329 帰還とあれこれ 3
2018/05/24 サブタイトルを変更しました。内容は変わっておりません。
「あの岩と岩の隙間に正確に剣を……」
「ですが振りの精度の問題が……」
「付与系の魔法を覚えるのに必要な……」
「ええと、それは確かねえ……」
バルトとアドレー、二組のメンバーはそれぞれいくつかに分かれ、各々の相手と身振り手振りを加えて意見を交換し合っていた。話題は先日戦った岩の魔物への対処法である。東と西、両方の洞窟に同じ種類の魔物が出ると分かった以上、情報や対策を共有しない理由はなかった。
もっとも、バルト組の方は初見でこそ梃子摺って怪我人を出したものの、次回以降はもっと余裕を持って当たれると考えている。アドレーたちに同行して再び岩の魔物に対した結果、今の自分たちの能力で十分対処可能だと確認できたからである。
一方のアドレー組はそうはいかなかった。先の一戦はマリコの魔法による支援を得て無事に勝てたものの、自分たちだけだと負けぬまでも不安は残る。となれば、得意分野を伸ばすなり、不得意な部分を埋めるなりして力の底上げを図るしかない。今話し合われているのはそういったことである。
「今日はもう、ほとんどこの話だけで終わりそうですねえ」
木刀を下げたマリコは、熱の入った議論になりつつあるアドレーたちから隣に立つミランダへと顔を向けた。マリコたち二人を含めた一行は宿の建物と周りを囲む壁の間、つまり運動場にいる。最早マリコにとっても習慣になってきた、朝練の途中なのである。
「まあ、致し方なかろう。あれはまともに話し合うのは無理であったからな」
「ですねえ」
ミランダの言葉にマリコは昨夜の食堂の様子を思い出した。ちょっとしたお祭り騒ぎだったのである。
サニアの話によるとマリコたちが出掛けていた間、夜の食堂はもっと静かだったのだそうだ。可能性は低いだろうというタリアの予測こそあったものの、岩の魔物などという見たこともないものが来るかもしれないという警戒態勢の下、それはある意味当然と言えた。
しかし、その不安がアドレーたちの帰還と魔物退治の報によって晴らされたのである。元々探検者が戻った時には土産話を聞きたがる者が多いところに加えて格好の話題があるとなれば、盛り上がらないはずがなかった。簡単に言ってしまえば、存分に騒いで飲んで喰って寝た、というところである。
一夜明け、再び顔を合わせた一行が昨夜できなかった話を始めるのも無理からぬことであろう。実際には話だけでなく、型を見せたり付与を使って見せたりもしているので、鍛錬としても間違っているわけではない。いつもの全般的な強化練習ではなく、具体的な相手を想定するとこうなるのかと、一同を見渡してマリコは頷いた。
もちろん、マリコとミランダも放置されているわけではない。剣技や魔法の練習方法など、聞かれては答え、またやって見せる。
「私も……、ふむ」
朝練が終わる頃、ミランダはミランダで何か思うところがあったようで、何やら考えている様子だった。
◇
朝食の後、バルトとアドレーたちは一緒に出掛けて行った。転移門を使って大きな街まで行き、武器の整備やナザールの里では足りない物を補ってくるのである。今回は武器に加えて先日傷ついた防具類のこともある。ブランディーヌたちが連れて来た人たちによって一応の修理はできているが、場合によっては新調も考えると言っていた。それもあって、アドレーたちはバルトらと行動をともにするようである。
「あ、そうだ。マリコさん、ミランダも」
カウンターから一行を見送ったところで、サニアから声が掛かった。
「なんでしょう?」
「はい、これ」
そう言って二人にそれぞれ小さな布袋が手渡される。中からチャリッと金属の擦れる音がした。お金のようである。ミランダは「かたじけない」とか言いながら自然に受け取っている。なんだか前にも同じことがあった気がするなと思ったマリコは、前と同じ様に聞いた。
「ええと、これは?」
「ああ、マリコさんは初めてになるのよね。お給金よ」
「え? ああ!」
「本当なら昨日か一昨日渡すところだったんだけど、出掛けてたでしょう? 早いものねえ、一月なんて」
そう言えばそうだったと、マリコはようやく思い出した。住み込みとは言え仕事としてやっている以上、給料がもらえる話になっていたのである。
「十三G五十Sあるはずだから、確認してね」
「はい」
袋から出して数えると、確かに金貨が十三枚と大銀貨が五枚あった。宿で扱う物の値段から判断したマリコの感覚だと、大銀貨一枚が千円くらいである。十三G五十Sは日本円なら約十三万五千円ということになる。
「確かに。ありがとうございます」
(おおお)
礼を言ったマリコは給料というところに感激が込み上げてくるの感じ、同時にその感覚があったことにどこかホッとした。
(おかしくなってるんじゃないかって気がしてたんですよね)
元は「マリコ」の所持金であり、現在は女神によって大部分封印されているとはいえ、ストレージ内には百万単位の金貨がある。そこまでの金額ではないが、昨日も五人に修復を施したことで、規定金額五人分金貨五十枚も受け取った。
それらのお金は大金ではあるものの、どこか自分の物ではないような気がして実感に乏しかったのである。しかし、今日のこれは確かに自分のお金だという感覚があった。
(仕事したっていう記憶が伴っているからですかね。……それとも単に私が小市民なだけなんでしょうか)
袋を手に表情をコロコロ変えるマリコを、サニアは面白そうに、ミランダは不思議そうに見ていた。
作品内でようやく一カ月ちょっと経ったという(汗)。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




