの出刃包丁を手に取った。そして、鶏に向き直って包丁を構えた瞬間、マリコは自分の中で何かのスイッチがカチリと音を立てて入ったような感覚を覚えた。


 マリコの「調理スキル」が発動した。

次回、マリコが無双します(予定)。……相手は締めた鶏ですが。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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