327 帰還とあれこれ 1
2018/05/24 サブタイトルを変更しました。内容は変わっておりません。
「あー、やあっと見えたあ。おーい!」
「おーい」
熱意に若干温度差があるものの、ミカエラとサンドラが声を上げて大きく手を振った。林のはずれまで来てようやく視界が開け、ナザールの里の西門が見えたのだ。門から繋がる壁の上にはマリコたちが出発した時と同じ様に見張りの男が立っている。
まだ豆粒くらいの大きさにしか見えないが、それでも一行に気が付いたらしく、こちらに向かって手を振り返した。それから壁の向こう側に身体を向けて何か怒鳴った後、壁から下りたようで姿が見えなくなる。程なく門の扉が開かれ、一行はそちらへ向かって歩き続けた。
◇
「おかえり。よく無事に戻ったね」
宿に着くとタリアが出迎えてくれた。時刻は昼食時を大分過ぎた頃で、本来ならあまり人がいなくなる時間帯である。しかし、食堂には結構な人数がいた。マリコたちの帰還に気付いた見張りの男が近くの畑で作業していた者に先触れを頼んだのだそうで、それを聞いた里の皆が集まってきているのである。
食堂にはタリアの他にサニアやエイブラム、ブランディーヌの姿もあった。主だったところは大体揃っているようである。マリコたちが食堂に入ったところで、近付いてきたサニアが口を開いた。
「おかえりなさい。一応入れるようにはなってるけど、どうする? お風呂」
「あー、今日は話が終わってからにするわ。ミカちゃん、サンちゃん、先に行っとく?」
「あたしも後で、って言おうかとも思ったんだけど……」
「人数が多い。多分ボクたちまで要らない。行っとく」
いつもなら何を置いても風呂という三人だが、今回はマリコ持参の湯船のおかげで昨夜もお湯に浸かっており、そこまで飢えていなかった。しかし、十二人の大所帯での報告となると全員居ても同じ話が繰り返されることになりそうだ。ミカエラとサンドラはいつも通り風呂を優先することにした。
「おかえりなさいませ。マリコ様、ミランダ様」
「おかえりなさい」
マリコとミランダのところにはエイブラムとブランディーヌがやってくる。ただいまを言う二人に「早速で申し訳ないのですが」とエイブラムが切り出した。
「マリコ様、今魔力に余裕はおありですか」
「魔力、ですか」
昨夜こそ炊事や風呂でいくらか使ったものの、今日はほとんど魔法を使う場面はなかった。マリコが大丈夫だと答えると、エイブラムは報告が終わってからで構いませんのでと前置きした上で言う。
「修復を望まれる方が五名、来られております」
「五人もですか」
「はい、昨日二名、今朝三名こちらに到着されました」
いずれも即座に命に関わるような場所ではなく、傷自体は治癒で癒えているのだそうだ。マリコとしては断る理由もない。
「分かりました」
「ありがとうございます。ブランディーヌ君」
「はい、伝えてきますー」
今五人はそれぞれ部屋で待機しているそうで、立ち上がったブランディーヌは後で呼びに行くからということを知らせに向かった。
「それじゃ、始めようかね」
一通り急ぎの連絡が終わると、タリアはマリコやバルトたちを呼び集めた。
◇
「じゃあ、西側の警戒は解除ってことにするかね」
西二号洞窟の現状や岩の魔物が東一号洞窟のものと同じ種類らしいこと。魔物は洞窟から出ておらず、一応退治されたこと。次に出た場合、アドレーたちの組だけでも討伐は可能であろうということ、といった報告を受けてタリアはそう言った。岩の魔物に関する問題はとりあえず解決ということになる。
「さて、それじゃ次にあんたたちがいない間の出来事についてさね」
いつもならこれで探検者との話は終わるところである。だが、タリアはバルトたちを解散させずに話を続けた。修復の希望者が五人来たとか、神格研究会の工事の進み具合といった、正に連絡事項のようなことをいくつか話した後、本題らしきことを口にする。
「放牧場の東に、また灰色オオカミが出たんだよ」
「「えっ」」
奇しくもバルトとマリコの声が重なり、思わず顔を見合わせる。バルトたちは西に向かう前にそちら側も見てきたはずだった。しかし人数が限られている以上、しらみ潰しにとまではいかないのは仕方がない。どうしたってすれ違いや漏れが出る可能性はある、ということであろう。
発見したのはカミルだそうで、見掛けたのは普通サイズのものが一頭のみ。放牧場の柵のすぐ外まで来ていたらしい。さすがに一頭だけでは柵を壊したり飛び越えたりということはできなかったようで、カミルの連絡で集まった面々が柵に近付くと山手の方へ下がって行ったのだという。
「聞いた感じだとはぐれのようですね。また見回りに出ますよ。ですが今回はさすがに一度点検に……」
タリアの言を受けてバルトが返す。前回の見回りの後、引き続いて西に向かったのだ。マリコにもらった武器が丈夫とは言え、岩の魔物に何度も斬りつけている以上そろそろ一度、まともに点検してもらう必要がある。盾や革鎧も同様だった。
「ああ、だから今すぐ行けとは言わないさね。東側の見張りを厚くすることにするから、なるべく早めに戻ってやっておくれ」
「分かりました」
返事をするバルトを見ながら、マリコはふと自分のすべきことを一つ思い出した。
(点検と言えば、女神様の部屋も見に行かないといけませんね)
洞窟に出掛けていたせいで二晩訪れていない。最近の様子だとそこまでひどいことになっているとは思えないが、一応神託絡みの事でもある。放っておく気にはならなかった。
この後、手に入れてきた物を精算して待っている五人に修復を施し、自分の荷物や道具を片付けて宿の仕事に復帰である。
(まあ、今夜ですねえ)
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