323 西二号洞窟 7
「さ、準備するから男共は出た出た。通路の見張りもよろしくね」
スライム池のある広場まで戻り、異常がないか一通り確認したところでカリーネが一同に言い渡した。今からアドレーたちへの伝授を兼ねたスライム狩りが始まるのである。
「なあ、本当にやるのか?」
微妙に眉根を寄せたバルトがカリーネに近付いて囁いた。
「今さら何言ってるのよ。まあ、バルトはもう狩り方を知ってるんだから? ずっと通路を見張ってるんでもいいわよ」
「ぐ、そんなことができるか」
「じゃあ、さっさといってらっしゃい。呼ぶまで戻ってきちゃダメよ」
「当たり前だ!」
痛いところを突かれたバルトは、何かを振り切るように勢いよく身を翻すとトルステンたちの方へと歩いて行く。
「うちのトーさんほど鷹揚でいられないのは分かるけどねー」
その背中に向かってクスリと笑うと、カリーネも女性陣の方へと戻った。じきに男性陣は二組に分かれて、広場の奥側の通路と出口側の通路にそれぞれ消えていく。それを見届けてから、カリーネはマリコたちの方へと視線を戻した。
「それじゃあ、今からスライムの狩り方を説明します」
◇
「じ、じゃあ今まで皆さんは素っ裸でスライムを……」
「うん」
「まあ、誰かが見てるわけじゃなかったし」
スライム狩りの手順を聞き終えたマリコが思わずこぼした言葉に、サンドラとミカエラがあっさり答える。スライムの体液がいろんな物を溶かすという話はマリコも聞いて知っていた。しかし、まさかそんな方法で対処していたとは。確かに着ていない服は溶かされることもないだろうがと、呆れながらもそう思ったところでマリコは気が付いた。
「でもそれ、今日はどうするつもりなんですか!? アドレーさんたちに教えるって……」
マリコとミランダも一緒にやることになっているのだ。みんなで脱げば怖くないなどと言われたらどうしようかと、マリコは顔を引きつらせる。今の身体に随分慣れたとは言え、人に見られるのはまた別である。そもそも「マリコ」の裸体をおいそれと男の目に晒したくなどない。そんなマリコの肩をカリーネがポンと叩いた。
「そこでマリコさんよ」
「え? まさか私だけ脱げと!?」
「……何を言っているのよ」
反射的にトンチンカンなことを言うマリコにカリーネはふうとため息を吐いた。
「違うわよ。出発する前に頼んでおいた物。持ってきてくれたんでしょう?」
「え、は、はい」
「出してもらえるかしら。あなたたちの人数、四人分ね」
「ええと、はい」
マリコは、カリーネに頼まれた後でアイテムボックスに移しておいたそれをまとめて取り出した。四人分をひとつかみで取り出せる程度の、一見紐のようにさえ見える物。それは以前マリコがカリーネたちにメイド服との選択を迫った、わずかな面積でメイド服と同等の防御力を誇るトンデモ装備。かのアーマービキニである。
その防御力故にメイド服の代わりになり得るということでカリーネに頼まれて持って来たこれが、何故今必要なのか。つかみ出した瞬間、さすがにマリコもそれを理解した。
「ああ、これを着けてスライムを狩ろうってことですか」
「そうよ。何だと思ってたの」
「いえ、別に」
全裸狩りを妄想して戦慄いてましたなどと言えるはずもなく、マリコは言葉を濁した。
「ほら、前に私の分だけもらってたじゃない? あれをこないだのうちの狩りの時に使ってみたのよ。そうしたら、さすがにスライムもミスリルやオリハルコンは溶かせないらしくてね……」
(みんなで脱げば怖くないじゃなくて本当によかった)
こうなった経緯や今回の予定を説明してくれるカリーネの声を遠くに聞きながら、マリコは心底安堵していた。
「……ということで皆、着替えるわよ」
「「はーい」」
「承知」
ミカエラ、サンドラ、ミランダの三人がそれぞれアーマービキニを受け取り、カリーネは持っていたものを取り出す。それぞれが着ている物を脱ぎ始めるのに混じって、マリコもエプロンのリボンを解いた。
◇
しばらくの後、スライム池の傍にはアーマービキニに着替えた五人の姿があった。マリコが持っていたアーマービキニは全て同じ設計図から作られているため、デザインは皆同じである。だが、だからこそ色については各色取り揃えられていた。皆それぞれの髪の色に合わせた物を身に着けている。もっともさすがに虎縞は無かったので、ミランダだけは現在その髪が近付きつつある銀にちなんで白である。
(あれ?)
ここでやっとマリコは、素っ裸ではないということに安堵してスルーしてしまっていたことに気が付いた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「どうしたのマリコさん。準備できたのなら、皆を呼び戻すけど」
「ああっ、やっぱり」
(裸じゃない、確かに裸ではないけど……)
バルトたちにビキニ姿を晒してスライム狩りである。マリコは唸った。その様子を見てミランダが首をかしげる。
「何を唸っておられる。これは本来水辺で身に着ける、つまり人目に晒すのが前提の服であろう? ならば気後れする必要などないではないか」
そう言って胸を張った。そう言われてしまうとマリコとしても返す言葉がない。黙っているマリコを見返して、さらにミランダは口を尖らせる。
「むしろ、比べられるのではと気後れするのはこちらの方であろう」
己の胸元に向けられたミランダの視線に、マリコはますます黙るしかなかった。
変則水着回(笑)。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。
お知らせ:ちょっとした手違いから別作品の連載を始めることになりました(汗)。まだ一話しかない上に更新も不定期となりますが、よろしければご覧くださいますよう。今のエピソードに絡めたわけではありませんが、スライム物です。




