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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
315/502

311 探検隊、西へ 5

「どうしたんだ、これは!?」


「なんだかすごいね」


 しばらくして柴刈り兼見回りから戻ったバルトたちは、広場に張られたテントを見て目を丸くする。ミランダの大型テントを中心に、全部で四張りのテントが触れ合わんばかりにみっちりと並んでいた。本来ならそれぞれのテントを囲むように掘られるはずの雨避け用の浅い溝も、四張り全体を囲む形になっている。


「ああ、おかえりなさい。バルトにトーさん、皆さん」


「おかえりー」


「お、おかえりなさい……」


 横合いから口々に掛けられた声に、バルトはそちらに顔を向ける。それはかまどがあった方で、さすがに火元になるところとテントは距離を取ってあった。そこでは女性陣が食事の支度を始めており、しゃがみ込んだエゴンとオベドはそれぞれ目の前のかまどに火を入れているようである。


「ああ、ただいま。それでこのでかい天幕(テント)は……」


 そこまで口にしたところでバルトの言葉は止まった。


 肉や調味料が並んだ作業台の前で包丁を振るうマリコ、ミランダ、カリーネの三人に、流しで野菜か何かを洗っているらしいミカエラとサンドラ。特に珍しくもないはずの調理風景に、バルトは何か違和感を覚えたのである。


「サンちゃん、お水」


「ほーい」


 ミカエラの指示に、サンドラが足元の水瓶から柄杓(ひしゃく)を取ってミカエラの手元に水を掛ける。その様子を見守ったバルトはようやく違和感の正体に気が付いた。


「いや、おかしいだろう。いろいろと」


 バルトたちも折り畳みの簡易テーブルなどは持っている。しかし、今目の前に並んでいる作業台や流し台、水瓶はどう見ても簡易などというレベルの代物ではなかった。流し台こそ金属製の脚の屋外用の物だが、作業台は天板が畳一枚ほどもあり、水瓶は腰ほどの高さがある。明らかに宿の厨房で使われているような業務用サイズだった。改めてかまどに目を向けて見れば、その片方には人の胴体ほども太さのある寸胴鍋が載っている。


「私も始めはそう思ったんだけどね……」


 手を止めて顔を上げたカリーネが応じる。テントを張り終え、いざ食事の準備という時にマリコが取り出した流し台を見て、カリーネも十分驚いた。マリコはそれをダニーの雑貨屋で見つけたのだという。


 これは本来、農家の人が屋外で使うための物で、作業台より一回り小さな天板の半分が流しでもう半分が作業スペースになっている。宿の洗濯場にも同じ様な物があったことを思い出したマリコは、これを即座に買い求めた。


「どうせなら使いやすい方がいいじゃないですか」


「……ということなのよ。実際この通り、あると便利なのは確かだし、うちでも一つ買ってもいいかも知れないわね」


 胸を張るマリコにカリーネが頷いて続ける。調理にせよ獲物の解体にせよ、ただの机よりは流しがある方が使い勝手がいいのは間違いない。問題は持ち歩けるかどうかということだが、個人のアイテムボックスの容量はマリコほどではなくとも、バルトたちは五人(パーティー)である。誰かが一台持つなら十分可能だろう。


「じゃあ、この台とあの寸胴鍋は……」


「ええと、それは今回、厨房のを借りてきました」


 宿の厨房で使われているような、どころではなく、なんとそのものズバリであった。


「何でまた」


「いえ、今回は人数が多いということだったので、あった方がいいかなあと」


 続くバルトの疑問にマリコは淀みなく答える。何分(なにぶん)、マリコがこうして出掛けるのは初めてのことなので、どのくらい使えるものなのか確かめるために持ってきたものだった。もちろんタリアには断ってあるし、作業台は時々中庭に持ち出して使っているあれである。普段は厨房に無くても困らないことも分かっている。


 今回の道行きでいつもあった方が良さそうだということになれば、その時は自分用の物をダニーから買うか作ってもらえばいいとマリコは思っていた。いずれにせよ、アイテムボックス――とアイテムストレージ――の容量に任せた荒技ではある。


「あの寸胴鍋、もう中身が入っているように見えるんだが」


「そりゃ入ってますよ。朝の仕込みの時についでに作りましたから。中身はコンソメです」


「もしかして、それもお試しなのか?」


「ええ。移動の途中ではそこまで食事に手間を掛けられないって聞きましたから、何か準備できないかなって思いまして」


 いろいろと物が揃っているこの世界ではあるが、さすがに粉末スープや固形ブイヨンなどはまだマリコも見たことがなかった。しかし、ここにはアイテムボックスと魔法がある。中身がこぼれることのないアイテムボックスの特性と腐敗を防ぐ保存(プリザベーション)――もちろん折々に火も入れる――を組み合わせれば、作り置きの出汁を持ち歩けるのではないかとマリコは考えたのだった。


 出汁の有無は味の深さに係わり、調理の始めにこれが既にあるのとないのとでは掛かる時間は大幅に違う。具に肉が入る場合が多いことから出汁の種類はコンソメとした。これさえあれば、スープにシチューにとそれなりの味のものを手早く作ることができる。持ってきた寸胴鍋の量があれば、十二人が椀一杯ずつ使ったとしても二十食分近く取れる計算になる。試してみない手はなかった。


「マリコ、さんのアイテムボックスは一体どれだけ物が入るんだ……」


「マリコ殿であれば、作業台どころか小屋くらいなら持ち運べるのではないか?」


 感心したように言うバルトに、隣にいたミランダがどこか自慢げに胸を張ってマリコを見た。


「どうでしょう?」


 言われてマリコは考える。その頭に浮かんだのはプレハブの物置だった。鉄骨プレハブ造の建物はさすがにないだろうが、犬小屋を大きくしたような作りの地面に固定しない建物であればアイテムボックスに仕舞えそうな気がする。


「壁と屋根があれば、確かに安全そうですね。今度試してみましょうか」


「勘弁してくれ」


 バルトは遂に感心を通り越して呆れた声を上げた。

どんどん冒険っぽさが無くなっていくマリコさんの探検行(笑)。

次回、さらなる非常識が炸裂!?


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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