342 探検隊、東へ? 4
「……では、この予定で行ってきます」
「ああ、頼んだよ。無理しない程度でね」
打ち合わせが終わる。準備が整い次第、バルトの組は東へ向かうこととなった。このところ起こっている変化の原因を探るため、いつもより奥地まで足を伸ばすつもりである。当然ながら遠くまで行く分、出掛けている期間は長くなる。普段の見回りなら一週間ほどで戻るのだが、今回は十日前後の予定ということになった。
もちろんこれは、普段の見回りに加えて奥地の調査を行う、ということではない。それをやろうとすればいつもの倍以上時間が掛かるだろう。既知の範囲は通過して、主に隣の山を調べてくることになっている。
「マリコ」
ここまで黙って話を聞いていたマリコがさて自分はと考えていると、その考えを読んだかのようにタリアに名を呼ばれた。顔を上げてタリアを見る。
「ああ、何を考えてるのかは大体分かるんだがね。とりあえず、先にこの男の話を聞いておやり」
そう言って、タリアはソファの端に座るエイブラムを示した。これまで特に発言することなく座っていたので誰も何も言わなかったが、探検の打ち合わせの場に居ることは珍しい人物である。マリコがそちらを向くとエイブラムは軽く頭を下げた後、手にしていた折り畳まれた紙を示した。手紙のようである。
「これはつい先ほど、中央から届いた物です」
その言葉でマリコはようやくエイブラムがこの場にいた理由が分かった。パットが運んできた物の中にこれがあったから、タリアはエイブラムを呼んだのだろう。だが、それだけではどうしてエイブラムがここに残っているのかが分からない。それは次の話でやっと分かった。
「基本的には私を含めたこちらの支部への連絡事項なのですが、その中にマリコ様に関係する部分がありまして。修復を要する者についてです。それで……」
続いてエイブラムは書かれていた事を説明してくれた。ここしばらくの間にナザールの里でマリコに修復を受けた者がそれぞれ帰って行ったことで、マリコの存在や腕前についての話が広まりつつあるという。その結果、修復を受けるならマリコにと望む者が増えているのだそうだ。
「どうしてそんなことに……」
「マリコ様は今のところ一度も修復の発動に失敗しておられません。その上、命と太陽の女神様の加護をお受けです。それらが大きな理由かと」
修復に限ったことではなく、ほとんどの魔法は失敗する可能性がある。大抵の場合、成功率はそのスキルのレベルに連動しており、スキルレベルが高いほど成功率も高い。修復もその一つで、スキルレベル一ではむしろ失敗する率の方が高くなる。失敗しても再チャレンジはできるので致命的というわけではないが、一度に使う魔力量が多い修復を日に何度も使える者は少ない。失敗されるとまた待たねばならないこともあるのだ。
しかし、マリコの修復のスキルレベルは最高の二十である。他の魔法系スキルの高さもあって、最早滅多に失敗することはない。いわゆる最大魔力量も高いので連発も可能である。マリコのところまで来られれば、それはもう成功を約束されたのと同じことになる。その上、これまた滅多に居ない命と太陽の女神の加護持ちとくれば、会ったというだけで話の種になる。希望者が多くなるのも無理はなかった。
「流石に希望者全員をここに向かわせるのは無茶ですので、中央で絞り込みはしているようです。それでも日に二、三人、多ければ四、五人がこちらに来るだろうとのことです」
「そんなにですか」
全人口の推定が一千万人ともなれば、大怪我をする人も日に五人や十人では済まないだろうとはマリコにも思える。自動車は無いので交通事故の類は少ないだろうが、現代日本よりはずっと自然の危険に遭遇する可能性は高いだろう。それこそ探検者などは怪我どころか生命の危機と隣り合わせである。
「……とまあ、そんな話が舞い込んできたもんでね。あんたたちには知らせておこうと思ったんだよ」
エイブラムの話が一区切りついたところでタリアはそう言った。マリコは一同の顔を見渡して考える。
(皆さんが心配なのは確かですけど、修復が毎日二、三人ですか)
今回バルトたちに同行すると十日ほど留守にすることになる。その場合、三、四十人を待たせることになってしまう。それはマリコとしても流石に気が引ける。一方、バルトたちはというと、未知の領域に出掛けるとはいえ、戦力的には余程の相手がでなければ問題ないはずなのだ。修復までは無理だが治癒の使い手も居る。
そう考えて自分を納得させようとしたマリコだったが、それでも心配なものは心配である。ボスを含む灰色オオカミの群れと戦って倒れたバルトたちの姿が脳裏に甦る。マリコは隣に座るミランダを見た。ミランダが彼らについていくのであれば、少なくともメッセージという連絡手段ができるのだ。
しかし、マリコに目を向けられたミランダは首を横に振った。
「戦力にならぬとまでは思わぬが、今の私ではまだバルト殿たちの足を引っ張りかねぬ。遠慮しておく方がよさそうだ」
「え」
前回の様子から、ミランダは付いていきたがるだろうとマリコは思っていた。しかし、まるであらかじめセリフを用意してあったかのようにはっきりと言うミランダに、マリコは驚いた。しかし、だからといって行くように勧める話でもない。ミランダの判断は間違ってはいないのだ。
いずれにせよ、今回自分がついていくのは難しそうだ。であれば、とマリコは考える。
(せめて連絡方法だけでも何とかなりませんかね……)
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