表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
318/502

314 探検隊、西へ 8

 風呂場は広場の端、下り坂側に建てられていた。マリコは湯船を囲っているはずの石の壁(ストーンウォール)に近付くと、どんな物なのかとまずはその周囲を一回りし始める。茶色かがった灰色の石壁の高さは二メートル少々、幅は三、四メートルほどだろうか、思っていたより大きい。縦の辺と横の辺が当たる角には隙間どころか継ぎ目さえ見えなかった。


「目隠しとかいうレベルじゃありませんね、これ。……ん? こっちは何でしょう?」


 マリコは風呂場の囲いのすぐ横に、もう一つ石の壁(ストーンウォール)の囲いを見つけた。壁の高さは風呂場と同じくらいだが、こちらは縦横も約二メートルと小さい。その四辺の内の一つは幅が半分しかなく、空いている部分にはそこを遮るように大きな布が掛けられていた。中からは灯り(ライト)の光が漏れている。


「誰かいるんですか?」


 一応声を掛けてみたが、返事が無かったのでマリコはそっと布をめくって中を見た。屋根の無い壁の内側は一坪ほどの広さがあり、奥には木の桶をひっくり返したような物が置かれ、その脇にはスコップが刺さった土の小山がある。桶の上に載っている木の輪っかにマリコは見覚えがあった。


「あ、トイレですかこれ」


 それは宿のトイレにあるものと同じ、木製の便座だった。中を覗いてみるとさすがに便器のような物は無く、穴が掘られているようである。底まで明かりが届いていないところを見るとそれなりに深い。用を足したら横の小山から土を取って埋めろということだろう。芸が細かいなあとマリコは感心した。


 改めて見ると壁際には床がせり上がって台になった部分があり、そこには例のトイレ紙の入った箱が置いてある。こんなことをするのはカリーネたちなのだろうなとマリコは思った。風呂はともかく野営地でもトイレは作っていたらしい。ついでとばかりに、マリコは用を足してからそこを出た。幸いにも、途中で誰かが乱入してくるようなことはなかった。


 改めて風呂場の外を回る。石の壁(ストーンウォール)なので窓は無いが、壁の上の方や下の端に小さ目の穴が開けられているところがいくつかあった。下側の穴のあるところには坂の下に向けて地面に浅く溝が掘られている。どうやら排水溝らしい。後ろ側に回ると壁の上から下まで石が縦長に出っ張った部分があり、その上から煙が上がっていた。


「煙突まで……、本当に芸が細かいですねって、屋根!?」


 周囲を一回りしたマリコは入口らしき場所まで来たところで驚いた。横から見る分には壁を見上げる形になるので、あるかないか分からなかったのだ。しかし、口を開けた入口の上側には、空と風呂場を隔てる石の屋根があった。この分ならもちろん入口だけということはないだろう。囲いどころか完全に建物のようである。


 入口から入ると、左側にさっきのトイレと同じ様に布が掛かったところがあり、その前にブーツが一足脱いであった。サイズと形からすると女物のようである。まだ給仕を続けているミランダ、見張りから戻って食べているミカエラ、マリコを送り出したカリーネと消去していくと誰が居るのかは明らかだった。


「サンドラさん、居るんですか?」


「あ、マリコさん来た。どうぞー、入ってきてー」


 マリコが声を掛けると、少し奥の方から返事が聞こえてくる。マリコは自分もブーツを脱ぐと掛かっている布をめくって中に入った。


 そこは二メートル角ほどの部屋で湯船は無く、代わりに右奥の角の部分が腰の高さ辺りまで床がせりあがって台になっている。床は地面のままではなくこれも石になっているようで、冷たさ除けか足拭きか厚手の布が敷かれていた。脱衣所ということなのだろう。サンドラの姿は無く、左側にまた壁が切れて布が掛かったところがある。


「あれ? サンドラさん?」


「もう一つ奥ー」


 その布の向こうからサンドラの声がする。それをめくると今度こそ風呂場だった。白い湯気に煙るここも広さは約二メートル角。手前半分が洗い場らしく、奥半分は床が一段高くなっている。その左側を湯船が占め、右側に焚口があって薪が積まれていた。そこにショート丈メイド服に裸足のサンドラが薪の枝を手に立っている。


挿絵(By みてみん)


「いらっしゃい、マリコさん。ちょうどいい感じに沸いたところ」


「お疲れ様です」


「それはこっちこそ。出掛けた先でお風呂とか、アドレーさんじゃないけど僥倖って感じ。それで早速、お風呂の入り方なんだけど……」


 少々の疲れよりお風呂の方が嬉しいらしいサンドラは説明を始めた。マリコを待っていたのはこのためである。要点としては、髪や身体を洗うのに湯船の湯を使うので、減った分は随時(ウォーター)で足して火を焚いて沸かして欲しいということだった。その辺りの加減は入っている本人の方が分かりやすいので焚口を中に作ったらしい。


「素っ裸でお風呂沸かすことになるのがちょっと間抜けなんだけどね」


 サンドラはそう言って笑った。マリコは気になっていたことを口にする。


「でも、このお風呂場、いろいろと凝ってますよね」


 さすがに扉は作れなかったようだが、魔法と手作業を組み合わせて、短時間で作った割りにはかなりの完成度だった。入口の布をめくっても外から直接脱衣所の中が見えないようになっている壁の配置や、湯気や煙が籠らないように作られた穴など、マリコがパッと見に気付いただけでもあちこちに工夫がされている。


「トーさんとカーさん、そういうの細かいから」


 二人セットになるとどんどん凝り始める、というかカリーネの要望にトルステンが何とか応えようとするらしい。愛ですねえと感心するマリコを残して「また後で」とサンドラは出て行った。


「さて、さっさと入って交代してあげないと」


 マリコは脱衣所に戻ると着ている物を手早く脱いで、順に浄化(ピュリフィケーション)を掛けていった。探検行の途中なので寝る時も寝巻きにはならず、風呂から上がったらまたこのメイド服に戻ることになるからだ。以前気にした「素っ裸で浄化(ピュリフィケーション)」も自分一人なので気兼ねなしである。


 お風呂セットを取り出して洗い場に入った。始めに使うことを考えて多目に張った湯を軽くかき混ぜてから汲んで――本当はよくないのだが――ザバリと一気に身体に掛ける。湯に当たった双丘が複雑に形を変え、心地良い熱さが身体の表面を撫でていった。


「ふううぅ……」


 思わずため息が出る。考えてみれば、こちらで目覚めてから一人で風呂に入るのは初めてだった。気兼ねしなくていい分楽だと思える反面、どこか寂しい気もする。どちらがいいのか、マリコには判断が付かなかった。


(おっと、いけません)


 扉が無く湯気抜き穴もある浴室はさすがにじっとしていると少々肌寒い。ひんやりした感覚に、マリコは我に返った。少し呆けていたらしい。さっさと、ではあっても次に入る人の事を考えれば手抜きもいけない。マリコは急いでかつ丁寧に身体を洗い始めた。

無駄に配置図入り(笑)。

こんな感じ、と分かっていただければ。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=289034638&s

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ