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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
314/502

310 探検隊、西へ 4

「さあ、野営の準備を始めるわよ」


「え、もうなんですか!?」


 並んで歩いてきたカリーネにそう言われて、マリコは聞き返した。傾斜のきつい――目のやり場に困る――坂道が終わり、宿泊予定地だという山の途中の広場に到着したところである。直接太陽は見えないものの、まだ夕方というには早く真上に見える空は昼間の青さだった。


「今から天幕(テント)を立てて食事の準備をしてってやるの、結構掛かるものよ。それにここ、山の東側だから日が沈む前に暗くなるわよ」


「ああ、なるほど」


 マリコが改めて周囲を見回すと、木々に囲まれているとは言え、道の片側――山の(ふもと)側――はある程度見渡すことができる。しかし、そちらに太陽は見えなかった。つまり、木の影になっているのではなく、山の尾根の向こう側に隠れているのだ。そういう意味ではこの場所は既に日没後であるとも言える。


(うぬぅ、いつの間にか方角を見失っていたとは……不覚)


 マリコは唸ったが、実際には途中から目の前の光景にばかり気を取られて方角など気にしていなかったのである。


「今日は天気も良かったから(たきぎ)を拾えば燃料も節約できるし……、ああ、かまどはアドレーさんたちが組んだのがあるのね」


 マリコの心中をよそにカリーネは話を続けた。見れば、広場の端の方に石を積み上げて作ったかまどらしきものが二つ並んでいる。そこらの石を適当にかき集めたように見えるものの、近付いたマリコが触ってみると意外にしっかりしていて崩れる様子もない。


「ああ、これは土系統の魔法で固めてあるんですか」


「こっちに来る時はいつもここで泊まってるって言ってたから、こうしておく方が便利よね」


(旅先で石積みのかまどを作るっていうのはよく聞く話ですけど、定期的に来るのならこれもありですか)


 魔法様々なところはあるが、初めて見る探検者(エクスプローラー)の、というかこの世界でのやり方にマリコは頷いた。


「じゃあ、手分けして始めるよー」


 さらに話を聞こうとしたところで慣れた感じのトルステンの声が掛かった。隣に立つイゴールと打合せをしていたようで、それぞれの(パーティー)でのポジションが窺える。見回りがてら薪を拾いに行く組とここに残って設営する組に分かれるようで、薪組はバルト、トルステンにアドレー組から三人、設営組は女性陣五人とアドレー組の残り二人となった。


「柴刈りはおじいさんたちに任せて、こっちはこっちで始めましょうか」


 経験と年齢から自然と設営組を率いる立場に収まったカリーネが冗談めかして言うと笑い声が上がった。


「トーさんがおじいさんなら、カーさんはおばあさんだよね」


「そうだね」


 カリーネの耳に届かない程度の声でミカエラがこそりと言い、サンドラがニヤリとして頷く。マリコが聞こえなかったことにして目をそらすと、賢明にも同じ判断をしたらしいミランダと目が合った。


「さて、まずは天幕(テント)からだな、マリコ殿」


「そうですね」


 二人はわざとらしく声を掛け合って作業を始めることにした。


 間に合わなかったマリコのテントもそうだが、ここでの標準的なテントは二本の柱を立てる、三角柱を横倒しにした形をしている。マリコの物であれば、柱は一メートル少々で床に当たる部分は二メートル角。一応二人が寝られる、テントとしてはほぼ最小の部類である。それ故に、ミランダがアイテムボックスから取り出した柱を見てマリコは言った。


「これ、長くないですか?」


「ん? それほどではないと思うが」


 それは約二メートルの長さがあった。マリコが注文したもののほぼ倍である。次いでミランダは敷き布を取り出した。まずこれを敷き、その上に屋根に当たるテント本体を広げて、それを柱で持ち上げる。その状態でテントの上端をロープで引いて倒れないように固定するのである。


「これ、大きくないですか?」


「ん? それほどではないと思うが、マリコ殿が頼まれた物よりは大きいと言ったではないか」


「いえ、それは聞きましたけど」


 聞いてはいたが、実物を見るのは初めてである。ここまで大きいとはマリコも思っていなかった。せいぜい四人用とか、そのくらいだと思っていたのである。しかし、二人して広げた敷き布は四メートル角ほどもあった。ほぼ八畳間と同じ広さである。一人一畳分なら八人が寝られる。


「ミ、ミランダ姫様!」


「お手伝いいたします!」


 敷き布を広げたところで、焦った表情のエゴンとオベド――アドレー組の残留部隊である――が、自分たちのテントを放り出して掛け付けて来た。続いてカリーネたち三人もやってくる。


「これ、マリコさんの?」


「いえ、これは……」


 代表するように聞いてくるカリーネにマリコは簡単に事情を説明した。


 ◇


「二人で扱うには大き過ぎるわよ、これ」


「不可能じゃないかも知れないけど、多分立てるの大変」


「私もそんな気はしたんですが……」


 呆れたように言うカリーネとサンドラ。エゴンたちが飛んできたのも同じ理由だった。マリコはそれに答えて、ちらりとミランダの顔を見る。


「仕方ないではないか。実家(うち)で使っているので、一番小さいのがこのくらいだったのだ!」


 ミランダが腕を組んで口を尖らせる。聞いてみると、都市部生まれのミランダは実際に自分だけで野営をしたことはないらしい。ナザールの里へ来る時にも転移門経由だったので野宿する必要は無かった。テントは一家――と随行者たち――で郊外にキャンプに出掛けた時に使ったことがあるだけだという。


「そりゃ、その人数ならそうなるわよねえ」


「この大きさなら、私たち五人でも十分寝られそうだね。いっそ泊めてもらう?」


 話を聞きえたカリーネが頷いていると、広げられた敷き布を眺めていたミカエラが振り返って言った。


「そうねえ。大体、これを張っちゃったら、全部の天幕(テント)が並び切れないもの」


 そう言って、カリーネは広場を見渡した。広場とはいうものの、元々アドレーたちが自分たちの宿泊場所にと手を入れた場所であり、そこまで余裕がある広さではない。彼らの中型テント二、三張りをある程度間を空けて立てられるくらいである。ミランダのテントを張るなら、ギュウ詰めに並べてあと三張りなんとかというところだろう。


「私はそれで構わぬ。マリコ殿はどうか?」


「ええと」


 さすがに一緒に寝たことはないが、ミランダとであれば今さらである。毎朝のように起こされているし、起こしに行ったこともあるのだ。しかし、カリーネたちが相手となると話が違ってくる。


(五人で雑魚寝ってことですか……。大丈夫なんでしょうか、それ)


「もしや、寝相のことを気にしておられるのか?」


「え!?」


 逡巡するマリコを見て、ふと思い出したようにミランダが言う。もちろん三人は聞き流しはしなかった。


「寝相?」


「何それ?」


「ひどいの?」


「いや、ベッドから落ちたのは見たことがない故、そこまでひどくはないと思う……が、蹴られる可能性は否定できぬ」


「ちょ、なんて事言うんですか、ミランダさん!」


「知らずにいきなり蹴られては驚くであろう。同じ天幕(テント)で寝るなら黙っておいていいものでもないと思うぞ」


「うぐ」


 同性ならではの明け透けさはあろうが、ミランダの言うことも間違いではない。マリコは返す言葉を持たなかった。予告無くいきなり蹴られるのは自分もイヤである。


 結果として、張られるテントは四張りとなった。ミランダの物に加えて、アドレー組で二張り、バルトとトルステンで一張りである。

ちなみに、途中で話の方向がヤバイと気付いたエゴンとオベドは、即座に耳を塞いで退避しています(笑)。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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