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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
338/502

334 東の山へ 3

「どうなされた?」


 何かを思い付いたような顔をして動きを止めたマリコに対して、ミランダは当然の疑問を口にする。


「ええと、ちょっと待っててくださいね」


(こういう機会でもないとそのままになってしまいそうですし、ミランダさんなら今さらそこまで驚かないでしょう)


 首を傾げるミランダの前で、マリコは首のチョーカーに触れた。今は可視モードになっていないようで見えないが、メニューを開いたのだということはミランダにも分かる。マリコはそれをいくつか操作した後、ミランダに顔を向けた。


「少しだけ下がっていてください」


「ん? ああ」


 ミランダが数歩下がるとマリコは指を一振りした。


「おっ」


「おおっ!?」


 小さく驚きの声を漏らすマリコの隣で、ミランダはさらに大きな声を上げて飛び退(すさ)り、反射的に刀の柄へと手を掛ける。いきなり目の前に大きな動物が出現したのである。ミランダの反応も無理はない。


 現れたのは茶色い毛並みの馬だった。がっしりした体格で、長い顔がミランダの顔とほぼ同じ高さにある。その穏やかな目を見たミランダはふうと息を吐いて肩の力を抜き、刀から手を離した。


「これは、マリコ殿の馬?」


「ええ、ヤシマといいます」


 ぶふうと鼻から息を吹きながら顔を寄せてくるヤシマの鼻面を撫でてやりながらマリコは答えた。何かやりたいところだが、今は馬用のおやつの用意がない。今度準備しておこうと思いながら、マリコは改めてヤシマを見た。


 メニュー画面のアイコン内では裸馬だったはずのヤシマに、何故か今は手綱も鞍も装着されている。不思議ではあるが都合はいい。マリコは「これが召喚術か、初めて見た」などとつぶやいているミランダを振り返った。


「ヤシマに乗せてもらって、もう少し先まで行ってみようと思います」


 ミランダの返事を待たず、マリコは鞍をつかんで(あぶみ)に足を掛けるとえいっとヤシマに(またが)った。流石に現実で馬に乗った事などなかったが、これも身体が覚えているらしく、特に困ることも悩むこともない。バサリと鞍を覆うように広がったスカートをおしりの下に敷き込んだ後、ミランダに手を伸ばした。


「ミランダさん、馬に乗った経験は?」


「一応ある」


 マリコの手を取ったミランダはそのまま支えていてくれと断ると、マリコの手を引くと同時に地面を蹴った。軽く馬の背中を越える高さまで飛び上がったミランダは、マリコの肩に手を置いてふわりと大した衝撃も無く鞍の上、マリコの後ろに着地する。


「おお、流石ですね」


 マリコが感嘆の声を上げた。やはりこういう軽業的なことはミランダの方が得意なようである。


 ミランダがマリコの腰に手を回すのを待って、マリコはヤシマの腹を軽く蹴った。ヤシマがぽこぽこと歩き始める。この時点でマリコたちが普通に歩くよりはかなり速い。いつもバルトたちが通っているため、路面の状態は馬が走るのにも不都合は無い。


 マリコがさらに腹を蹴るとヤシマは速度を上げた。重い方ではないとは言え、二人が乗っているのでどうだろうとマリコは思ったものの、ヤシマは特に苦もなく坂道を駆け登っていく。


「ぬっ!?」


 ヤシマの背中は上下の揺れが大きくなり、(あぶみ)が無く踏ん張りの効かないミランダは振り落とされまいとマリコの胴を抱えた腕にぎゅっと力を込めた。


(おお、背中に当たる感触が……。ちゃんと分かるものなんですねえ)


 少々失礼な感想を抱きつつ、マリコは手綱を取り続けた。木の密度の高いところ、まばらなところ。道が真っ直ぐ続いているところ、岩を避けて曲がっているところ。山の中と一言で済ませたのでは分からない様々な景色が、現れては置き去られていった。


 ◇


「これは、何と言えばいいんでしょうか」


「……山だな」


 山の頂に到着して、その先に見えたものは次の山だった。高さは今マリコたちが居る、放牧場の斜面から上がってきた山より少し高い程度だが、右も左も見渡す限り緑に覆われた山ばかりである。しかも、その山へ向かうには、今登ってきた山をそちらに向かって一旦降りねばならない。当面、里を東側に広げるのは無謀だなと思わせてくれる光景だった。


 まだまだへばる様子はないものの全身を汗で濡らしたヤシマは、桶に顔を突っ込んでマリコが出した水をガブガブ飲んでいる。マリコとミランダは、その脇に並んで先の景色を眺めているのだった。足元に目を向ければ、これもバルトの(パーティー)が付けたのであろう下りの道が続いている。


「これをしばらく下っていけば洞窟があるということだが……」


「流石に今日は無理ですねえ」


 マリコとしてはその東一号洞窟にも興味は引かれる。しかし、ヤシマのおかげでここまで来られたとは言え、さらに先に進むには時間が無さ過ぎた。帰路に掛かる時間も見ておかねばならない。一休みした後で戻ることにした二人は、再び前に広がる山地に目を向けた。


「本来なら、灰色オオカミ(グレイウルフ)はあの山に居るのだそうだな」


「そうですね」


 それがこのところ何故かこちらの山にまでやってきている。幸い、頂上に登ってくるまでに他の灰色オオカミ(グレイウルフ)に出会うことは無かった。自分の足で歩いた場合よりは精度が落ちるだろうが、気配を感じることもなかったと思える。


「もし何かに追われてこっちに来ているんだとしたら……」


「何が居るのであろうな。……いずれにせよ、行って見てみぬ事には分からぬであろうな」


「そうですねえ……」


 木々に覆われた山は、その木の下に何が居るのかここからでは見えない。その上を鳥のような影が飛んでいるらしいのは見えるが、距離がありすぎて小さな点にしか見えなかった。それさえも今の身体能力が無ければ見えたかどうか。


「……タリア様はすごい方なのだな」


「何ですか、唐突に」


「あの中へ分け入って転移門を見つけられたのだぞ。自分にできるとは到底思えぬ」


「ああ」


 いきなりタリアが出てきたので何事かと思ったが、門の探検者(ゲートファインダー)としてのことのようだ。神々の加護があったからだとタリアからは聞いているが、それでも大変ではあっただろうなとマリコにも思える。門を見つけるところまでは行っていないものの、それはバルトたちとてそうは変わらない。


「自分にできるか、ですか」


 ミランダの言葉を繰り返す。未踏の地に分け入ることが自分にできるのだろうか。マリコは改めて思った。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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