324 西二号洞窟 8
「服を脱げ」
「「え!?」」
「全部だ。急げ」
「「は!?」」
靴を脱げと言うのと変わらない口調でごく普通に放たれたバルトの言葉に、アドレーとエゴンはどこか間の抜けた返事をした。
二組に分かれた男性陣の内、バルトたち三人は奥側、つまり岩の魔物がいた方の通路に出てきていた。二人を先導するように足早に歩いてきたバルトが、通路に出るなり振り返って発したのが「服を脱げ」である。正直、アドレーたちには訳が分からなかった。
「あー、すまん。説明する」
気が急いていたと頭を下げたバルトは、二人にスライム狩りの手順を説明し始めた。反対側の通路でも今頃似たようなことが行われているはずである。
◇
「えっ!?」
マリコは目を丸くする。
呼びに言ったミカエラとサンドラに連れられて、それぞれの方向から男たちが広場へと戻って来た。それについてはまあ、今さら文句を言っても仕方がないし、言うつもりもない。だが、彼らの姿が予想外だったのだ。マリコはてっきり、元の探検者装備のまま戻って来るものだと思っていた。
しかし、男たちは武器こそ手にしているものの、革鎧は着けていなかった。全員が裸である。否、上半身裸で水着のような短パン姿になっていた。短パンと言っても裾はほとんど無く、シルエットとしてはむしろブリーフに近い。猫耳組はしっぽを出す関係かさらに股上が浅く、ほとんどブーメランパンツである。
堂々と歩いて来るミカエラたちに比べて、男たちの方がどこか恥ずかしげである。バルトとトルステンは普段通りだが、猫耳組で胸を張っているのはアドレーだけだった。さすがに全員探検者だけのことはあり、貧弱な身体つきの者はいない。それが武器だけを装備して歩いている。もしブランディーヌがここにいたら狂喜乱舞したであろう。
「男なんだから裸でもいいじゃないって言ったら、トーさんとバルトにすごい勢いで反対されたのよ」
隣に立つカリーネが恐ろしい事を口にする。それで急遽男性用水着を仕入れようとしたのだそうだ。だが、海が近くに無いナザールの里では普段水着など置いていなかった。なら下着でという意見も却下され、服屋のケーラに頼んで普通のズボンの裾を切って直してもらったのだそうだ。
確かにさっき聞いた通りのスライムの狩り方を教えるというなら、服を着たままでは困るだろう。溶かされるのでは試しにやってみることもできない。しかし、どうしてバルトやトルステンまで脱いでいるのか。マリコはそれをカリーネに聞いてみた。
「不公平じゃない」
返ってきた答えは簡潔だった。それにね、とカリーネは続ける。
「もしマリコさんがその格好でバルトだけ服を着てたら、耐えられる?」
「え、それは、その」
「難しくない?」
それにはマリコも頷くしかなかった。普通の格好の相手の前で自分だけ水着。そうなっていたら、恥ずかしさは倍増どころではないだろう。
「それで、どう?」
「どうって何がですか」
「もちろんバルトが、よ。ご感想は?」
「感想と言われましても……」
今さら男の裸を見てどうこうなるものでもないと、マリコは改めて男たちに目を向ける。鍛えられたいい身体をしてるなとは思うがそれだけである。次にバルトに注目する。今のバルトは上半身裸の上に大剣だけを背負っており、どこのバーバリアンかという風情だった。
しかし、どうということはないと思いたいマリコの意に反して、何故か鼓動が早くなっていくのを自覚する。
(だから、どうしてこの人だけ……)
相変わらずのよく分からない感覚に戸惑っていると、そのバーバリアンはそのままどんどんとマリコの方に向かって歩いて来る。何故と思う間もなく、気が付くと目の前に立っていた。
「マリコ、さん」
「は、はい」
「きっ、綺麗だ。よく似合っている」
「ひゃえ!?」
バーバリアンとは思えぬ、あるいはバーバリアンならではの直球が投げ込まれ、どこから出たのかよく分からない変な声が出る。助けを求めるように左右を見回すといつの間にかカリーネは消えており、反対側に立つミランダの前にはアドレーがやってきていて、いつものように、いやいつも以上にミランダを褒めちぎっていた。
ミランダはと言えば、こちらもいつものように言い返してはいるものの、賞賛に対してはまんざらでもなさそうに見える。しっぽが上機嫌そうに動いているのがその証拠だ。それを見てマリコはやや落ち着きを取り戻す。
バルトの方に目を戻すと、向こうも同じ様にテンパっているのが見て取れた。ただ、その表情から嘘や口から出まかせで言ったのではないということも分かって、それはそれで何とも言えない感情を呼び起こす。
腕を上げて身体を隠したい衝動にも駆られるが、それをするとかえってそこに目を向けさせることになるのは己の経験的に知っている。お腹の前で握り合わせていた両手をさらにぎゅっと握ると、下へ向けて腕を伸ばした。そういうポーズを取ると、両腕の間で胸がむにむにと形を変えるのが目の前の相手によく見えるのだが、さすがにそこまで気が回っていない。
何と応えるべきかと考えながら、肘を曲げて両手を胸の前に持ってくる。バルトが唾を飲み下す音が聞こえたような気がした。
「あ、ありがとうございます。バ、バルトさんも……」
「はーい、皆揃ったところで始めるわよ!」
狙ったのかとさえ思えるタイミングで放たれたカリーネの声がマリコとバルトを現実に引き戻す。
(私は何を口走るつもりだった!?)
池の前に集まる皆に続きながら、マリコは内心頭を抱えた。
また仕事の都合等により、申し訳ありませんが次回(4/26)の更新はお休みとさせていただきます。
代わりというのもあれですが、こちらはほぼできましたので『異世界チートスライム』をその日に更新する予定です。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




